第5話 夜
「ただいま帰りました。」
改めて帰宅すると、ちょうどお風呂から出たぐらいの葵さまが居る。
「おかえり、スイ。」
「起きてらっしゃいましたか。
夕食は鉄火丼かネギトロ丼になりますけど、どちらがいいですか?」
「ネギトロ丼にしよう!」
即決で返事をして、使っていたタオルを隣に置いた洗濯機へと放り込む。
「分かりました。あとは味噌汁とお漬け物を簡単に作りますので、待っていてください。」
「はいは。」
気の抜ける反応をして部屋へと戻る葵さま。
その背面を見ながら改めて思う。この生活になってから以前の厳格さと言えるものが皆無になっている、と。
それにゲームプレイでトップを目指すということ自体は良いですが、もっと選択肢はありますでしょうに。とは思うものの私ではどうすることも出来ないうえに、結局道を選ぶのは葵さま本人なので、また何かの契機に変わるのかもしれない。
そう考えておくようにしよう。と思いを馳せるのを終えて夕食の準備を始めることにする。
手鍋を取り出して、それにカップで水を入れて火にかける。
それから冷蔵庫から味噌を取り出して、持って帰ってきた袋から豆腐と取り出して水を捨てて置いておく。
油揚げは袋を開けて多めに入れようと思いながら二回ほど手で取って、適当なザルを流し下から取り出してお湯を掛ける。それを水で流して搾ってから温まって切った鍋に入れる。
と、いつもと逆になってしまったけれど顆粒の出汁を入れて沸騰する手前で火を止めてから、味噌をお玉で掬い取って湯に溶き、豆腐を追加してひとまず完成とする。
袋から残っていたマグロのパックたちを回収して、刺身をひとつ、たたきの大をひとつ冷蔵庫に入れて、きゅうりとチューブわさびとメイプルシロップを出してわさび漬けを調理する。
本来なら半日ほど漬けて味をしっかりと付けるのだが、夕食の追加として出すというのもあって、ただのきゅうりとわさびになるだろうけど一品としよう。
そうして出来上がった漬け物と味噌汁、ごはんとマグロたちを器に皿にと用意して葵さまを呼ぶ。
「夕食のお時間ですよ。キリのよいところできてくださいね。」
「わかった、すぐいく。」
簡単な返事が聞こえてきたので、葵様を待ちつつも夕食タイムに入る。
今日も自分で作ったものではあるけれど、味噌汁がちょうどよい味の加減になっていて美味しい。
マグロとたたきたちをご飯に盛って食べると、これは元より美味しい。
残るわさび漬けはというと、分かっていた通りにまだ味の具合は薄かった。きゅううりとわさび風味の和え物、とでもいったぐらいの口当たり。これはこれで美味しいことには相違ない。
「まったく、勝てないぞ!」
しばらくすると憤慨した風の葵さまが部屋から出てくる。
「なによりチャットも話も聞かない。その上に単独行動が過ぎる者ばかりだ! いったい学校でなにを学んできたんだ。」
怒りながらも着席して、箸を手に食事を始める。
「まぁ、あまり気に留めることなく、そのすべてをカバーできるように立ち回るほかないのでは。としか。」
「端に言えばそうだが、なにより私がやっているのは個人の技だけでどうにかできるものじゃないからな。チームで戦うものだというのに……。」
「だとしても、葵さまがより上位に行くというなれば、必要それを成さないといけないのでは?」
「言えば簡単だけど、実行動に移すのが難しいんだ!」
ばっとこちらを向いて抗議をすると、すぐに表情を変えてネギトロご飯たちを口にして、ささっと食べていく。
こうして思うところがあって、それに対して憤りを感じていたり抗議の言を発したりということは割かしあれど、やめるという選択はしないで続けている。
特殊部隊で訓練をするゲームと、世界を救うためのヒーローになるゲームと。
どちらもチーム同士で戦うゲームで個人技の必要性はあれど、必然それだけでは勝利に着くことは困難である。というものであるからこそ、自身の行動だけでなく、機会毎にあったプレイヤーの動きを加味してどう戦闘を行うか。
といった事を考えてやっているらしい。なかなか上手く運ぶことが出来ないのもあって、今もこうして食事時に黙々と食べては思考を巡らせているのでしょうけれど。
そうと姿を見て思いながら、即席のわさび漬けを口にして、「なんだこのきゅうりは」と驚きを露わにしたりとする葵さまと夕食の場を共にしつつ、普段通りの時間を過ごした。
食器たちを洗い、水切りのカゴに収めてからお風呂の時間とする。
そうして今日あったことへの反省。といっても大したことを考えるわけでもなく、なにをしたかということとまた明日からをどうするのかとを思うだけですが。
働きごとで言えば普段と変わらずに、そのあとはまた同じ様にして砂糖さんのこの先のお話を少し。またその夕は葵さまと食事を共にして。
大まかにしなくても、日々の行いと遜色ない日であったと思う。
そのこともあって、このままで良いのかというのもまた思うところで。日々の生活と安定と。
それは最優先して行くべきことではあるけれど、きっとこのままでは比奈志家銘の復興などと出来る余地などなく時期が過ぎてしまうだけだろう。
と。そう現実を考えても、だれが助けてくれるわけでもなく、その為の資金が舞い込んでくるわけでもなく、すぐ様になにか変えられるものもなにもないのだと考えると、ただ今は生活だけを考えて時期分を過ごしていくしかないのだと、改めて思う。
風呂から出て洗濯物の量を確認して明日朝に回せばと見逃して、部屋に戻る。
明日もまた仕事ということで休みの時間として、端から布団を移動させて敷いて内に入る。
なにか変化があれば良いと思いながらに、就寝の時間とする。
元執事・香登ヒスイの再興~また今日もいちにち~ ゆきうさ @Yuki-_-Usa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元執事・香登ヒスイの再興~また今日もいちにち~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます