第20話 今度こそ出発
「おはようございます。セントさん。」
「おお、もう朝かアル体の調子はどうだ?何か変化はないか?」
やけに心配してきますねセントさん。あ、でも目の前で私が消えたのですから当然でしょうか。
「特に変わったことはないですね。あ、でもしいて言えば
このペンダントが蒼い見た目に反して熱をかなり持っているんですけど、
何か魔術でも付与されているのでしょうか?」
「ああ、最近は見た目と逆の効果を付与するのがはやりらしいぞ。」
「へぇそうなんですね。少し不便ですけど気にしたら負けですかね。」
そう言い、ペンダントをシャツの下にしまう。
「それよりも、我らのお姫様を起こしに行かなくていいのか?」
さっきよりも目が覚めたのか、セントさんのからかいが混じりだしたようですね。
「そうですね。そろそろ起こしに行きます。
セントさん、このナイフの魔術付与、今日こそ教えてくださいね。」
扉の向こうに消えるアルに
「おう、みっちり教えてやるよ。」と余裕な声色で答える。
それにしても、ペンダントが発熱する機能なんてなかったはず。
考えられるのは、ほんとに発熱機能が付与されているか、魔力の供給過多が原因だな。
ユアにあとで調整させないといかんな。
「ユアさん!おはようございます。一昨日はもうし」
セントさんを置いて部屋を出た矢先、同じタイミングでお嬢様の部屋から
出てきたユアさんに挨拶をする。だが、その言葉は最後まで口にだせなかった。
ユアさんが私の胸に飛び込んできたからです。
受け止めながら小さい娘をもった父はこのような気分でしょうかと思う。
「どうしたんですか?ユアさんいきなり飛び込んできて…」
「いや、別に…少しつまずいただけ……」
「いやそんなわけないでしょう!」
はぐらかそうとするユアさんを問い詰めようとまぶたに半分隠された瞳を見る。
「うん、嘘……アルにそうしたかったから…それだけ……
お嬢様がアルを呼んでる…はやく行ったほうがいい……」
「お嬢様が私をお呼びですかそれは急がないといけません!
この件は後程聞きますので。」
慌てて部屋に入るアルを見ながら、さっきのペンダントの異変について考える。
あのまま放っておいたら暴発して辺り一帯を吹き飛ばしていた。
とっさに取った行動とは言え、役得だった。
アルとわたしの魔力が混じったものを吸い取るためとはいえ飛び込んでしまったのだから。
嗚呼、アルの体温を感じれたうえに、アルの熱い魔力を取り込めるなんて…
「失礼します。お嬢様、お呼びでしょうか?」
部屋に入ると真正面に立つお嬢様と目が合う。
「ええ、今回の騒動について話したくて…」
うん?お嬢様にしては珍しいですね歯切れの悪い言葉の切り方なんて。
それよりも今回は私のせいで皆さんに迷惑をおかけしましたから先に謝るのが正しいですよね。
「その件については誠に申し訳ございませんでした。私の不注意が原因です。」
言い終え、頭を深く下げる。
叱責が待っていると思い、耳を傾けるが聞こえてきたのはまったく予想していないものだった。
「人を導く立場の者として、ダンジョンにいきなり行くなんて
無謀なことを決めてしまった私が悪いの…アルは私のわがままに振り回された挙句
命を落とすことになったかもしれないのよ……」
そんなことはないと否定するために顔をあげるも、口を開かせないように遮る、か細い声。
「…ほんとにごめん…ね、アル。こんな主人でごめんなさい、弱気になってるわね。」
普段の明るい表情は伏せられ、影がさす。
「こんな姿見せられないわ。よし!アルには謝ったから問題解決よね!」
無理やり明るい雰囲気を出そうとするお嬢様に
「お嬢様は自由に羽ばたいてください。ついて行ってお守りするのが私の役目ですから。
それにお嬢様のわがままのおかげでこの人生は色づいているんです。自身をお持ちください。」
一瞬、ハッとした表情がふわりと微笑みに変わり、いつもの自信あふれるお顔になる。
「そう、ならどこまでもついてきてもらうわよ!あなたは私のアルなのだから!」
「はい、どこまでも!」
朝食を食べようと部屋を出る。
だが、扉の目の前にユアさんが立っており、心臓が跳ねそうになる。
「ユアさん、すいませんタイミング悪く開けてしまって。」
「別に大丈夫…お邪魔はいけないからここにいただけ…」
「もしかして聞いていたんですか?」
「うん?なんのこと、それよりももうみんな座って待ってる……」
ユアさんは話しをそらすのが上手いから困ります。あとで聞かないといけないことがたくさんですよ。それよりも今は、はやく移動しなければ。
「さあお嬢様、こちらへ。」
朝食の場で、謝罪を述べると逆に謝られてしまった。うちの馬鹿が言わなかったらよかったんだとセーゲル男爵が言い、お互いに謝る場をセントさんが止めてくれる。
そんなひと悶着もあったけれど食べ終わるとすぐに出発だったために慌ただしく馬車に乗り込もうとする。
ディーンとセラが大きな荷物を背負って近づいてくる。
「あれ?お二人ともその荷物はどうされたのですか?」
「父から聞いていないですか?私達も王都の学園に入学するので、旅に同行させてもらうって。」
「そういうことなので、セント様のことをじっくり観察することができます!」
少し驚きながらも、知り合いがいるほうがお嬢様も学園で安心できるでしょうと思い、
「お嬢様、お二人をそちらの馬車に乗せていただけますか?」
「ええ、構わないわ。」
「ありがとうございます。それでは、私はセントさんとまた警備につきますので、
ユアさんお嬢様を頼みます。」
「任された…」眠たげな表情だが、しっかりと仕事を果たしてくれそうだと思い、
その場を去ろうとする。
「アルさんすいません、私達のせいでお嬢様から離させてしまって。」
「いえ、大丈夫です。それよりもお嬢様と仲良くして頂けたら
私は嬉しいので、ではセントさんと打ち合わせをいたしますのでこれで失礼します。」
「いいな~セント様と一緒にいられるなんて。」
「セラ、馬鹿なこと言ってないで、お嬢様に挨拶をしに行きますよ。」
「はいはい。わかってます。」若干不貞腐れるセラを心配に思いながら馬車に乗る。
新たな出会いや経験を載せて馬車の隊列は王都に向かって進みだす。
元ロボット管理人って異世界で需要ありますか? 4696(シロクロ) @kokekoke
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