episode11 call

「そういうわけなんだよ。」

流々るるさン?は、誰ですカ?女の子?」

「ああ、流々さんはprimaveraプリマベーラでよく会うお客さんの一人なんだ。とても背が高い男性でおっとりとした性格なのに、プロのギャンブラーなの。」


生霊がいたということは、ふうちゃん自身は半年前に流々さんとはぐれた後から今まで、どこかに身を潜めて生存しているということになる。

考え出すと不可解なことが山程あるし、風ちゃんの生霊と連絡が途絶えてから半日が経過しようとしていた。

このままだと風ちゃん自身の命が危ない。


僕は流々さんの連絡先を知らないし、他の人を巻き込むことも事の内容を考えると思い惑ってしまう。

残された時間を考慮するならば、彼がよく現れる金曜日にprimaveraへ足を運び、来店するのを待つという選択の余地もなかった。


「アシュリー、パピヨンに何かいい道具はないかな。」

「ありますヨ。で手を打ちましょウ。」

「これって……。お金……?」


彼女は華奢な左手の親指と人差し指で輪を作っていた。


「No!コマーシャルでやっていタ、ミスタードーナツ!ピカチュウのやつでス!」

「ド、ドーナツか。せめて両手で丸を作ってよ。時間がないって言ってるのにドーナツなんて食べてる余裕なんて。」

「腹が減っているト、戦ができませン。Let's go together. Please follow me!」


─────


彼女が導くままに、近くのショッピングモールのミスタードーナツに到着した。

嬉々として行列に並び、トレイに一つ二つとピカチュウのドーナツを並べるアシュリー。

こんなときに悠長なことをするものだと苛立ってしまいそうになったが、今は彼女に付き合う他はない。


「これト、チーズドッグ、汁そばト、コーラをくださイ。」

「よく食べるな……。」

「チーズドッグはベニマルの物でス。」


休日のフードコートの割に、空席が目立っていた。

すっかり日も暮れて夕飯時も過ぎかけているのだから当然といえば当然だろうか。

ウロウロする彼女の腕を引っ張り、人気ひとけの少ない窓際の角の席に並んで腰を下ろした。


「汁そばとチーズドッグはこのタバスコをかけると、おいしいヨ。Enjoy your meal.私は汁そばを食べル。」

「マイタバスコか。」


おいしい。

チーズとタバスコの刺すような辛味と塩味がマッチしてまろやかさも感じる。

そんなことよりも流々さんと風ちゃんの話を進めなければ。


「もしもし。どちら様?」

「……ぅ。」

「もしもーし。聞こえてますかー?」

「……ぅうぅ。行かなきゃ……。」


男性の声と女性のうめき声のようなものが交互に聞こえてくる。

Blunt medicine鈍くなる薬を飲んでいるため、周囲の心の声が聞こえるはずはないのだが。


「アシュリー、誰かと通話してる?」

「Surely this.このタバスコ、Animal communicationアニマルコミュニケーションというお薬。でモ、サリーが失敗しタ。」


以前アシュリーとサリーがパピヨンで遊んでいたときに、動物と会話ができるようになる薬を調合していたそうだ。

しかし、サリーが調合の配分を誤ってしまい、動物を通じて今一番話がしたい人と会話ができるようになるという奇怪な代物が出来上がってしまったそうだ。


「もしもし?その声はベニマルくん?どうしたの?」

「……ぅ。……お店に……。」


聞こえてくる声は紛れもなく流々さん、そして小さくうめき声を上げているのは恐らく風ちゃんだろう。


そして、その声はピカチュウのドーナツから聞こえていた。

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crowd 宮ノ森 紅丸 @yuzu0907

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