第22話 体育館裏は侵略される。


 小早川は、ラストを飾る数学の試験が終わりを告げるとすぐ、江藤に話したいことがあると声をかけた。その時の江藤の驚きようと言ったら、まるで小早川が自ら話したいことがあると声をかけて来たかのような驚きようだった。そんなことが実際に起こったのだから、驚いて当然だろう。


 続けて、場所を変えたいと小早川は言った。僕はどうすべきなんだろうとぼーっとしていると、小早川からキッと睨まれたので、僕もその話を知っている風な態度を取って、距離を取りつつ二人について行った。江藤は一瞬びっくりしたように僕を見たが、すぐにホッと頬を緩めた。流石の江藤でも、今の小早川と二人きりで話すことにはそれなりの抵抗があったんだろう。


 帰る準備をして向かった先は体育館裏だ。小早川は、まず深々と頭を下げて、今までの態度を江藤に謝った。その時の江藤の驚きようと言ったら、まるで小早川から深々と頭を下げられ......うん、もういいや。


 そこから小早川は、このことは誰にも言わないでほしいとの前置きをして、自分の過去のことを話し始めた。江藤は目をウルウルさせながらその話を聞いていた。僕は、こう言うのがまともな人間のリアクションなんだろうかとついつい観察してしまった。


 そして小早川は、顔を赤くしたり青くしたり混ぜて紫色にしたりした後、絞り出したように、緒方さんから、江藤さんは、私と偽友達になりたがっていると言っていた、だから、万が一江藤さんがなってもいいと言うのなら、お願いしたいといった内容を江藤に告げた。ここでやっと、僕は小早川に対して一切の口止めをしていないことに気がついた。さっき目をつけたあの枝の太い木を早速有効活用できそうな状況だ。


 僕がしょうもない金魚の糞であることまで打ち明けるんじゃないかと心底不安になったが、ありがたいことに小早川はそのことについては言わないでくれた。しかし、江藤と小早川と僕で偽友達になって、なんなら三人で映研部に入ろうなんてことを提案したのが僕だということは、しっかりと伝えられてしまった。


 なんの相談もなく話を進めてしまったことに怒られないかビクビクしていたが、江藤はそれどころではないようだ。ついさっきまで江藤を取り巻いていたどんよりとした雰囲気はどこかへ吹き飛び、太陽が落ちてきたようにジメジメした体育館裏は明るくなった。一人太陽と北風とは恐れいる。しかし、そう簡単に飲み込めるような話じゃないと思うんだけど、こういうところはやはりすごいな、江藤。実際、そんな江藤の様子を見て、小早川もとりあえず安堵したようだった。それがいつまで続いてくれるかはわからないが、ともかく僕も一安心だ。


 江藤の感情表現がひとしきり終わったところで、僕たちはその足で職員室まで行って、風間先生の元まで行った。この三人で映研部を続けたいということを伝えると、風間先生は「......そっか」と笑って、僕の方に意味ありげな視線を送って来た。まさか、風間先生のバスケ部顧問就任を阻止するため僕が頑張ったとでも思っているのだろうか。そんな自意識過剰なところが、彼氏いない歴=年齢の原因の一つであることにいい加減気づいた方がいい。


「よし、じゃあ早速部室行くか!」


「え、今日からもう活動始めるの?」


 江藤が疑問を呈すると、風間先生が首をふる。


「いや、今日は掃除だ。もう二週間くらい掃除してないからな」


「あっ、なるほどね」


「......え、江藤、お前、いきなり何言い出すんだ......」


「......先生、そう言うのマジで辞めたほうがいいよ......ていうか啓介、さっきからずっと鳴ってるよ」


 顔を赤らめる風間先生を半眼で見た後、江藤が僕を見て言う。


「え? あ、うん」


 確かにマナーモードにしていたスマホが、僕のポケットで揺れていた......と言うレベルじゃない。生のピーマンを今にも口に押し込まれそうな子供のようにブルブル震え続けている。これを指摘されるまで察知できない僕の太ももはどうなってるんだ。一体どれだけの精子が犠牲になったんだろう。江藤じゃないが、こう

