第10話 サッカーしようぜ
小学校、中学校、そして高校と好き嫌いが大きく分かれるであろう授業、それは言うまでもなく体育の授業だと言える。
その理由はいたって簡単、できる出来ないが激しく分かれるからだ。
しかし、だからといって体育が苦手な人=体育が嫌いという一択になる訳では無い。何故ならばその例外の一人がオレであるから。別に運動ができないわけではない。だがしかし、そのできないわけではないというだけで体育の授業を好きになるという結び付け方は、若輩の考えそのものである。
そもそも、運動ができてもしたくない奴はごまんといる。
オレとか、オレとか、オレとか。
兎に角、オレは例外の一人なのだ。
さて、このような切り出し方をしているため、もうこれから何の授業なのかはお察しの通り、体育だ。
現在六時間目、今日最後の授業である。しかも、今日は小テストがあったり、嫌いな先生の授業があったりと、とてもではないが悪い日で正直モチベーションが上がらない。
現在クラスの皆は校庭で各自友達とはしゃいでいるが、一人好きのオレはこうしてサッカーゴールの下で胡坐をかいて先生が来るのを待っていた。
「天谷、こっちに来て皆と運動しないか?」
そんなオレの元に現れたのはクラスのイケメン、霧島だった。ほんの少し汗を流してそれを拭う姿はイケメンという字が本当にマッチする。でもオレコイツ嫌い。
「断る。というか、運動する前からそんなに身体動かしていいのかよ」
「まあ、アップ程度に動かしてるからね。それにそもそも運動するのは大好きだし」
「さいですか」
この人も運動楽しい派の人間だった。
「そう言う天谷は、身体動かさなくていいのか?」
「オレはいい。今日に限ってはやる気でないし。のんびりと運動するよ」
「……そうもいかなそうだけどね」
「あ?」
「いいや、なんでもない」
そういって霧島は先ほどいた輪に帰っていった。
そっちの輪じゃなくて、輪廻の輪に帰ってしまえばいいのに。
さんざんオレを酷い目に合わせた彼にほんの少し物騒な妄想をしていると、向こうから河合先生が歩いてきた。
それに気づいたクラスメイトは即座に並ぶ。
「よし、全員いるな。それじゃあ、これから体育の授業を始める。今日は男子はサッカー、女子はバスケだぞー」
その後、クラスの女子はすぐそばの体育館へと移動し、男子はその場……すなわちこの校庭で待機している。
すると、向こうからサッカーボールが勢いよくこちらに飛んでくる。それを霧島が胸で受け止めると、そのままそのボールでリフティングを始めた。
コイツ、リフティングうめー。
「やっぱりサッカー部は上手いな」
独り言ごちにそう言いながらやってきた河合先生。
「じゃあまずは軽く1試合、と行こうか。その前にまずは準備体操か」
その後、準備体操を済ませたオレたちは早くも一試合目が始まろうとしていた。チーム分けは安易ながら号車毎で、最初に一号車と二号車、そして三号車と四号車。最後は勝手にチームを作ってそれで対決ということらしい。
そんなわけで、三号車のオレはひとまず待機。するとまたしても霧島がオレの肩を叩いてくる。
「なんだ?」
「俺サッカー部だから、結構上手いんだ、サッカー」
「………が、どうかしたか?」
「よく見てて」
そう言うと、そのままコートに走っていった。あの男、一体何が目的なのか、わたくしにはさっぱり、全くもってわかりません。
『 ピィィィ!』
先生が鳴らした笛が試合開始の合図、それと共に最初のボールの持ち主の霧島はロケットスタート。一気に駆け抜けていくが、そこに数人、前に立ち塞がる。
しかし、そこで霧島は笑って軽く切り抜け、そしてパスを出した。
サッカー部だから当然だけど、やっぱりプレイもうめーーー。
流石主人公、極まれり。
その後も霧島が無双するのだろうと、恐らく誰もが思っていた。だが、そこで意外なダークホースが現れたのだ。
ゴール目の前と来たところで立ち塞がったのは坊主頭の男だ。
霧島は一度立ち止まるものの、後にすぐ相手を避けようとする。しかし、誰も予想だにしなかった事が起こる。
「なっ!?」
「へへっ!いっただきだぜ!」
男の名、
そんなマルオがまさかのあの霧島からボールを奪ったのだ。
「なっ、嘘だろう!あのマルオがあの霧島からボールを奪っただと!?あいつはサッカー部でもなんでもないはずだろう!」
「やはり、噂は本当だったのか……」
「噂?とは、なんのことだ?」
「なんでも、あいつは毎週火曜日から金曜日にかけてサッカーのクラブに行っているという噂がたってたんだ。にわかに信じがたいと思っていたけど……」
「本当、みたいだな……」
隣のクラスメイトが話している通り、その噂は事実と考えていい。あの足さばきと動きはサッカープレイヤーのそれと言っていい。
というか、なんでそんな明確な噂がたったの。嘉田の事好きな男の子でもいたのかよ。
その後も、霧島ではなくマルオ無双が行われ、最初の試合は幕を終えた。
「びっくりしたよ。まさかあんな伏兵がいたなんて」
「いやなんでこっちくんの。好きなの?なに好きなのオレのこと?」
「それはまあ、人並みには」
「……さいですか」
その一言、オレにはそれが何とも言えない感情にさせたのだった。
そんなわけで今度はオレたちの番。
え?もっとマルオ無双の話が聞きたい?
