馬/鹿/蝶

濱野乱

第1話

とある国に、深い谷がありました。そこには蝶が群生しており、恋の季節になると、一斉に散って行きます。


一匹の蝶が、鹿のお尻に止まりました。鹿のお尻は隆々と盛り上がり、魅力的です。ここを終の住処にするのも悪くないと蝶は思いました。


羽休みしていると、蝶の目の前を馬が横切りました。


馬は長い首を曲げ、湖に口をつけました。馬の尻尾が誘うように揺れています。蝶は釘付けです。


面白くないのは鹿です。蝶をそれほど好いていたわけではありませんでしたが、忘れられるのも我慢なりません。


鹿は、雀に命じて美しい花輪を作らせました。花輪を首にかけると、蝶は祝福するようにその回りを飛び回りました。


水を飲み終えた馬が鹿の前を悠々と横切ります。それから悩ましげにいななくと、森に去って行きました。


移り気な蝶は、馬を追わずにはいられません。馬もそれを知っているから全力で走ろうとはしませんでした。馬は己の価値を高めることにしか興味がなく、蝶は目先の恋にしか興味がありませんでした。


残された鹿の元に、別の鹿が現れました。


「その花輪、よく似合ってるよ」


花輪をした鹿はなに食わぬ顔でこう答えます。


「あなたと会うからめかしこんだのよ」


二頭の鹿は結ばれ、子宝に恵まれて幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。

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馬/鹿/蝶 濱野乱 @h2o

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