受験生期間が白亜紀を超えた

朝楽

第1話

これで何回目だろう…と言いかけ、嘘だ、と自分を罵った。

正確な数字を言うことは簡単にできる。途方もない数字の大きさを実感するために、わざと回数を忘れたように見せかけ、自分を騙していただけだ。

9999万9999回。あと一回で一億回になる。

この数字は俺が東大を受験した回数だ。


初めの一回からたぶん代わり映えのしない自室の窓を開ける。

涼しげな風なんて入ってこない。熱風だ。

目の前で火山が盛んに火山灰をまき散らしている。

地殻変動の周期が、この時代は活発なのだろう。今の時代は地学のフィールド学習にぴったりなのだが、あいにく東大受験には座学的知識以外は不要だ。


この家以外に、家はない。人の気配もない。当たり前だ。俺が東大をはじめて受けてから一億年たって、どうして人間が滅亡しないだろう?

核シェルターや月面移住計画など考えられたときもそういえばあったが、あれはどうなったんだっけ。それらは地球規模の変動を前に役に立たなかったか。あるいは、人間が争ったか、生きる意味を失ったか、覚えていない。

仕方のないことだ。あれから何千万年も過ぎたのだ。どうしようもなく、人間の記憶力は脆いものだ。


俺は窓を閉じ、机の上のノートや筆記具を端に寄せる。どうせ、今回も受かりやしない。受験というのは、受験会場に行き、問題を解き、しばらく経ってから掲示板に張り出された通知に自分の名前が入っていないことを確認する、年に一回の行事なのだ。受験勉強と受験は無関係だ。勉強時間を気にするのも辞めた。気が向いたら、勉強する。気が向かなかったら、こうして机の上を片付け、家の外に出る。


絶えずどこかの山が噴火しているが、何をそんなに怒っているのか分からない。地表の色は赤褐色と、随分変わってしまったものだ。俺としてはそんなものには目が行かない。強いて言えば、自分が足をつける星とは対照的な、静かな空の青だけ。

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