SF・超次元伝説:2人目の森宗意軒と3人目の宮本武蔵

 恐竜系知的生命体ディノサウロイドが森宗意軒と天草四郎の前に出現したのと、ほぼ同時に、「それ」は太陽系の片隅に姿を現した。

 やがて、「それ」は、ある楕円軌道を描き、太陽の回りを公転し始めた。ただし、その軌道は……三百五十余年の後に、地球に激突する軌道であった……。

 世界の破滅を願う森宗意軒が最も呪っていたものが「その場所」だったが故か、森宗意軒の「忍法・異世界転生」を利用して、「それ」を、この世界に送り付けた者が森宗意軒への嫌がらせのつもりで森宗意軒が居る辺りに「それ」を落そうとしたのか、さもなくば偶然か、はたまた、人知を超えた理由が有るのか……「それ」が激突する確率が、もっとも高い場所は……日本列島であった。

 「それ」は少しばかり大きいだけの岩の塊に過ぎなかったが、同時に、地球の生態系を無茶苦茶にする可能性を持っていた。

 森宗意軒本人は、気付いていなかったが、恐竜系知的生命体ディノサウロイドは偶発的に巻き込まれて、この世界に来たに過ぎず、森宗意軒が、真に、この世界に「異世界転生」させてしまったモノは……生命体ですらない、この岩の塊だった。


「生キテルカ? コノ世界ノ私ヨ?」

「ん?……な……なんじゃ、お主はッ?」

 生贄として誘拐さらった娘が住んでいた村の村人達から袋叩きにされかけた挙句、山火事に巻き込まれた森宗意軒が意識を取り戻した時、目の前に居たのは奇怪なる機械であった。

