第4話 夕2

 マグロの刺身が2パックあって、たたきのパックが大2つ、小が1つあって、今夜分だけでなく朝食時まで持ちそうな量になる。

「これでもう天才になれちゃうでしょ。」

 カゴに入れたパックたちを見て砂糖さんが満足そうに笑んでなにか言っている。

「ふふ、そうかもしれないですね。

 とはいえ、これだけっていうのも正直食べていたら飽きそうですし、もうひとつくらいなにか欲しいところですね。」

「わかった、他のねー。」

 そう言いながらすたすたとどこかへ向かってしまうジャンパー少女。

 先程とは違ってどんなものがいいか伝えていないので、なにを持ってくるのかが恐ろしいところではありますね。

「さて、なにも考えていなかったからといって砂糖さんにまかせきりというのも悪いので、追加の一品を選ばなければ。」

 となってカートを押してなんとなく移動してみる。

 メインが鉄火丼とネギトロ丼であると考えると、やはり味噌汁やお吸い物とかの汁物と簡単なお漬け物があるのが良いとして……。

「味噌汁にしましょう。」単純に味噌が好きなので。あの味と香り良いですからね。

 味噌本体はまだまだ多く残っているので、味噌汁と言えばまずは豆腐。と選びに来た道を戻ってまた入り口の方へ行くと野菜コーナーの付近に豆腐が並んでいる。

 その横に油揚げもあるので、これも具にしようとカゴに入れる。切られている油揚げにする。

 さて、味噌汁はこれでいいとして。

 次にお漬け物をなににしようかと歩いていると、どこかへ旅立っていた砂糖さんが緑色の箱を片手にやってくる。

「お兄さんマグロとかと来れば、わさびだよ。」

「え、えぇそうですね。」

 まさかのわさびだけを持ってくるとは思わず、なんと言っていいのか驚いている。

 といってもわさび。これを使って作れるものを考えるのがよさそうですね。

「助かりましたよ、砂糖さん。ちょうどお漬け物を作ろうかと思っていたのですが、これを使ってわさび漬けを作ることにします。」

 わさびを受け取ってメニューを言うと、本人がはて? といった風にきょとんとしていた。

「うんうん、役に立ててよかったよ。」

 それじゃお菓子見てくるね。と言ってまた旅立っていく砂糖さん。

 さてはテキトウに持ってきて遊ぶつもりだったんですね。という思いはありましたが、払拭してきゅうりと味の調節用としてメイプルシロップを探してからレジの方へと向かう。

 今日の購入するものは多くないので、無人レジの方でピッピとバーコードを読み取らせながらしていると、チョコレートが清算を取ろうとして読み取られる。

「これも。」

 これも。じゃないですよ。

「まあ、それぐらいだったら。」

「やったぁ。」

 何永さんミルクチョコレートぐらいならばよしとしましょう。


 そうこうしてエコバッグと買い物袋を手にしてふたりで店外へ。

 出入口の横にある販売機で出しあって、私は微糖のブルーマウンテンの缶コーヒーを。砂糖さんはココアを手にして隣の公園のベンチに座る。

「いやぁ、ありがとうね、チョコレート。」

 座るや否やすぐさま袋からチョコレートを取り出して、食し始める。

「はい、お兄さんも。」

 適当な大きさ分に板を割って差し出してくる。

「ありがとうございます。」

 受け取って口にしながら、合間でコーヒーも飲む。

「やっぱりさ、なんでもいいから楽器やりたいんだよね。」

 上を向いて空を見ながらに砂糖さんがぽつりという。

 なにかを始めようという心、良いですね。

「やればいいと思いますよ。」

 応えると渋い表情になる。

「お兄さん、なんかテキトウに応えてない?」

 そう言ってチョコを齧る。

「そんなことはないのですが。

 結局は砂糖さんの気持ち次第ですから、やりたいと思うのならばまずはなんでもいいので始めるべきですよ。」

 やるかやらないかで考えたらやるべきで。

 やらない後悔よりも、やって後悔の方が良し悪しがまったく違うように思いますから。

「始めるっていってもなぁ。」

「具体的にこれを、と思う楽器はあるのですか?」

「かっこいいからギター。あとはベースかドラムとか? かな。」

 確かにかっこいいですよねギター。表に立って華になって。なにより音が分かりやすく目立ちます。

「ギターですか。初心者向けだとセットで安く売っているのを見かけましたけど、それで練習を始めてみるのはいかがでしょうか。」

「でも高いんでしょう?」

「そればかりは、どうしようもないですよ。」

「どっかからギターが降ってこないかな。」

「手始めにアルバイトでもどうですか。ギターを購入するだけじゃなく、他にも買えるものが増えますし。」

「アルバイトかぁ。どこがいいかなぁ。」

 コンビニはみんな大変って言ってるし……。でも他には。という小声がする。

 考え出した砂糖さんはそのままにしておき、空いたコーヒー缶とココアの缶を取って、ゴミ箱へ捨てに行く。

「さて、そろそろ帰りましょう。砂糖さんも家へ向かってくださいね。」

「えぇ、早い!」

 ベンチから腰を上げて、抗議の動きをとる砂糖さん。

「もう暗いんですから帰ってくださいね。」

 なにかあったらどうするんですか。

「はいはい、分かりましたぁ。」

 置いたままにしていたバッグを回収して、お互いに気を付けてと言い合って解散して帰路につく。

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