第19話 セントが捜索に出た後
屋敷に戻ったディーン、セラは執務室にいた父に事態を説明する。
「なに!アルさ、アル君がダンジョンで行方不明だと――
すぐに捜索隊を結成せねばいかん……街の衛兵だけじゃ足りんか、
やはり、探索者ギルドに依頼するか、うん?
そういうことは早く言え、セントが行ったなら問題ない。あいつが失敗したことは、
ないからな(あの時を除いて)。」
「父さんが話を遮って、喋りだしたからじゃないか。」呆れながら言い返すディーン。
「そんなことよりもお父さん、さっきの言い方からして、セント様の武勇伝を何か知ってるでしょ!話してよ!」
「また今度な。それよりも、お前が背負ってるルース嬢はどうしたんだ?まさか。」
「いや、これはルースグロア様がアルを探しに行こうとしたのをセントさんが止めるために気絶させたんですよ。」
「なんだ、じゃあ早くベットに寝かせてあげなさい。
タイミングよくローゼンハイツ家のメイドさんも来たようだしな。」
そう言い、開け放たれたままの扉から見えるユアを呼ぶ。
「ユアちゃん、ちょっといいかい?」
「どうかしましたか……なぜお嬢様がそのような状態に?」
半分ほど閉じられていた瞼が、さらに狭まり、セーゲル男爵をにらむ。
剣呑な気配を察知し、急いでディーンにもう一度説明させる。
「ア、 アルが……そう。とりあえず、お嬢様をベットに寝かせることを優先…
セラさんついてきて」
セントに任せるのは納得できないけど、それがアルの身を守るために取れる方法の中で最善なのだから、わたしはお嬢様が飛び出していかないよう見張ることしかできない…
…アル……
「アル!」ばっとベットから起き上がる。
「どうしたのルー姉?」
そばには、まだあどけないアルが同じベットで寝ていたようで、さっきの叫び声で起こしてしまったことを悟る。
「ご、ごめんね、ある。なんでもないわ。」
そう言いつつ、ベットに転がりなおす。
その時わたしとは、反対側のベットで同じく寝ていたユアがアルを抱き枕にしていることに気づき、こちらに引き寄せる。
なによ、あるが消えるなんて夢をみたのは、ユアが引っ張ったからじゃない。
こうして、抱き枕にすれば、安心してねむれるわ。
森に住み着こうとしている者
あの一行が入ってすぐ、血相変えて街に戻る二人と背負われた例のお嬢様を見つける。
ダンジョン内で何か起こったようですね。ですが、誰も外傷や血痕がないようですね。
これでは、何があったのか予測するのは難しい。
ならば、直接確かめに行きたいところですが、要注意人物が出てきませんね。とりあえず、今日のところは入るのを止めておきましょう。
そう決め、森に食糧調達をしに行く。夕方まで集め、豪華な夕食(焼き鳥、野草)を食べ、火を使った場所から離れた木の枝上で就寝する。
夜明けごろ森に誰か入ってくる足音に気づく。
寝ていたままの体勢でジッと息をひそめて隠れる。
こんな時間に森に入る人はまず、いない。なら、人型のモンスターでしょうか?
とりあえず、コッソリ様子を見ますか。
シルエットからして、オーガ辺りでしょうか。足音も人の3倍は重そうです。
うん?茂みに入ってしまって姿が確認できませんね。オーガくらいなら倒せますし、
近づいてみますか。
ふう。やっぱ、この状態でダンジョンはつまらんな。歯ごたえがない敵しかいないからな。
まあ、そのおかげで無事アルを助けられたけどな。
ダンジョンを抜け、外の時間がどれくらいか探る。夜が明け始めたころか。
急いで、森にアルを隠してダンジョン内に戻るか。いや、アルを回収するやつが必要か、ユアに伝えに行ってから、ダンジョンに隠れるしかないな。
ダンジョンから出てすぐの森に入り、大き目な茂みを見つけ、担いでいたアルを隠す。
だが、遠くで何か動くものの気配を感じ、急いでその場を離れユアの元に向かう。
ここら辺でしたよね、あのオーガが不可解な行動をしたのは。
辺りを捜索していると、朝日が顔をだす。
これで少しは探しやすくなりますね。
あれは何でしょうか。気になり近づいて見ると茂みから黒いズボンに包まれた足が出ているのを発見する。念のため、ナイフを構え茂みに突っ込む。
視界に入ってきたのは、燕尾服に身を包んだ黒髪の少年だった。
どうみてもダンジョンに入っていた令嬢付きの下僕ですよね。
なぜこのような森の中で寝ているのでしょう?
おっと目を覚ましたようですね。ここはひとつ、街の住人を装いますか。
……いつの間にか気を失っていたようですね。なぜ気を失ったのでしたっけ?