言うのマジでやめたほうがいいな。


 僕は風間先生の方をちらりと見ると、風間先生は「緊急事態かも知れないからな。許可します」と偉ぶりながら言った。僕は頷いてスマホを取り出す。そして、思わず落としかけた。


『羽ヶ崎:さっさと来い』


 を筆頭に、羽ヶ崎からのメッセージが連なっている画面に、僕はとれたてピーマンをそのまま丸ごと口にぶっ込まれそうになっている子供のように震えてしまった。なんで羽ヶ崎からメッセージ爆撃なんてものを......ああ、また来た。


「ど、どうしたの啓介、顔真っ青だよ?」


 江藤が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。僕は「あ、うん、全然大丈夫」と返す。もちろん大丈夫ではない。


『羽ヶ崎:あ、文香と小早川には言うなよ』


 えっ。


 僕は思わず周囲を見渡してしまった。どこかで羽ヶ崎に見られてるのか......ああ違う。羽ヶ崎は、僕と江藤が小早川と一緒に教室を出て行ったところを見ていたんだ。羽ヶ崎というよりクラス全員の視線を集めていたからなるべく離れて付いて行ったんだけど、羽ヶ崎にはお見通しだったのだろうか。


 しかし、来いっていったって、どこに行けばいいんだ......仕方なくラインを開き、恐ろしげなメッセージと可愛いクマのキャラが暴言を吐いているスタンプを下にスクロールして行くと、その答えは先頭にあった。


『羽ヶ崎:おい、体育館裏来い』


 体育館裏? なんで体育館裏なんだ? 何か秘密の話をするならもってこいの場所かも知れないが......羽ヶ崎が僕に秘密の話? ゾッとしないな。小早川が江藤に話しかけた時点で、僕が裏で何かしたと察しがついたんだろうか......。


 嫌な予感に冷や汗が背中を伝う。その間にも羽ヶ崎からは、ついには可愛くすらなくなった熊が目を覆いたくなるような誹謗中傷を吐いているスタンプが連投されてくる。既読をつけたのは失敗だったかもしれない。


「......すみません、ちょっと用事ができてしまいました」


「お、そっか。じゃあ今日は参加できなそうか?」


 風間先生がそう聞くと、小早川が不安そうな瞳で僕を見た。そんな目で見られたら、このまま学校から逃げ出して布団にくるまって明日を迎える作戦は実行できそうにないな。


「あ、いえ、終わり次第すぐに向かいます」

 

 そう言い残して、僕は下駄箱の方へと向かった。その間にも小早川は不安げな視線は僕についてまわり、僕は罪悪感に足を早めた。


 僕は下駄箱で靴を履き替え、体育館裏へと向かった。その間にも、嫌な予感は膨らむ。今の小早川をどうこうするのは難しいと言うのは間違いないが、よく考えれば、僕ぐらいだったら、羽ヶ崎ならいくらでもどうこうできちゃうだろう......。


 そして、体育館裏に着くと、いつもは小早川が座っているベンチに、脚を組みスマホを構っている羽ヶ崎を発見した。羽ヶ崎もすぐに僕の気配を察知すると、目を三角にして僕を見た。


「まったく、いつまで待たせるのよ」


「あ、ごめん」


 おかしい。表面上は不機嫌を装ってはいるが、その声からは隠しきれない機嫌の良さが溢れていた。なんなら、今まで僕が接してきた羽ヶ崎の中で一番機嫌がいいかもしれない。

 

 羽ヶ崎は「まぁ、座りなさいよ」とスマホを片手にしたまま、空いた手で自分の隣をポンポンと叩く。やはり明らかにおかしいが、叱責されるよりはいい。羽ヶ崎に導かれるまま隣に座って、体育館裏に似つかわしくない香水の甘い匂いにどきりとしながら「......それで、その、要件って」と切り出すと、羽ヶ崎は、あっさりとした様子で「どうなった? 文香と小早川」と言った。


