episode10 vanishing

生霊。


よくメディアで目にする生霊という言葉は、強い怨念や劣等感等の邪念が増幅し、自分の中に留めることができなくなり放出されたものを指すようだ。


類似した話では、ドッペルゲンガーと呼ばれるものもあり、自分自身と瓜二つの存在が世の中を闊歩かっぽする。

ドッペルゲンガーと自分が対峙すると、その者の寿命が尽きてしまうといういわれもあるほど有名な話だ。


ドッペルゲンガー……。

アシュリーの化身であるサリーはには該当しないのだろうか。

そんな様々な思考が入り乱れ、目の前のふうちゃんの形をした幽霊と向き合っている。


「え……、あ……、えっ?ベニちゃん、やめてよ……。」

「風ちゃん。僕はこの数時間、ずっと君の心の声が聞こえていたんだ。行きたい。行きたい。って言うものだから、どこへ行きたいのだろうって思っていたら違ったんだね。」

「やめてよ……、酔っ払ってるんでしょ!」

「行きたいんじゃなくて、っていう意味だったんだ。本当の君は今どこかで死の狭間にいるのかもしれない。」

「違うの、私は、違うの……。」

「よく思い出してごらん。ここprimaveraプリマベーラに幽霊が出ると言い出したのは半年くらい前の君だよ。半年前に何かなかった?」


相手は風ちゃんそのもので、一般の人にも認識されている。

しかし僕には今日の風ちゃんは視界にははっきりと映るものの、存在自体がひどくぼやけていて今にも消え入りそうな状態に見えていた。

もしかすると、この世に残された時間が少なくなっているのではないだろうか。


脳がパンクしそうだった。

もし仮に風ちゃんの生霊が自身を幽霊だと自覚した場合、生命の危機に立たされている自分の元へ戻ってしまうのではないだろうか。

今存在している生霊が消えてしまっては、本当の風ちゃんの居場所を知るすべがなくなってしまう。


「慌てなくても大丈夫。ゆっくり思い出そう。」


根拠のない言葉を並べながら冷静を装い、さとすように問いかけていった。


「あ……。あぁ……、思い出した……。ゴールデンウイークに流々るるとお花見に行ったの。そこで……」

「そこで?」

「どしたのー?風ちゃん涙目。ベニちゃんもうお店閉めるよー。」

「あ、美月さん……、わかりました……。帰ります。また来週。」


事を荒立ててはならない、風ちゃんの生霊をこれ以上刺激してはいけないと思い、足早にprimaveraを出た。

そしてスマートフォンを取り出し、すぐさま風ちゃんにLINEを送る。


【どんな些細なことでも構わないので、思い出したら連絡ください。】


文章を送るなり、すぐに既読になった。

そして返信もすぐに来た。


【山で流々とはぐれた】


そのLINEを最後に、風ちゃんからの連絡は途絶えた。

考えていたことが現実になってしまった瞬間だった。

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