自主企画「芦花公園ホラー賞」に出した『忘谷拾遺』で金賞をいただいたよ!

鍋島小骨

その一本道の別名をオロロンラインと言うんですけど。

◆自主企画ページ

「芦花公園ホラー賞」 2019年8月17日~9月29日

https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054890791550


◆結果発表ページ

「芦花公園ホラー賞講評」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890796286



 3人の審査員の皆様から参加作品すべてに講評がつきました。全体で50作品くらいあったのに、9月29日いっぱいで締め切りになって10月1日には発表されるという豪速球です。すごい。


 そして!

 なんと!

 金賞をいただきました。やばくない? 北海道やばい。

 連絡がきてびっくりのあまり、今見返すと地味な感じの誤字をしていました(笑)

 読んでくださった皆さま、講評してくださった皆さま、本当にありがとうございます!

 私、みんなが思ってるより一億倍くらい嬉しいんだからな!!!!!


 あと今回なんと!

 なんと私のくせに!!!

 字数制限に苦しまずに済みました!!!!!!やったぜ。少しは成長できたと思いたい。



 講評では、100点満点中5000000000点と、北海道ホラー加算100点、神話加算1000点、プラス5億点いただきました。光栄です。(北海道加算とは)(今回の北海道祭り状態は一体なぜ)


 理由のついてるホラーと理由のちゃんと分からないホラー、ありますね。分からない方が怖かったり。後述しますが理由をつけてしまう手癖があり今回はこうなりました。何とかなっててよかったです。


 明かさなかったものといえば、「かみさま」の「機能・作用」に関わる部分は書きましたが「由来」に関わる部分は全く書かなかったですね。少し入れた方が湿り気ある怖さになるかなとは思いましたが、うまく作れなくて、下手なの入れて手触りが悪くなったり興醒めになるよりはいっそ一切なしでいいか! どうせまた字数に苦しむし! ってことで由来は書きませんでした。ただ、神話は確実に存在したはずです。


 「拙者、無垢な存在を騙して殺した罪悪感を抱えながら生きる老人が大好き侍!!!!」という最高オブ最高の講評を頂戴しましたが 私 も で す ! なまぐさい重量級の過去を抱えた行動派ジジイはエモ。


 あと今回も田舎のヤバい家庭出しました。具体的にしていませんがめぐみの家は色々あったはず。主人公の祖母が、関わるな、と子供に言い含めるほどの。

 ゴウちゃんちもそこそこアレです。かなりアレだと思います。

 でもよく考えると、アレを納めた家は多かれ少なかれ、すべてアレ。

 わすれだに、恐ろしいところよ。



 というわけで、参加作品はこちらです。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼


『忘谷拾遺』


――そこを出るには忘れなければならず、そこに住むにも忘れなければならない。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890802832


 昭和六十年の初冬、父親の実家がある僻地・わすれだに。過疎の進むその集落で、友達のヨシくんに誘われ入り込んだのは――。

 波の花にさえ隠れるような海辺の集落。あなたも忘れているかもしれない、かみさまの、箱。


▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 よかったら読んでみてくださいね!






 ここからは、執筆当時のことなどをメモがてら書きたいと思います。多分、近いうちに何もかも忘れちゃうので。

 どんどんネタバレもしてしまうので、気になる方は見ないでくださいね。



 そもそもホラーを書き慣れていません。でも、今回の企画の主催者さんが書くホラーが好きで、企画やるなら参加したいと思いました。なので、「ホラー書きたい→企画見つけた」ではなく「この企画に乗りたい→ホラー書こう」という動機でした。

 これまで、カクヨムで書いたホラーっぽいものというと、『KAC5: 温室、あの夏の』『窓辺にて待つ』くらいですね。『窓辺にて待つ』はホラーというよりファンタジー掌編という感じですしちょっと違うかな。


『KAC5: 温室、あの夏の』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054888893435

『窓辺にて待つ』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054888211992


 まあそれで。

 「ホラー 小説 要素」とか「ホラー 短編 構成」とかでまずググりました。何があればホラーなのかさえ実は、皆目分からなかったので。

 結果としてはやっぱりよく分からなかったです。

 アホなりにだらだら考えていたので、その頃ツイッターで「ホラーってやっぱ一人称が多いんですね」みたいなことを呟いていました。マジでそういう段階からのスタートでしたね。(でも普通に三人称のホラーも見つかって「あっ」となったりもしてましたが) 


 当初は全く別の子供の怪が起こる話を考えていて、それも札幌と東京が舞台だったので、最初から北海道要素を入れていこうという気はあったのだと思います。

 これについてはどうも登場人物が増えすぎるのと、内容的に『温室、あの夏の』に似てきてしまったため、割と早めに断念しました。

 短編であんまりたくさん人が出てくるのは、多分読む方が大変ですよね。出てくる固有名詞が増えたり説明に使う字数が増えたりとなんか忙しくなってしまうし、話に没入しにくそう。


