第11話 絶対にどうでもいい戦いがそこにある

それから嘉田のチームに入りたいと願う人たちは嘉田本人の厳正な王様じゃんけんを行うことになった。


オレと霧島はそれが終わるのを待っていたのだが、するとそこに更に四人ほどこちらへとやってきた。その人物の一人は淡島で、その他三人の面々もいつぞやにみた面子だった。


「王様じゃんけんに負けたの?」

「いいや、ここには自分の意志で来た」


霧島の質問に対して淡島はそう答え、他の面々も同じように頷いて見せた。


「それで、だ。二人には頼みがある。いや、二人、というよりかは天谷、お前にだが」

「なんだ?」

「この試合で、本気を出してはくれないか?」

「どういう意味だ?」

「先ほどの試合を見た限り、お前はまだ本気をだしていないだろう?それなのにあのプレーはすごかった。そう考えると、天谷は本気を出したら嘉田を超える存在なのかもしれないと思ったんだ。それに加えてあの霧島もいる。勝つ確率は十二分にある。俺たちも頑張るから、この試合で勝つために本気を出してくれ!」


そう言って淡島は頭を下げてきた。一体どうしてそこまでして勝ちたいのか。こんなに必死にお願いするということはきっと、姫川の件とは別に何か重要な目的があるからなのか。普通に聞いてみることにした。


「そんなに必死になる理由はなんだ?」

「……だって……」


その理由は……


「あのマルオだけが無双するなんて許せねえんだよおおおお!」


何にせよつまらない理由だった。

おいそこの後ろ三人もめちゃくちゃ頭を縦に振ってんじゃない。

これには霧島も呆れてしまったようで、額に手を付けながら薄い苦笑いを浮かべている。


「あいつは根はいい奴だ。だが、顔はいいとは言えない!そんなやつが無双してあげくモテて、更には姫川さんと手をにぎにぎするチャンスがもらえる……うらやましいんだよ!俺だって姫川さんと手をにぎにぎしたい!」


酷い人、この人。

後、話の趣旨が変わってる。


「つい本音が出てしまった……兎に角だ!俺はアイツだけが無双するのは嫌なんだよ!あいつが無双してなんだかんだで姫川さんや他の女子にモテるくらいなら。今人気のある二人の好感度が上がった方がよっぷどましだ!」

「霧島は兎も角オレは違くね」

「いいや、違くないよ。実は最近天谷のそのクールさが結構評判いいんだよ。それに顔もすごい整ってるしね」

「嘘おっしゃい」


馬鹿なことを言われてしまったが、本題に戻す。


「それにアイツが持てたら俺たちに絶対に自慢してくる……あああああ!考えただけでイラつく!だから天谷、そうか本気をだしてくれ!」

「断る」

「なんでだぁぁぁぁぁ!!」


ほら、試合始まりますよー。

と、丁度よく王様じゃんけんでチームもちゃんと決まったようだ。負けた人たちが一斉にこちらへと肩を落としながらこちらへとやってきた。


それからすぐ、火蓋とも言えよう試合のホイッスルが校庭全体に鳴り響く。端っこで観戦するクラスの女子は「がんばれー!」と皆を応援していた。


最初のボールの持ち主は淡島、陸上をやっているということもあるのか、そもそもの運動神経がいいということもあるのか、駆け抜けていく。しかし、それを一人の敵チームの人物に取られてしまう。


しかしすぐに霧島がそのボールを奪うとそこから前に現れた嘉田。自信満々の表情を見せながらまたしてもボールを奪いに行くが、短時間で成長する俺TUEEE主人公は、先ほどとは違う動きで彼を躱して突破した。


女子から歓声を浴びながら突き進むが、そこでサッカー部の敵チーム三人が立ちふさがる。その顔には「俺も黄色い声援浴びたいいいいいいいい!」と書かれている。煩悩のかまたりである。


最強でも、数は乗り越えられない。


遂に霧島の勢いは止まりボールを奪われてしまった。

その後パスされ嘉田にボールがいきわたり、そして豪快なシュートにより一点入れられてしまう。


続いて、ボールがオレの方に回ってくると、オレの方に嘉田が走ってくる。

あなた、勤勉ですね~。


「おら、もーらい」


そこからよけようとするも、五割天谷と勤勉嘉田では嘉田の方が力量があり、取られてしまう。

なんでだろう、淡島の言っていったことが分かったかもしれない。あのチャランポランな感じがムカつくのか。

そこから二分、相手は二点目を決め二対〇、残り時間は六分といったところ。


周りを見渡すと、ほとんどが体育座りをしながらしくしくと泣いて落ち込んでいる。

そんなに姫川と手をにぎにぎしたかったのか?