誰得かわかんねえし、それ以前にめんどくさいわ。
さて、いつも通り本気で行くことも無くだいたい4割程度でサッカーをするとしよう。それに加えてシュートはせず基本的にサポートに回れば尚良し。
そうすることで目立つことも無い。
いっその事下手なプレーをして一人になるチャンスをつくることで、よりオレのキングダムは作り出される。
それもいいかもしれん。
と、思考しているそばからホイッスル、試合スタートだ。
さっきの話していること以前に、そもそも端っこでコソコソしてれば何もしなくてすむやもしれん。
そんなわけで、すみっコぐらしもスタート。
みんなが球を蹴っている間、オレは存在感を完全に消してプレイを見守る。
なんとも、初めてサッカークラブでスタメン勝ち取った息子を見るお母さんの気分。
すると、敵陣営に囲まれてどうにも出来ない一人の男子がキョロキョロと周りを見渡すと。
「天谷ーー!」
オレの方にボールを飛ばしてきやがった。
どうやら完全に気配を消すことが出来ていなかった見たいです。
それを右足を出して受け止めると、一人が走ってくる。対して、相手が目前まで来たところでボールを蹴りあげて避けキャッチ、そのまま別のやつにパスした。
誰だってできるようなワザを使ったのでこれで問題なし。
その後、オレがパスした男子がそのままシュート、そしてゴールした。おお、いい感じにオレはわき役になったみたいだな、上出来上出来。
その後も滞りなく進み、試合は2-0で幕を終えた。
帰るとまたもや霧島が来やがりました。
「なあ天谷、一つ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「もしかして天谷って、サッカーしてた経験あるのか?」
「いやない。どうしてそんなこと聞いてきたんだ?」
「いや、なんというか。あの絶妙なアシストパスに加えてその前のあのボールの扱いはプロのそれだった。正直驚愕していたんだけど、それでマルオ君と同じで天谷もサッカー習ってたりするのかなと」
「あれは誰でもできる」
いやできないと思うけどなあ…と独り言ごちに呟いているがそんなことオレのしったことではない。
そしてこの後すぐに最終戦に向けチーム決めをしようとしたその時だった。
「なっ!」
「嘘だろう……」
「い、一体……?」
男子の過半数の顔は驚きに包まれているその彼らの見ているものは、体育館から帰ってきたクラスの女子生徒一同だった。
いやそんな驚くことじゃない。
「女子はバスケ早めに終わったから見学するってよー。できるなら俺も参戦してかっこよくゴール決めて人気を集めたいところなんだが――――」
河合せんせーい、本音、本音漏れてますよー。
「そうもいかないからな。とくと皆にかっこいいところみせてやれよー!」
「おい、これはチャンスだぞ!」
「ああ、ここでかっこいい姿を見せたら、もしかしたらモテるかもしれない!」
「だな!」
と、青春を夢見る男どもはまた何とも愚かなことを申してらっしゃる。ああ、あさはかなり。すると、そんな群衆の中に一人の坊主頭……もとい嘉田が堂々と現れた。
「おい、男子ども。よく聞け」
興味ないので失礼します。
「訊く気ない奴もよく聞けっ!」
お断りします。
「天谷、てめえだよ!」
指名すんじゃねえよ!
仕方なく訊いたやることにした。
「俺は、たった今、姫川さんと話をしてきた」
「なっ、ど、どんな話を……」
「このサッカー勝負、勝ったチームの奴らの中で一人だけ、姫川さんの手をにぎにぎしてもらえる権利をもらえまああす!」
「「「「「「「「「な、なんだってえええええええええ!!」」」」」」」」」」」
な、なんだってー(棒読み)
「つ、つまり」
「このサッカーで試合に勝てば」
「姫川さんの手をにぎにぎできるチャンスがあるってことか!?」
「そのとぉーーり!さあ、そんなわけだ。オレのチームに入れば確実に勝てる!選手募集」
「「「「「「「「「「俺俺俺俺俺俺!」」」」」」」」」」」」
男子は皆そうして嘉田の方へと集まっていく。
ていうか、まだその姫川のノリあったのかよ。
後、にぎにぎって言い方がやっぱりキモイ。
アイツもまた変な事するのな……
さらっと目を向けてみると姫川の目はキラキラ光るお空の星よ。
更にはウインクまでしてお星を飛ばしてくる。
なんですか、かわいいっていわれたいんですか?
そんなやつのことはひとまず置いておいてオレは嘉田に集まる群衆とは離れ一人終わるのを待つ。
するとそこに霧島もやってきた。
「同じチーム、いいかな」
「ま、少ないし、いいんじゃないのか」
「ありがとう」
あんな頭の中がフラワーショップみたいな奴らと一緒にやるのは気が引ける。それなら、霧島のいつもやっていることは話は別。コイツと組んだ方がいい。
さて、この試合。どうなることやら。
☆ ☆ ☆
一方で、とある派閥ではその中でも話し合いが行われていた。
「なあ、どうするべきだと思う?」
そういうのは淡島だ。
その話し合いの内容は、一体どちらのチームにつくか。
「勝率はどっちの方が高いと思う?」
「絶対マルオの方だと思うぞ」
「しかし待て、あの天谷に霧島だぞ」
「かつ確率は十二分にある」
「まあ待てお前ら」
そこで淡島は一度場を鎮める。
「今考えるべきはそこではない」
そこからその本題について話し合いが行われ、そしてついに結論が躍り出た。
「よし……悔しいがそうするしかない」
「ああ、それが一番だ」
こうして淡島の派閥の面子は決断をしたのだった。
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