 それから何となく書き始めたのが今回の話の冒頭でした。

 実際に何度もドライブで通って、なぜ人間はこんなところにも住み着いたのだろう、どんなに大変だったことだろう、とかねがね思っていた土地のことを急に描写してみたくなったのですね。山と海に挟まれ無理矢理に通したただ一本の道と、どうやって暮らしているのか不思議になるような家々と。

 あの光景を、読む人にも見て欲しいという気になった。それで私にしては珍しく地形の説明なんかを結構具体的に書いています。

 後に、現地付近を実際に知る道民の方々に「見たことあるやつ」という感じの反応をいただけたので、本当に嬉しかったです。海沿いの田舎行くとああなるよね……。

 いま札幌から留萌まで海側一本の道で行けるというのは凄いことなんです。20世紀の終盤に差し掛かるまではその一本の道すらなく、本当に陸の孤島、船でアクセスするような集落が実際にありました。私の親の世代は、その道が繋がっていなかった時分のことをまだ覚えています。1981年のことだから、その世代にとっては最近なんでしょう。


 子供を語り手にしたのは何故だったのか、例によって記憶はありません。同一人物(かつての子供)が語る現在と過去を交互に並べるやり方は、多分私の手癖です。

 どんな構造の怪か決めずに書き始めました。なんか理由は分からないけど起こり続ける現象が怖い、というのを最初はやろうとしていたのかな。でも考えて作れないから実際に急に書いてみようとしたのかな?

 かな? じゃないっすよね自作に対して(笑) もはや記憶が淡い……。


 で、最初は集落の友達と一緒に、廃校になった小学校分校に忍び込む話だったんですけど。

 廃校舎の中が異界へ繋がっているような。

 でも何で? となってしまいまして。

 何で学校よ?

 「何で」に回答をつけようとすること自体、「なんかわかんないけど怖い」ではなく「実はこういうことになっていたので怖い目に遭ったのだ」という物語になることを選択していますよね。これも手癖でしょうね。理由より先に現象が矢のように降ってくるような怖さの畳み掛けを書き慣れていなくて、一方で私自身には元々設定厨の気があって、理由理由理由と積んで嵌め込んでいこうとしてしまう癖。

 それは本当は生ける者ではなく、と思い付いた辺りで、「この集落に特有の死に方」で死んだ様々な人たちの気配が出てきました。

 集落全体の話になるなら最重要舞台が小学校というのはなんかそぐわないので、学校ルートを放棄。


 掛かりの甘いクレセント錠を外からはずすやり方は、私は知りませんでした。ただ、掛けていたのに入られた、という話を何度も聞いたことだけ記憶にあって、きっと外せるはずだと思いググったんです。「クレセント錠 空き巣 手口」とかで(笑)。そういうことだったので、講評で「窓の開け方田舎の古い家あるあるですね」と触れていただけたのがすごく、やったぜ感ありました。

 たぶん窓硝子も場所によっては、型押し模様入りの曇り硝子ですねあの家は……。

 そして、もしかして雪国にお住まいの方はこう思ったかもしれません。窓一枚だけなのか? と。寒い地方では窓は二枚三枚にして防寒しますからね。あの家、すごく古くて防寒薄いイメージで書いてました。


 さて、書きながら「始めてはみたもののこれは……」と思ったのが、他の北海道舞台の話をやるときにも思ったことでしたが、北海道弁です。果たして私の感覚で書いて大丈夫か?

 でも、もしゴリゴリにディープな方言セットを私が使えるとして、それをそのまま文字起こししても、おそらく読む側にはあまり分からないわけです。

 もう仕方がないから、素のまま書けるように書くしかないよね(迅速な諦め)。


 マサノは急に発生しました。

 私の祖父きょうだいも、小さいうちに死んだ妹のことを後年になるまで話していました。7人だの11人だの大所帯のきょうだいでも、やはり末の妹は可愛くて可愛くて、死ねば途方もなく悲しかったそうです。きょうだい人数が多い分薄まったりはしないものだと聞きました。

 あの時代のこと、きっとこういうきょうだいもいただろうなと思いながら急に出した感じです。


 大村おおむらめぐみも急に発生しました。寒村の不良女です。若くして色々あった人だろうと思いますね。刺青の設定が気に入っています。


 それから、「箱に入る」という言い回しを慣用句として設定したのは、洞窟のシーンをだいぶ書いてしまってからだったと思います。それで、一旦前のパートに戻って祖母の言葉を書き足したりしました。こうして、書き進めながらそれより前の部分をどんどん整形していきます。


 さて主人公が怖いところに迷い込んだ。

 で?