あ、やべ、うつった。


「なあ、天谷」


そこに現れたのは汗だくの霧島。


「本気、出さないのかい?」

「ああ。出したところでオレに得がないしな」

「そうか……」


きっとこの様子をみて憐れみを覚えたのだろう。本気を出させようとしているのが丸わかりだ。

でも、オレは本気を出さない。

なぜなら、これは絶対に負けられない戦いではなく、絶対にどうでもいい戦いだから。


「……じゃあ、本気をだしてこの試合を勝たせてくれたら、オレが天谷から離れることを誓おう」

「その話乗った」


前言撤回。

それなら話は別だ。

スポーツテストの件をばら撒いたせいでオレのボッチtimeを大いに減らした霧島から離れることができれば、オレのボッチキングダムは一から作り直すことができる。それならば話にのるしかないだろう。


「いいか、本気だぞ?一切の妥協もだめだぞ?」

「ああ、お前こそ。男に二言はないからな?」

「ああ」


オレは改めて準備運動を行い身体をほぐすと体を本気モードにきりかえる。

知らないだろうが、オレの身体の中にはレバーがありそれによって力の調節が可能なのだ。


さて、霧島を離すために、大いに本気をだしてやろうじゃねえか。


再会した試合、ボールの持ち主にオレは突撃。そこから足技でうまく躱そうとするがそれをオレはさらっと奪ってやる。そこから全速力で一気に近づいていく。


すると、前に大勢が立ちふさがろうとする。しかし、まだ前に出てきてすぐ、それならばそこかしらに必ずスキがあるはず。それを見つけ出すとそこを狙ってミドルシュートを放った。


かなりの距離を縮めて見事にゴールイン。一点返した。


「よし、後一点」


皆驚いているようだったが、知らんこっちゃ。

その入ったボールが敵の一人に渡ると、ドリブルをしながら着々と距離を縮めていく。それを霧島が相手からボールを奪う。すると、向こうから走ってくる一人の人物がいる。それに対して避けようとするが、その一直線上にはもう一人敵がいる。


このまま避けてしまえば恐らくすぐにボールを奪われる。


「おい霧島!」


声に気づいた霧島はオレに顔を向けると出しているパスしろサインを受け取り、オレにボールが渡る。その後、三人ほどが一気に駆け寄ってくるが三人すべてを躱していき、ゴール手前。


オレはボールを蹴ろうとする。そしてその方向にしっかりと飛んで防ごうとするキーパー。


「先ほどは入れられてしまったが、これ以上は入れさせん!必ずこの試合に勝って姫川さんと―――」

「その言葉もう聞き飽きたわ」


思いっきり蹴った。しかし、そのボールの軌道はキーパーと逆方向。この技術こそが天谷クオリティー。


「よし。同点だな」


これで後一点入れてしまえばオレの勝ち。

ここまですぐに同点に追いつけると、あっさりしすぎて逆にあじけないな。


まあいい、さっさと済ませてしまおう。オレがここでボールを取ってしまえばあとは楽だろう。今は相手にボールが渡っているが、恐らく霧島あたりがすぐに取るはずだ。それにアイツなら普通に一人でゴールできる確率は十分ある。


ゴールの目の前にまで迫った敵に対して味方が一人壁になるがそれを超えられてしまいピンチに陥ってしまう。


やばい、このままでは一点取られてしまう!

時間的に考えれば取り返せる時間はない。

どうすればいい?


そして放たれたシュート、ダメかと思ったがそれは杞憂であった。


「させるぶふぁ!」


淡島が自身の顔を犠牲にしてそれを防ぎ、それで跳ね返ったボールはオレの元へとやってくる。

よくやったぞ、淡島。お前の犠牲は無駄ではなかったぞ。


「……さて」


もう一点取りに行こう。

ここはもう全速力で一気に突破する方がいい。そう考えたのだが、しかしそうもいかなかった。


「そうはさせるか!」

「ここは通さん!」


まさかの敵陣営六人がオレの前に立ちふさがってきた。これにはオレも止まらざるを得ず。


「お前らどんだけガチなんだよ。そんなに姫川の手を握りたいのか?」

「当たり前だろう!あの手は神の手だぞ!」

「それだけじゃない。俺は天谷に私怨を抱いている……」


そう言うのは嘉田だった。


「せっかくサッカーで無双してモテようと思っていたのに……それをお前が無双して邪魔しやがって!」

「オレはそんなこと知ったことじゃない。でも勝たないといけない理由はある」

「やはり姫川さんの「いやそれはない」」



食い気味で否定した。

しかし、ここをどう切り抜けるか。

これはいわば万里の長城。上に蹴り上げるか?

いや………もっと切り抜けやすい場所があるな。


「お前ら、覚えて置けよ」

「なんだ?」

「視野は広くしておくべきだ―――ぞっ」


オレはそのボールを敵の股下を狙ってけり、見事にくぐりぬけて向こう側にいる霧島の足に渡った。


「「「「「「しまったぁぁっぁ!」」」」」」


そこからの霧島はブレーキという概念を忘れる程に勢いが増しそしてシュートを決め三対二と逆転し、すぐに試合終了のホイッスルが鳴り響いた。


よっしゃ勝ったぁ!

これでアイツから解放される!

そう安堵するオレだったが、肝心な事をオレは忘れていると気が付かないかった。




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ぼっちに目覚めた隠れチート主人公高校生活 宇治宮抹茶 @uanuanuan

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