第3話 昇任試験
ミケル、ルーシェ、セレス、曽祖父の4人が試験会場に到着したとき、そこにはすでに大勢の訓練生たちの姿があった。
「これみんな受験するのかぁ」
「でも大半が落ちる。昇任試験ってのはそういうもんだ」
昇任試験は、相手を気絶させるかギブアップするまで戦う。武器は木刀のみ。
これらのルール以外のことは基本的に自由。
試合状況は4人の上級使者によって審査され、各ブロックの優勝者が選考対象となる。
3人が受付を済ませロビーで待っている時もミケル1人だけ頭を悩ませていた。
(なりたいものって一体なんなんだ、何考えてもできないじゃないか。ルーシェと同じ時間同じ訓練を受けてるのに、僕だけできないのはなんでだ。あぁ、考えれば考えるほどわからなくなる…)
試合の時間は刻一刻と近づき、トーナメント表が発表された。
ミケルはBブロック、ルーシェはCブロック、セレスはDブロックに振り分けられた。
「いいかお前たち、擬態は極力使うな。お前たちの体力では1回30秒が限界だろう。セレスとルーシェならわかると思うが1回使えば擬態が解けた直後は急激な体力低下でほとんど動けない。だから、限界までとっておいてココぞという時に使え、わかったな」
「はい!」
「ミケル、お前はまだ擬態できないが周りも同じような奴らばっかだ、お前なりにがむしゃらに戦え」
「はい!」
ミケルは気持ちを切り替え、覚悟を決めて第1戦に臨んだ。
Bブロック第1戦【ミケル対ロザリオ】
「それではよーい、始めっ!」
審判の合図とともに相手のロザリオはミケル目掛けて飛んできた。
ロザリオは示現流という剣術を会得していた。
示現流の特徴は電光石火の初太刀に全身全霊をかけ、一撃のもとに敵を斬り伏せる。
つまり、ロザリオは開始早々ミケルとの勝負を終わらせようとしていたのである。
初戦の緊張からロザリオの動きに少し反応が遅れ、ロザリオの木刀がミケルの首元をかすった。
(危なかった…あと少し反応が遅れてたら完全に脳天いかれてた。緊張するな、勝つんだ!)
一撃目が決まらなかったロザリオはすぐに2撃目の準備をした。
(まただ…来るぞ、構えろ!)
ロザリオは一撃目と同じようにミケル目掛けて飛んだ。
ミケルはすぐに陽の構えを取った。
陽の構えとは、右足を後ろに引き体を右斜めに向け木刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構え方である。
大きく半身を切ることによって相手から見て自身の急所が集まる正中線を正面から外し、自身の刀身の長さを正確に視認できないように構える。
この構えの特徴として、相手からの奇襲攻撃に対する回避、迎撃に有効である。
ミケルはロザリオの一撃をかわし、すかさずカウンターとなるの一撃を放った。
ロザリオは倒れこみ再起不能。気絶と判断されミケルは無事勝利を収めた。
「ミケルさん、おめでとう!」
「最初危なかったぞ」
「わしの言った通り相手は一撃必殺にかけてきただろ」
「うん、訓練の成果ちゃんと出せたよ!」
昇任試験は試合数が多いため、初戦や第2戦は体力温存を目的とした一撃必殺の技を仕掛けてくることが多い。
それを知っていたセレスの曽祖父は、あらかじめ3人に迎撃の訓練を数多くさせていた。
その甲斐あって、ミケルに続いてルーシェとセレス2人も難なく初戦を突破した。
その後、順調に勝ち進んでいった3人はそれぞれが優勝をかけた大一番に直面した。
「頑張れ、ルーシェ!」
「頑張ってください!」
「全力で行ってこい」
「ありがとう、行ってくる」
Cブロック決勝戦【ルーシェ対トニー】
「よーい、始めっ!」
審判の合図と同時にルーシェは思わぬ行動に出た。