「......えっと」


 羽ヶ崎の口調は小早川と江藤の間で何かがあったことを確信していたようだった。まぁ、小早川が江藤と一緒に出ていった時点で、何かあるのは間違いないと考えて自然だ。それに、これからどうせ、江藤と小早川が仲良くする様子は全校に公開されることになるのだ。


「その、なんか、小早川さんが謝って、仲直り、したみたいだけど」


「へぇー、ま、そうでしょうねー」


 てっきりもう少しネガティブな反応を示すかと思ったが、羽ヶ崎はスマホに視線を落としたまま気の無い返事だ。そして、そのままの調子で言った。


「ね、あんたって映画詳しくないのよね?」


「......う、うん、そうだけど」


 一体どう言う意図の質問だろうと不安になりながらも答える。


「小早川は?」


「......どうだろう、詳しく、ないと思うけど」


「そう。じゃ、映研部には私が必要ってことね」


「........」


 僕は思わず黙りこくってしまった。すると、羽ヶ崎が僕の肩をポンと叩いた。


「それじゃ、よろしく頼むわね」


「......え?」


「鈍いわね。私が映研部に入れるよう、小早川を納得させなさいって言ってんのよ」


「......え、うん」


「どうせ先輩がやってたみたいに入部制限とかかけてるんでしょ。過保護にもほどがあるわね。そんなんだから小早川、つけあがるのよ」


 ......一体羽ヶ崎は、どこまで知っているんだ。そしてそんなことより重要なのは、どうやって知ったか、だ。羽ヶ崎に呼び出された時点で想定していた最悪の考えが頭をもたげはじめ、悪寒に身が震えた。


 すると、羽ヶ崎がスマホから目を離し、僕の方を訝しげに見た。


「ん? 何よ? 小早川とあんたとアレが映研部に所属してなんかやってたってことは、とっくの前に知ってたわ」


「......あ、そうなんだ」


「そうよ。なのに黙っといてあげたんだから感謝して欲しいわね」


「............」


 それが事実なら、意外だ。羽ヶ崎なら嬉々として言いそうなのに。いや、小早川の噂とはなるべく関わらないようにしてたって言ってたもんな、そうか、それならいいんだけど。


「あの小早川がまともに部活動なんかするわけないから、何か事情があったんでしょう。例えばだけど、顧問があの風間だから、風間からなんか持ちかけられたとか、そんなところじゃないの? ま、どうでもいいけど」


 なかなかの推理を見せた後、それをあっさりと切り捨てる羽ヶ崎。そして、ふんと鼻を鳴らして続けた。


「途中から文香が映研に関わり始めてたのも知ってたわ。でも、その後すぐ元気なくなったから、小早川から相当拒否されたんだろうなって思ってた。ま、小早川からしたら同好会の人数は足りてるしね......それで、今日。小早川とあんたが文香を連れて出てったわけ。ああ、映研部に誘うんだわって思ったわ。アレが抜けて、あんたと小早川の二人だけじゃ、部活として成立しないからね」


 そして、やれやれと行った様子で肩を竦める。


「で、小早川は私を嫌ってて、映研部の前部長先輩が部員を断ってたことを風間から聞いてたのを思い出したから、普通に私が入部届けを出したところで断られる......は? 何?」


 そこで再び僕の視線に不純物が混ざったのか、羽ヶ崎は今度は不愉快そうに眉を顰めた。僕は慌てて口を開いた。


「その、なんで俺に頼むのかなって。俺じゃなくっても、江藤に頼めばいいことだと思うけど」


 当然の疑問だ。だいたい、映研部に入りたいのだって、江藤と同じ部活に所属したいから、という理由以外あり得ないんだから、なおさら直接言ったほうがいいだろう。恥ずかしいからとかそんな乙女な理由なんだろうか。