 ここで例えば何らかの何かに喰い殺されたら、現代でこの話を語っているのは誰よ、ということになる。まあそっちに球を投げる道もなくはないが、怖く書けるのか? ちょっと自信ないな。

 ここを出て帰るのでなければ現代に辿り着いてこの話を思い出すことはできない。どうやってこの迷宮を出るか? ただ走って逃げるんじゃ物足りない。追い掛け方が物凄ければ怖くなるかもしれないけど。

 話を決定せずに書いてるので、書き進めながらこうしてリアルタイムに先行きをどうするか悩みます。私は割とこういうことが多くて、設計図を引くこともできないし設計図通りに書き終えることもできません。あまり合理的な書き方ではないと分かっているのですが……。


 などと考えてるうちに祖父が自分から来ました。

 家族のために殺し、家族のために自分の命さえ賭ける、この祖父のかたちがようやく決まってきた辺りで物語全体の味付けがまとまった感触があります。

 そして祖父の妹の名をもう出してあるのだった(たまたまですけど)。その妹のエピソードとも関連し、祖父は、か知っているのだ。

 なるほどそうだったんですね……と思いながら洞窟シーンの後半を書きました。

 田舎の老人はわりとガチめの凶器を日常使いする怖さをたたえていますよね。くわとかさ、鎌とか、なたのこぎり、剣先スコップ、怖いよね。


 しかしどうなんだろう。ここは「かみさま」に何か固有の名前を与えた方がそれっぽかったかもしれないな。でも由来のようなものを匂わせる名にするのはさすがにちょっと調べものが発生するから〆切的に難しいなあ。とりあえず書くだけ書いて後で考えよ……(と保留にした後、一応考えたんですが、由来付けが時間的に無理だったのでやりませんでした)


 あと、名前といえば北海道の地名でわすれだにというのは相当不自然なんですけど、いや自分で書いといて超今さらなんですけど、いけるのか? いけるのかこれ? もう完全に名付けてしまったけどこれ? もういいやこのまま行っちまえ。タイトルにも入れちゃお! タイトルどうしよ。そういえば拾遺和歌集ってありましたね読んだことはないけど。しゅう(漏れ落ちたものを拾い補うこと)でいっか。いいのか? わからん。でもこれタイトル短い方がいいような気がするんだよな。知らんけど。


 ここでマサノのエピソードを出して過去篇の大体のところはおしまいです。マサノの話はああなるしかない。祖父は死に際まで謝ったんですから。それほどのことがあったのです。

 マサノの名が発生した時点では彼女のエピソードはなくて、これも書きながら決めたものです。

 この部分を書いて、忘谷システムがこれで


 で、話を閉じなければならない。


 もしも忘谷から生きた者がいなくなったら。

 それでも「彼ら」はいる。

 もしもそうなったなら。

 という一節は、どちらかというとSF脳で考えたことだな、と自分では思います。人が消えても稼働し続けるシステム。フィードバックもチャージもなくても、もしかしたら。

 そしてそれを、想像するということ。


 最後の主人公の語り、私自身は相変わらず説明し過ぎたと思っていて、それで「なんとか小説らしい形にはなったかもしれないけど、もしかしたら間延びして、怖さがあんまり出てないかもな」と思っていたんですよね。

 うまくいってたとしても自覚できてないうちはまだ使い手ではないですね……飼い慣らしたいな……

 多分、「あぁ書き過ぎてるな」という感触があったのでその不自然さを丸めるために「録音のため喋っている」という要素を最後にひねり出し、さかのぼって頭からそれっぽく手直ししました。同じ一人称でも現在パートは喋りに寄せた。好きで聴いてた落語とラジオが役に立ちました。

 けれども語りの文字起こし風としては不自然なところもわざと残してあって、それが次の部分です。


###

 あの信じられないくらい小さな、海と山のふとした境にたまったあぶくのような集落。

 わすれだに

 そこを出るには忘れなければならず。

 そこに住むにも忘れなければならない。

 今はもう、あるかどうかも分からない。

###


 中間辺りに書いたパートからの反復です。

 この部分は恐らく、録音された語りとしては、かなり不自然に文章的です。でも、多分ここに必要ではないかと思って置きました。小説を書いているとたまにそういうことがあります。他のどこでもない、ここにこのパラグラフを置くことを私は欲求しているな、と感じる瞬間が。

 そして、反復。反復はどこか怖さのあるものです。反復しながらこの主人公は、忘れていく。忘れの郷のことを、忘れていく。

 作中、他にも反復させた所があります。「道の右手は山、左手は海」と風景を描写する部分。

 繰り返し同じ話をする人。

 昔のことを、繰り返し、繰り返し。

 そして、忘れていく。




 大体のところを書き終わって、「へえ……」と思いました。

 そういうことがあったんだ、と。

 いえ、行ってみようとは思いませんけれどね。あのあたりは何度も通っているはずですが、これは知らない地名ですから。

 見たことのない集落なのでしょう。

 あるいは、見てはいけない、だから記憶にも残っていない集落なのでしょう。

 そこのことは、忘れなければならないのだそうですから。



 それでは、電子の洞窟にこのテキストを納めましょう。

 記録すれば、語り手が死んでもそれは残る。

 人の絶えた地上にメディアだけが残る未来を私は想像します。


 今日この機会に、すべて書き留めてみようと思ったのはそのためです。

 私はもう二度と、こんなに詳しく思い出せないのかも知れませんから。


 だからこういう風に、書いておいたらいいかなと、そう思いましてね。


 とりとめもない話を、荒唐無稽な話を、聞いてくださってありがとうございました。





『忘谷拾遺』


――そこを出るには忘れなければならず、そこに住むにも忘れなければならない。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890802832








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