第一の銃 撃鉄は死の足跡

 食べる音と皿が並べられる音が響くダイナーでマサヒロはインキの匂いがする雑誌を読んでいた。否、読まずとも表紙には脳天を貫かれた男の死体が明らかに何が起こったのかを示している。

 タイトルは、

 -煙に消えた殺人鬼、彼は正義か悪か。またも元犯罪者が殺害される-


 給仕ウェイトレスが持ってきた泥水のようなコーヒーを飲みこみながら、マサヒロは中身に目を通す。


 〜「ヴェーポリウムタウンのラバル警察署長は『犯人が分からないまま今回の事件を迎えてしまったことを遺憾に思う』と言葉から現状を伝えた。

 重要な証拠があるにも関わらず犯人を突き止められていないが、それは現場の、が邪魔をしているのか、という記者の質問には『現状では現場の保存を行い検証することで糸口を探している。』と述べ、

 現場にとされる道具については『どこで製作されたものか判別出来ていない、素人の作ではないことから密造されたものではないことは確かだ』と応えた。

 警察はこれまで使われた全武器の分析を行い、新たな証拠が見つかるまで捜査を続けると大々的に発表し、もしもなら、容姿を含めた情報をヴェーポリウムタウン警察署に報告してほしいとの由でインタビューを締めくくった。情報提供者には知らせた内容により、報酬金を出すとも伝えてある。

 ヴェーポリウムタウン、ドリームアップ新聞社 トレバー・サンダース」〜


 給仕ウェイトレスが空になった陶器のコップに黒インキのようなコーヒーを並々と注ぎ、そのまま割れんばかりの勢いでテーブルにたたきつける。それはさも注文オーダーがなければ出て行けと伝えているようだ。


 そんな嫌味たっぷりの行動をマサヒロは横目に流しながら、丁寧にコーヒーを胃に注ぎ込む。


 もうこれで同様の事件は四件目になる。なんとか泥水を飲み込みながらこれまで起きた事件の特徴を思い出した。

 ・ 第一に、殺された被害者は全員が過去に犯罪歴を持っていること。

 経歴は大半が殺しだが、これまでの被害者には関連がないのも捜索を困難にさせている原因だ。

 ・第二に、殺しの方法は単純明快、<<脳天を一撃>>である。しかし必ずどの死体にも一つの共通した特徴があった。

 それは両目は焼け焦げているか失明している、というものだ。これらの要素を含んだ事件が連続的に起きたことにより連続殺人の線が浮上したのだ。


 しかし、この事件は

 これは記者も記事の中でも触れているが、

 ・一つに、事件に使われた道具が現場に残されていること。

 ・二つに、殺しに使われる武器が事件ごとに違うこと。

 これ以上上げると際限がないが、主に普通の事件では重要といっても過言ではない証拠が残っているのにも関わらず、犯人像すら浮かび上がることはないままなのが現状である。


 しかしマサヒロには一つ誰もが見落としている「共通点」を見つけていた。それは次の殺しが行われる時間と場所を割り出す決定的な一打となりうるものだ。

 この発見が果たして証拠に繋がる銀の弾丸か、あるいは訛り玉か。

 自分を確かめるため、マサヒロは給仕ウェイトレスに十分すぎるチップを置いてダイナーを後にした。ドアが軽快よく閉まった後、彼の座っていた席には冷え切ったウィンナーが残されていた。


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光が遮るその前に。 やっほーう @Yahhou1111

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