「私ハ別ノ世界ノ君ダ。カツテ、自分ノ世界デ大イナル罪ヲ犯シ、ソノ償イノ為ニ、数多アマタノ世界ヲ巡リ、ソレゾレノ世界ノ歪ミヲ修復シ続ケル者ダ」

「その妙ちきりんな話し方は何とかならんのか?」

 森宗意軒は、二一世紀の者が見たなら、「銀色のゴリラ型ロボット」とでも評するであろう「それ」に言った。

「アア、コノ体ヲ手ニ入レタ世界デハ、さいぼーぐ差別ガ酷クテナ……。さいぼーぐノ発声器官ハ、コウ云ウシャベリ方シカ出来ナイヨウニ、法律デ制限サレテイルノダ」

「サイボーグ?」

「アァ、ソウダナ……体ヲ機械カラクリニ置キ換エタ人間……ト言エバ判ルカ?」

「つまり、そんな姿をしているしちょるが、心は人間と云うちゅ〜こつか?」

「ソウダ……ソシテ、君ニ言ワネバナラヌ事ガ有ル……君ガ行ナッタ『忍法・異世界転生』ノセイデ、コノ世界ハ滅ブ」

「ああ、それそいが儂の願いじゃ。儂らの仲間殺した幕府公儀も、儂らを見捨てたでうすも、皆、死ねば良か」

「困ッタナ……マァ、ドノ世界デモ『森宗意軒』ハ、ソンナ奴バカリダガ……」

「よく判らんが、似たような世界がいくつも有って、そのどこにも儂が居て……そして……」

「ソウダ……ソノ大半デ、天草ノイクサハ負ケ戦ダ……」


「しっかし……こんがりと焼けてしもうたのう……」

 森宗意軒は、一面の焼け野原と化した山林を、ナックル・ウォークをしながらついて来る自称「別の世界の自分」と共に、とぼとぼと歩いていた。

「『忍法・異世界転生』ガ引キ起スデアロウ惨劇ハ、コンナものデハ無イ」

「何が起きるんじゃ?」

「マズ、日本列島ニ焦熱地獄いんふぇるのガ顕現スル。ソシテ、日本列島ハ海ノ藻屑ト消エル」

「ほう、で、日本の人間は逃げる暇は有るんか?」

「無イ。仮ニ、逃ゲラレテモ、逃ゲ場ハ無イ」

「いい気味じゃが、どうこつじゃ?」

「日本ニ焦熱地獄いんふぇるのヲモタラシタものハ、続イテ、残リノ全世界ニ極寒地獄こきゅーとすヲモタラス。コノ世ノ全テガ闇ト氷ニ覆ワレル。太陽ノ光ハ大地ニ届カズ、作物ヲ育テル事モ出来ナクナリ……人間以外ノ生命モ死ニ絶エル」

あのあんチビ介に、そんなそぎゃん力が有るとか?」

「違ウ……君ガ、本当ニ、コノ世界ニ『異世界転生』サセタものハ……」

 その時、新たなる時空の門が開いた……。


「見付けたぞ〜‼ 森宗意軒‼」

「ああ、なるほど。本当は、これこいが来る筈じゃったのか。確かに、世界滅ぼす力ぐらい有りそうな恐しいおそろしか姿じゃの」

 現われたのは、身長約八尺(2・4m)、ボロボロの着物を着て、を持った、鬼のように頭に角が生え、口から牙が延びている、赤黒い肌の人型生物だった。

「バカモノ〜‼ 逃ゲルゾ〜‼」

「これは都合が良い。儂をこの姿にした森宗意軒と、この世界の森宗意軒……仲良く、そろっておるでは無いか‼」

 轟ッ‼

 鬼の手に有る櫂の形をした金属塊は、颶風と化した。

「危イ‼」


「何じゃありゃあッ⁉」

 半壊しながらも走り続ける自称「別の世界の自分」の背中にしがみ付きながら、森宗意軒は、そう尋ねた。

「宮本武蔵ダ……」

「はぁ?」

「別ノ世界ノ宮本武蔵ダ……。若イ頃ヲモ超エル力ヲ与エル代リニ、我ガ配下トナレ、ト言ッタノダガ……チョット、まにゅあるヲ読ンデイナカッタセイデ……行キ違イガ有ッテナ……」

