第34話 ササノハサマの憂鬱
今日も来ない。
誰も来ない。
明日は来るかな? 来ないかな?
来るはずないよね……
だって、おうちの前は草がぼうぼうだし、
お団子のイイにおいもしないし。
忘れられたのかな。
忘れられたんだよね。
あーぁ、
なんかやだな……
仙右エ
楽しかったなぁ……
怪我を直してくれて。
お団子くれて。
お返しに家族を守って。
お団子もらって。
お米育てて。
お団子もらって。
商売繁盛で。
お団子もらって……
でも、
仙右エ門が往って、
おとよも往って、
きのすけも、よしも、おかねも、とみぞうも往って、
それから誰だっけ……
まぁ、とにかくみんなみんな召されて。
お団子もらえなくって。
草ぼうぼうで。
雨漏りもして。
誰かが呼んでくれないと、自分の名前だって忘れちゃう。
このまま消えてなくなりそう……
ササノハサマと呼ばれるその存在は、小さな体を丸めて横たわり、たわわに実った稲穂にも似た黄金色のしっぽに顎を乗せて目を瞑った。
◇◇◇
ガタゴトと祠が揺れる音にササノハサマの三角の耳がピクリと動く。
誰か来たのかな。
でも、パンパンって音がしないし……
ササノハサマはうっすらと目を開けて、それから大きなあくびをした。
どのくらい眠っていたのか分からない。
誰かが来れば起きるし、誰も来なければそのまま寝ている。
最近はずっと寝ていた。
寝ていると、そのまま消えてしまいそうになる。
最近は自分の姿が霞のように透けるようになってきた。
頭もぼんやりとしている。
ササノハサマは、なんかどうでもよくなってまた目をとじた。
ドカッ! ドカッ!
もう、うるさいなぁ……
誰なの? あたしのおうちで暴れているのは……
ササノハサマが尖った口を一層とがらせて外を覗くと、知らない子供が祠の屋根で飛び跳ねている。
寝ぼけ眼でその様子を眺めていたササノハサマは、ぼんやりとした記憶の中に一瞬、祠が出来上がった日のことを思い出し、それを追いかけるように目をとじた。
あの日はハレ……
ぽかぽかと暖かいお天道様の下で、真新しいおうちが輝いて見えたわ。
仙右エ門と村のみんなが建ててくれた、あたしのおうち。
広場にござを広げてワハハと何かを飲んでいる男衆。
女衆はワイワイと賑やかに料理の準備をしている。
大きな鍋で煮られた汁物がコトコトと湯気を立て、子供たちが両手で持つお椀にはお芋やらゴボウやらニンジンやらがゴロゴロとよそってあって、あたしの大好きなお揚げもいっぱい入ってて。
お鍋の横の火には串に刺さったあのお団子!
あの焦がこがとした香りがたまらないのよ。
ササノハサマは、うっとりとしてハナをピクピクと動かした。
おうちの前にお団子とお汁を置いて。
みんなパンパンって前足を合わせるの。
なんだろう、あれ。ふふっ、おかしいよね?
それで、小っちゃい子供がおうちに上ろうとして叱られてたわ。
ササノハサマのおうちだからって。
そうだ、ササノハサマって呼ばれていたわ、あたし。
ステキな名前よね。
叱られた子は泣いちゃったけど。
だってササノハサマに食べられちゃうって脅かすんだもの。
食べないわよ、なんだか失礼よね。
でも、あのお団子を手に持たせるとすぐに泣き止んだわ。
みんな笑ってた、あたいも笑った。
みんなすごく笑ってた。
ギギギッ、ガン、ガン、ドカッ
思い出に浸っていたササノハサマは、だんだんと激しくなる音と振動に閉じていた目を開いた。
その金色の瞳には、嬌声をあげながら祠の上で飛び跳ねている子供が映っている。
何かいやなことでもあったのだろうか。
それとも、只々ものを壊すことに悦びを感じているだけだろうか。
ササノハサマには分からない、ただ、その子供が自分の思い出を、皆の想いを足蹴にしていることだけは分かった。
おうちを壊そうとしてるのね。
あたしが大好きなこのおうちを?
みんなが作ってくれたこのおうちを?
みんなが大切にしてくれたこのおうちを?
こういう時は……
食べちゃえばいいんだっけ?
ササノハサマはスッと目を細めた。
町にまします神さまと ~転生なしでも十分に異世界な気がする~ ナルハヤ @WandR
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