巻54 東晋来の名族たち3
孔靖1 劉裕との出会い
孔靖、字は
つまり
ゆかりのある名族だ。
名前が
宋書上ではあざな呼びがなされている。
祖父は
父は
つまりどエリート家系である。
孔靖は会稽郡の孝廉に推挙された。
功曹史、著作佐郎、太子舍人、
鎮軍司馬、司徒左西掾となる。
ただラストの官職に移ろうか、
と言ったところで母が死亡。
喪に服すため、離職した。
と言う 401 年。
喪中であるにもかかわらず、
建威將軍、山陰令に抜擢されたが、
この要請は辞退した。
会稽と言えば、劉裕が
しばしばやってきた場所である。
会稽にやってきた劉裕を、
下賤のものとは知りながらも、
会稽を救った英雄であるから、と
来訪のごとに大いに歓待していた。
そんな孔靖に対し、劉裕、
心を開いていったのだろう。
会稽から孫恩を追い払った後、
孔靖の家に立ち寄り、語る。
「
間違いなく簒奪をなすだろう。
俺はこの山陰から起兵し、
やつを討ちたいと思うのだ」
すると孔靖は答える。
「山陰は
そしてあの者は、
未だ極位には就いておりません。
つまり、今はまだ晋の忠臣。
ことを興すのは、かの者が
実際に簒奪した後が良いでしょう。
その悪行が天下に
明らかとなったところで、
おもむろに
そうすれば、成功は
間違いなくなりましょう」
なるほど、確かにそうだ。
劉裕、この進言を受け入れた。
孔靖字季恭,會稽山陰人也。名與高祖祖諱同,故稱字。祖愉,晉車騎將軍。父誾,散騎常侍。季恭始察郡孝廉,功曹史,著作佐郎,太子舍人,鎮軍司馬,司徒左西掾。未拜,遭母憂。隆安五年,於喪中被起建威將軍、山陰令,不就。高祖東征孫恩,屢至會稽,季恭曲意禮接,贍給甚厚。高祖後討孫恩,時桓玄篡形已著,欲於山陰建義討之。季恭以為山陰去京邑路遠,且玄未居極位,不如待其篡逆事彰,釁成惡稔,徐於京口圖之,不憂不剋。高祖亦謂為然。
孔靖は字を季恭、會稽の山陰の人なり。名を高祖が祖の諱と同じうし、故に字にて稱す。祖は愉、晉の車騎將軍。父は誾、散騎常侍。季恭は始め郡孝廉に察せられ、功曹史、著作佐郎、太子舍人、鎮軍司馬、司徒左西掾となる。未だ拜さざるに、母が憂に遭う。隆安五年、喪中にて建威將軍、山陰令に起つるを被らんとせど、就かず。高祖の孫恩を東征せるに、屢しば會稽に至り、季恭は曲意禮接し、贍給せること甚だ厚し。高祖は孫恩を討てる後、時に桓玄の篡ぜんとせる形の已に著しかれば、山陰にて義を建て之を討たんと欲す。季恭は以為えらく「山陰は京邑より去路の遠く、且つ玄の未だ極位に居さざれば、其の篡逆の事の彰らかたるを待つに如かず。惡稔の成るを釁い、徐ろに京口にて之を圖らば、剋さざるを憂わざらん」と。高祖は亦た然りと為したらんと謂ゆ。
(宋書54-1_規箴)
ここで聞いたアドバイスを劉裕、ドヤ顔で
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054888378931
原文中だと曲意禮接って表現がちょっと気になる。「曲」を自分の意志を捻じ曲げてと読むか、あるいは今まで思っていたことを思い直して、にするのかが難しいところ。南史ではここに別エピソードを挟み込んでます。こんなの。
過季恭宅,季恭正晝臥,有神人衣服非常,謂曰:「起!天子在門。」既而失之,遽出,適見帝,延入結交,執手曰:「卿後當大貴,願以身為托。」
季恭が宅を過ぎるに、季恭は正に晝臥せば、神人の非常なる衣を服せる有り、謂いて曰く:「起つべし! 天子、門に在り」と。既にして之を失わば、遽て出で、帝に見ゆる適い、延べ入りて結交し、手を執りて曰く:「卿は後に當に大貴たらん、願わくは身を以て托したるを為さんことを」と。
劉裕が孔靖の自宅前を通過した時に孔靖は昼寝をしていたのだが、いきなり夢にすごい服着た神の使いが現れ「起きろ! 天子が家の前に来ているぞ」と叱った。慌てて目を覚まして門の外に出てみると、そこにいた劉裕を見て近づき、その手を取って「あなたはのちに富貴となられるだろう! どうか私に手助けをさせては下さるまいか!」と言って「曲意禮接」したらしいんですよ。このニュアンスだと「心を入れ替えた」になるんでしょうけどね。
個人的には孔靖が内心では軽蔑し切りながらそれでも形勢を読んで劉裕に協力してましたって方向のほうが生臭くて好きです。
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