「何をうとるんじゃ?」

「別ノ世界ノ忍法『ばいお・そるじゃー転生』ヲ、アノ宮本武蔵ニカケタノダガ……人間トハ、カケ離レタ、アノ姿ニナル事ヲ見落シテイテナ」

「つまり、お主が、別の世界の宮本武蔵とやらを、あの姿にしてしまい、それそいで、怨まれとると云うちゅ〜こつか?」

「理解ガ早クテ助カル」

「お主、あっちこっちの世界に行っとると云うちゅ〜のは、御大層な理由じゃなくてのうてあのあん『宮本武蔵』から逃げ回ってるだけじゃないのかなかとか?」

「ア……片足ガ限界ダ……」

「質問に答えんかッ⁉」

「モウ……走レナイ……。君ノ質問ニ答エル前ニ……我々ハ殺サレル」

 だが、その時……。

「おりゃあああああ〜ッ‼」

 宮本武蔵の脇腹を片鎌槍が刺し貫いた。


「な……何奴じゃ?」

「宝蔵院胤舜が弟子・丸橋忠弥、義により助太刀いたすッ‼」

 そこに居たのは、その宝蔵院胤舜に匹敵する体格の若い侍だった。

「義じゃと? 何を言うておる?」

 宮本武蔵は脇腹に刺さった槍を抜きながら、そう言った。

「だって、お前の方が、どう見ても悪者……」

「阿呆が〜ッ‼」

「ええええ?」

 丸橋忠弥と名乗った侍の体は、持っていた槍ごと宙に浮いた。手負いの筈の宮本武蔵が、片手で、それを成し遂げたのだ。

忿ふんっ‼」

「うわっ‼」

 武蔵は丸橋忠弥ごと、槍を振り回し……ガツンッ‼

 だが、宙を舞わんとした丸橋忠弥に救いの手を差し延べたのは、彼すら超える筋肉の塊であった。

「柳生宗矩が娘・柳生茜……義により助太刀をいたしまする」

「はて? 宗矩めに、そんな娘など居たか?」

「な……なんと……美しい女性にょしょうじゃ……」

 茜を見て頬を赤らめた丸橋忠弥に対して、宮本武蔵は吐き捨てた。

「勝手にやっておれ〜ッ‼」

「茜〜‼ 大丈夫か⁉」

「今度は、どこの女じゃ〜ッ⁉」

「男じゃ〜‼ 柳生左門友矩、義により助太刀……」

「もう、訳が判らん」


 丸橋忠弥・柳生左門・茜の3人の豪傑を持ってしても、宮本武蔵の相手では無いかに見えた……。

 しかし、宮本武蔵は、最終的に、何故か「こんな訳の判らん事態には付き合いきれん」とでも言いたげな表情になり、去って行った。

「あ……あれは……一体……」

「全テハ私ノセイダ……。シカシ……奴ハ……オ前モ狙イ続ケルゾ……コノ世界ノ私ヨ……」

「どうこつじゃ?」

「奴ハ……全テノ世界ノ『森宗意軒』ヲ殺シ尽セバ……人間ニ戻レルト信ジテオル……」

「はて? やっぱり意味が判らん。じゃから、どうこつじゃ?」

「時間ガ無イ……。ソレヨリモ大事ナ事ヲ言ウゾ」

「胡麻化すな‼」

「イヤ……私ノ体ハ……間モ無ク壊レル……ソノ前ニ……オ前ニ頼ミガ有ル」

「仕方なか……早う言え……」

「オ前ガ……コノ世界ニ『異世界転生』サセタ『石』ヲ粉々ニ砕クスベヲ探セ……」

「石?」

「ソウダ……ソノ為ニハ、マズハ……アノ宮本武蔵ガ持ツ他ノ世界ニ行ク為ノ機械カラクリヲ奪イ……オ前モ、世界ノ間ヲ渡ル旅人トナリ……イズコカノ世界ニ有ルヤモ知レヌ『石』ヲ砕クスベヲ見付ケ……コノ世界ニ持チ帰ルノダ……」

「言いたい事は色々有るが……命を助けられた以上、お前の願いを聞くのが筋かも知れん……。いや、お前のせいで命を狙われてるような気もするが」

「スマヌ……ダガ、急ゲ……コノ世ガ地獄ト化スマデ……アト……タッタ……三百五十余年シカナイ……」

「はぁッ⁉」

「逃ゲロ……ソロソロ……コノ体ハ……爆発スル……」

 ちゅど〜ん♪

「しかし……この世が地獄と化すなら……何とかすべきやも知れませぬが……三百五十余年とは、随分と先ですな……」

「やるにしても、気長にやっても罰は当たるまい……」

「でしたら、我々、兄妹は、他に所用がございます故、そちらを済ませてから、森宗意軒殿と丸橋殿に合力つかまつろう、行くぞ、茜」

「はい……兄様」

 そして、成行きから世界を救う為の同志となった4人は二手に分れた……。

「しかし、あの左門殿とか云う女性にょしょう……どこかで見たような気がするが……齢のせいか、目が霞んで良く判らん」

「森宗意軒殿、あの御仁は男では?」

「そうかのう? まぁ、気にするほどの事でも有るまい」

「時に、拙者、師の宝蔵院胤舜と武者修行の旅をしている途中にはぐれてしまいましてな……どこかで、図体のデカい槍を持った坊主を噂を聞きませなんだか?」

「あ……あ……あぁ……聞いた事……いや、残念じゃが、無い」


「(異種族の固有名詞らしいが理解不能)が御願い奉る。神(意味不明。別の時空の強大な権力者・科学者・魔術師・超能力者などと思われる)よりも魔王(意味不明。先程の『神』の敵対者と思われる)よりも旧き、偉大なる太古いにしえの(って、事は、こいつらは、ウチらから見て『同じ世界の未来』の存在なのか?)竜の女帝『スー・ティラノ・サウルス・レジイナ』よ……。御身の眷属を、この世界に遣わし給え」