ルーシェは開始早々擬態したのである。
これには会場も大盛り上がり。
ミケルとセレスは目を疑い、セレスの曽祖父は呆れた顔で見ていた。
しかし上級使者の4人は、ルーシェが早々に擬態したことよりも、ルーシェの目の色に驚いた。
「ほぅ、黒か。しかも深い」
「漆黒の堕天は久しく見てないね。今年はアタリかも」
「良い新人ちゃんになりそうね」
「あ、あの時の...」
上級使者4人はルーシェに興味を示し、試合を見た。
堕天化したルーシェは一気にトニーへ攻撃を仕掛ける。
「“黎明”」
ルーシェが黎明と唱えると、ルーシェの背後から大量の光が放出されトニーへと降り注いだ。
光が止むとそこには佇むルーシェと悶えるトニーの姿があった。
トニーは続行不可能と判断されルーシェは見事に勝利した。
それを客席で見ていたミケルは擬態の可能性に感心していた。
「すごい、擬態するとあんな技が使えるのか」
「あんなもんじゃないぞ、使い方によっては無限大だ」
試合から帰ってきたルーシェはミケルに言った。
「次はミケルの番だ。決めてこい」
「任せろ、擬態できなくても合格してみせるよ!」
Bブロック決勝戦【ミケル対ロナ】
「よーい、始めっ!」
「君カウンターでここまで勝ってきてるらしいけど、今回はそうはいかないよ」
「かかってこい!」
「じゃあ、いくよ」
その言葉と同時に2人は激しい打ち合いを繰り広げた。
しかし、剣術の腕は互角であったため勝負が決する攻撃を当てることはお互いにできなかった。
故にこの勝負は擬態できる方が圧倒的有利な立場にあり、ミケルにとって最悪な展開となった。
堕天化したロナはミケルに対して一方的に攻撃した。
ミケルは避けるのがやっとで、攻撃にまで手が回らなかった。
体力が限界に達し反応が出来ず、ロナの一撃をもろに受け、ミケルは倒れた。
ミケルは倒れている時、自分に何度も問いかけた。
(ここで終わりでいいのか、立て、立て)
(なりたい...みんなを守れる強い使者に、なりたい!)
誰もが勝負は決したと思ったその時、ミケルは立ち上がり、そして昇天化した。
予想外の展開に会場の熱気は最高潮に達した。
「これで決める。“最後の審判”」
ロナを含め会場にいたほとんどがミケルの動きについて行けず、ミケルは凄まじい速さでロナの胴体を切り抜いた。
ロナが気絶しミケルが勝利した直後、続けてミケルも気絶した。
初めての昇天化による体力消耗で身体は限界を超えていたのである。
「もう1人興味深い子がいたね、ウリア」
「あぁ、あの速さについていけた奴はそういないだろうな」
「有能な新人ちゃんが2人も♡」
「あ、あいつもあの時の」
ミケルもまた上級使者たちの話題になっていた。
それから少し経ってミケルが目を覚ますと既に昇任試験は終わっていた。
「あれ、僕負けた?」
「勝ちましたよ! しかも、昇天化して!」
「ほんと! あれ夢じゃなかったんだ!」
「ミケルさん、すっごい速くて私にも全く見えませんでした」
「あんまり実感ないけど...あ、セレスちゃんはどうだったの?」
「ミケルさんが寝てる間にしっかり勝ちましたよ」
「寝ててごめんなさい...あれ、ルーシェは?」
「ここにいるよ。ミケル頑張ったな、お疲れ様」
「うん!」
楽しく3人で話していると、そこへ審査結果を聞いたセレスの曽祖父がやってきた。
「お前たち3人とも合格だ、おめでとう」
「やったぁ!」
3人は素直に喜んだ。
「早速昇任式だ、行ってこい!」
ミケルとルーシェは昇任試験に無事合格し、昇任式へと向かった。
天の使い 本を読まない小説家 @iiru
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