 僕の質問に、羽ヶ崎はむっとしかめっ面になった。そして、再びスマホに視線を落としてから、つまらなそうに言った。


「文香、いい娘なのよ。知ってる?」


「うん、もちろん」


「だから、小早川の方から頼まれたら、絶対に断らないわ。特にあんな気色悪い目にあったあとの小早川じゃあね」


「......うん」


 実際、江藤は偽友達という手段に抵抗は消えてはいないだろうに、快諾した。その江藤の善人性を利用した僕としては、非常に重い言葉だ。


「これから文香は、小早川に尽くすわ。で、私は小早川に嫌われてる......ま、そういうことよ」


 そういって、羽ヶ崎は大げさに肩をすくめた。つまり、江藤に頼んだって、小早川のことを優先して断られると思っているわけだ。いや、そんなことはないんじゃなかろうか。羽ヶ崎が態度を改めて、小早川と仲良くしようとしたら、江藤も応援すると思う。それに、小早川だって、羽ヶ崎の態度は自業自得だと思っている節があるから、羽ヶ崎の方から謝れば......どうだろう、無理か。


 ともかく、これから小早川を支えるのは江藤なんだ。僕がやるべき仕事じゃない。


「いや、江藤は、羽ヶ崎さんが小早川と仲良く『いや、僕はむしろ、江藤と関わりたいんだ。そのために、小早川に協力するんだよ』......え?」


 え、あれ、なんだ、ここで幻聴.....いや、全然違う。あの頭の中から喋りかけられているような感覚が一切ない。聞こえてきているのは、明らかに羽ヶ崎の方、それも、羽ヶ崎が持っているスマホからだ。


 ......ああ、うわ、最悪だ。

 

『あなたは、江藤さんのことが好きなんですか?......いや、全然好きじゃないよ』


 コポコポと、音を立てながら沈んでいくイメージが頭の中で流れた。強烈な落下感に襲われ、僕は思わずベンチの縁を掴んだ。


『僕は彼女の糞になりたいんだ』


「......ククッ、クククッ」


 小早川の『......ふぇ』が、不気味な笑い声にかき消された。羽ヶ崎が腹を抱えて華奢な肩をブルブル震わせている。


「アッハッハッハ! まさかあんたにこんなジョークセンスがあったとはね! 意外よね、いつもはろくなこと言わないのに!」


「...............」


 羽ヶ崎が足をバタバタさせて笑う。視界がボヤッとしてきて、彼女が八本脚の化け物に見えた。


 羽ヶ崎はしばらくの間、子供のように無邪気に笑ったあと、目尻に浮かぶ涙を拭って、垂れ流しにしていた音声を止めた。そして、今度は蠱惑的な笑みをうっすらと浮かべ、僕の方を見た。ブワッと額に汗が引き出す。


「いやね、あんた、なんか妙に悟ったような顔してたから、このままこの音声聞かせてもそんなに驚かないだろうなって思ったのよ。だから適当なこと言って一回油断させたわけ。どう、サプライズになった?」


 羽ヶ崎は僕に上機嫌に笑いかけ、輝く一等星を見つけたかのように、体育館の大窓あたりを指差した。


「体育館の二階......キャットウォークていうの? あそこ、校舎の二階と部室棟の二階をつなぐ外廊下から、大窓通って入れるじゃない? 結構重宝してんのよね。一人になりたい時とか、勉強に集中したい時とか。今日の昼休憩もそうしてたってわけ。もちろんあんたをつけてたとかじゃないから、気色悪い妄想はやめてね」


 そして、今度は後方に手を伸ばし、体育館の壁をペチペチと叩いた。


「ま、途中からはここにいたんだけどね」


 振り返ると、下の小窓が半開きになっていた。これでは、羽ヶ崎には僕たちの話が丸聞こえだったに違いない。いや、違いないもなにも、録音されてたんだから確定だ。


「しかし驚いたわ。あの小早川が自意識過剰のメンヘラ女だったとはね。そのくせあんな態度とるなんて本当に馬鹿な娘。自分のことを冷静に客観視できてないのね」


 羽ヶ崎はわざとらしい悲哀の表情を作る。


「ま、でも、小早川には同情の余地があるわよねぇ。なにせ何度も裏切られてきたんだものね。それに、もう文香には話したんでしょ? だったら大した弱みにはなんないわ。ていうか、被害妄想女の弱みなんて頼まれても握りたくないし」