 めんどくせぇッ‼ こっちは、それどころじゃないんだよッ‼

 ウチの名はスー。伝説の「ティラノサウルス類最強の女の子ティラノ・サウルス・レジイナ」の名前と称号を継ぐ者の一二〇〇○代目ぐらいだ。

 太古の昔から、どうも、他の時空に居るらしい痴的生命体が、時々、ウチらにテレパシーで「生贄を捧げるので、願いを叶えてくれ」と言って来る事が有る。もちろん、その「生贄」が、ちゃんと届いた事は稀にしか無い。どうやら、連中は、ウチら竜の種族を「おだてれば、願いをかなえてくれる便利な存在」だと思ってるらしい。まぁ、竜の種族に0・1%ぐらいの割合で存在する「超能力者」の中に、面白がって、その阿呆どもに力を貸してやるヤツが、たまに居るせいだが。

 けど、残念ながら、今は、「遊びで、他の時空に居るらしい痴的生命体に力を貸してやる」ような暇や余裕は無い。

 少し前に、空に現われた凶星……あれは、地球に激突すれば、エラい事を引き起すであろう巨大隕石だ。

 しかし、竜の種族の中でも、肉体のみならず超能力においても、現世代最強を誇るウチの力をもってしても、あれを何とかする手段は……いや、待てよ。

 さっき、ウチにテレパシーで話しかけてきた阿呆の心に一瞬だけ触れた……。

 その阿呆の心は、自分の種族と自分の世界、そして、神とか云うクソ強大な権力者だかバカ強い超能力者だかへの憎悪で一杯だった……。

 よし、判った。そんなに、自分の世界を破滅させたいんなら……。

 ウチは、どこかの阿呆が、わざわざ開いてくれた他の時空への穴を更に広げて、この世界に破滅をもたらすであろう巨大隕石を、そいつの世界に……。


 森宗意軒も、ティラノサウルスのスーも気付いていなかったが、この時、この世界は、更に2つの平行世界に分岐した。

 1つは、恐竜が滅び、哺乳類が地球の支配者となり、その中から人間が生まれ、その人間の1人である森宗意軒が「忍法・異世界転生」を編み出す世界。

 もう1つは、恐竜が滅ばなかった為に、人類が生まれなかった世界。その世界では、人類の代りに、様々な恐竜系知的生命体ディノサウロイドが生まれ、その中には、前者の世界の「日本人」が「烏天狗の出来損ない」と評するであろう姿の者も居た。……奇しくも、その恐竜系知的生命体ディノサウロイドの中でも「烏天狗の出来損ない」が栄えたのは、前者の世界で人間が栄えていた時代に、相当する時代だった。

 ともかく、後者の世界のティラノサウルスのスーは、隕石が衝突しなかった地球で、それなりに平穏な一生を送って、後継者が名前と称号を受け継いだ後、老衰で眠るように死んだ。そして、何故か、この世界の恐竜達は、その後、他の時空に居るらしい痴的生命体(今更ですが誤字ではありません、念の為)からの、意味不明なテレパシーに悩まされる事は無くなった。

 一方、前者の世界の……日本の暦で云う「寛永二〇年」に「異世界転生」してしまった巨大隕石は……まぁ、地球に激突し、住人たちが逃げ出す暇さえ無いほどの短時間で日本列島を壊滅させ、地球の残りの部分にも長きに渡る闇と氷の時代「極寒地獄コキュートス」をもたらす頃には、この物語の登場人物のほぼ全ては寿命で死んでいるので、大して気にする事でもあるまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忍法・異世界転生─天草四郎と恐竜型知的生命体の受難─ @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