 その悲哀の表情のまま、口の端だけ吊り上げて笑う。


「それに比べて......ふふふ」


 そして、羽ヶ崎が片手にスマホを持ったまま僕の両肩をつかんだ。そして、強引に体を向きごと変えられ合った羽ヶ崎の瞳は、僕の視線を捉えて離さないくらいに輝いていた。


「緒方、あんた、ほんっと最低ね!」


 まるでおもちゃを与えられた子供のように生き生きした声に、僕はただただ硬直するしかなかった。


「え? 何? 自分の親友がちょっとしたいじめにあって不登校になって? それに対してあんたはただただ傍観してた上いじめてたやつと仲良くなって? で、その親友に責められたから辛いです?」


 羽ヶ崎がくつくつと笑った。それに合わせて白い喉が揺れる。


「あんたそんなの、完全なる自業自得、というか完全なる加害者じゃない! 少なくともその東堂ってやつは、後藤ってやつよりよっぽどあんたのこと恨んでるわよ!」


(緒方って、本当に金魚の糞だよな)


 そんなことはもちろんわかっている。あの時の東堂を見れば、誰だってそう思うことだろう。


「あんたには本当に一切の同情の余地がないわ! あんたよくもまあ、そんな話を意気揚々と被害者面してできたわね! 私だったら絶対無理、恥ずかしすぎて死んじゃうわ! で、自分がどうしよもうないクズ......あんた風にいうなら自分が”糞野郎”だってわかったにも関わらず、改善のために何一つ努力することもなく人の後につきまとうことを選ぶなんて......本当に、本当に恥知らず!」


 羽ヶ崎は頬を赤く染めながらそう言うと、僕の肩からパッと手を離した。


「小早川も小早川ね、なんであんたの言うことなんて受け入れたのかしら。小早川からしたら、あんたみたいな人間性のやつが一番受け入れがたいと思ったんだけど。だってあんた、やってること小早川を無視した小学生と同じような精神性の人間じゃない。ま、自分より明らかに下のやつがいてくれたら安心するって気持ちは、わからなくもないけどね」


 そして、スマホの録音データを僕の眼前に突きつけた。


「しかし、こんな犯罪予備軍丸出しの語りが流失でもしたら、一体あんた、どうなるのかしらね」


 そう呟くと、僕の頭をポンポンと二回叩いて、「てことで、よろしく。あ、もちろんこのことは誰にも漏らしちゃダメよ」と言い残し、その場を意気揚々と去って行った。


 僕は、しばらくの間ボケーっと虚空を眺めた。そして、嘔吐するようにため息をついた。


 同級生の可愛い女子に弱みを握られ脅される、なんて展開にときめいていたあの頃の頭の弱い僕をボコボコにしてしまいたい気分だった。そんなものは、あくまで創作だからいいんだ。人の弱みを握って脅しをかけるような人格破綻者、どれだけ可愛かろうがイカれたやつに決まってる。そんなやつに弱みを握られているという状況が、どれだけ恐ろしいことか。


 ともかく、僕は羽ヶ崎に弱みを握られ、羽ヶ崎と小早川を和解させるなんていう無茶難題を達成しないといけなくなってしまった。いや、達成しなくてはいけない、なんてことはない。小早川が羽ヶ崎を拒否するようであれば、その時点で諦めて、例の音声が学校中に広まるのを受け入れればいい。


 ......待てよ、羽ヶ崎は大した弱みにはならないと言ったが、果たしてそうだろうか。小早川は江藤に自分の人生を語る時、他の人には黙っておいて欲しいと言っていた。あの音声が明るみになったら、小早川まで巻き込んでしまう......いや、そんなのは言い訳に過ぎない、まずは小早川に羽ヶ崎のことを......ああ、駄目だ、今口止めされたばかりじゃないか。

 

「......疲れたなぁ」


 やっとの事で口から出てきた言葉は、なんとも的を得ていた。僕は澄み渡った空を眺め、東堂の言葉に耳を傾けることにした。

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僕は彼女の糞になりたい。 蓮池タロウ @hasu_iketarou

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