たしか、何か化け物と遭遇した後から記憶がない。もしかして、私あの化け物に殺されたのでしょうか。考えていても何も変わらないでしょうし目を開けて現実と向き合いますか。
………目を開くと目の前に広がるのは何か新種のモンスターでしょうか。
手入れがされていない長髪にくぐもった眼鏡をかけた人?だと思われます。
「あの大丈夫ですか?こんな森の中で寝るなんて自殺行為だよ。」
「たぶん大丈夫です、目の前の化け物が人であるなら、大丈夫です。」
「失礼ですね。れっきとした人間ですよ。どこをみてそのようなことを言えるのですか?」
不服そうに不審な眼鏡が言う。
「全体的にです。あれ、ここはダンジョンではなく外の森ですか、ということは、ほんとに人間なのですか!今までの非礼をお詫びします。申し訳ありません!」
辺りを見回し、目の前の存在を無視して状況を察した。
「わかればいいんですよ。それにしてもあなたここら辺では見ない顔ですね。
こちらとしてはあなたこそ不審者なのですが?」
「これは重ねてお詫び申し上げます。私は、ローゼンハイツ辺境伯家に仕える者で、アルと言います。」
「なんと!あの辺境伯家の使用人の方ですか。そう言えば私も名乗っていませんでしたね。
私は、この森に最近住み着いたサイモンといいます。」
満面な笑みで堂々自己紹介するサイモン。
「やっぱり、不審者でしたか。」
「そうともいいます。」
「この際あなたのことはいったん保留にしますから、まず私の上に覆いかぶさるのを止めていただけませんか?そうして頂かないといつまでも転がったままなのですか。」
「ああ、これは失礼。」
ようやく立ち上がり、近くにダンジョンがあるのを確認しやはり外なのだと理解する。
とにかく、私が無事だという報告を急がなければいけません。
この方のことはとりあえず保留にして、街に戻りますか。
「サイモンさん、あなたのことは怪しいですが私には急がなければいけない用事がありますので、今回は不問にいたします。では。」
そう早口で言い、街に向かって走り出す。
その背中に向かって呟く。
「アル君ですか、またどこかで会いましょう。」
このダンジョンに入るのは、また別の機会ということにしましょうか。
さて、どこに向かいましょう。やはりこの国の王都付近はたくさんありますからそっちですか
ね。
その後、私は街に戻り無事に帰ってきたことを報告し、自室で休むことになった。
それにしても、お嬢様が暴れないようにユアさんの魔法によって眠らされたままでまだ起きな
いうえに、そのユアさんも今朝から私を探しに行くと言い出たまま。
セントさんは、ダンジョンに単身突入し、まだ帰ってきていないとのことですし、少し休憩
したらお嬢様の元で待機しますか。元々辺境軍の方や、カーラさんなどがお嬢様をお守りして
いるでしょうから少し休憩するぐらい許してもらえるでしょう。そう考えながらベットに横た
わる。
目を覚ますと夕方になっていた。
慌ててお嬢様の元に向かうと部屋の中では、お嬢様が着替えている最中のようで、茫然とした表情でこちらを見ている、状況を理解したのだろう。若干頬を赤らめながら、魔力を集める。
「大変失礼しました!今でていき―」集められた魔力がそのままこちらに放出され、強い衝撃波を当てられたのだと遠のく意識の中理解する。
「ユアそこにいる、私に心配かけさせたでくの坊を部屋に寝かせておきなさい。」
まったく、セントに気絶させられるし、ユアに魔法で眠らされ、アルが帰ってきていると起こされて身だしなみを整えているときにアルが入ってきて、肌を見られるなんて、警備は何をしていたのかしら。昔からアルには、タイミングが悪く見られてきたけれど、誰かに意図的にこの状態にさせられているのではと思うようになったわ。怪しいのは、ユアとサーシャだけど、
サーシャは、ここにはいないのだからユアが犯人かしら。
そう思い、問い詰めようとユアを探すが部屋にはおらず、カーラがユアから引き継いだのであろうわたしの着替えを持って待っている。
「ユアは、どこに行ったのかしら?」
「ユアちゃんならルースお嬢様が先ほどアルを運ぶようにお命じになったのだから、
アル君の部屋じゃないかしら?」
苦笑いのカーラを見つつ、さっきの言葉を思い返す。
そういえばそうね。まあ、すぐ戻ってくるでしょうし、その時にすればいいわ。
「それよりもルースお嬢様?春先ですので、その恰好でおられると体に悪いですよ。」
自らの恰好を確認して、慌てて着替えに手を伸ばす。
ドサ
「ふぅ…アルも重くなった……」
そう言いつつベットにアルを寝かす。
セントがいい加減だから朝から無駄足だった…
でもアルが無事でよかった…けれど、事前調査では何も問題はなかったはず、
なら直前に何か変化があったか、ダンジョンの方ではなくアルに問題があったかということ…
アルの乱れた前髪を直しつつ、アルの顔を覗き込む。
「アル、いったいダンジョンで何をされたの?」
それに、森で感じた妙な気配も気になる。
とにかく、セントが戻ってくる前にもう一度森の調査だけでもしておこう……
扉を開けようとノブに手をかけながら、ベットで眠るアルをもう一度見て、部屋を出る。
そのころ、ダンジョンにて調査をしているセントは。
「とりあえず、アルを見つけたこの最深部まで戻ってきたが、普通の目じゃやっぱ見えない
暗さだな。アルの目がこの状況で見えていたかは、本人に聞かないとわからんが…」
誰もいないように見える暗闇で、誰かに話しかけるように喋る。
その言葉に返事をする者がいる。
「でも、アル様のことだから能力がこの極限状況で覚醒していたかもしれないわよ?」
そう答えるのは、先日サーシャが使い魔として飛ばしていた蝙蝠。
「もし、アルが暗視でも出来ていたら俺のこの姿が見られたかもしれん。」
宙に浮かぶ己の体と眼下に広がる街並みを眺めつつため息を吐く。
「あんたが横着するからよ。アル様が見ていないことを願うしかないわね。
それよりも、このダンジョンでなぜアル様をこんな昔の街に運ばれたかが気になるわ。」
「ああ、確かにな。この街に運んだやつがいるなら、
しっかりとアルを連れ去った理由を聞きださないといかんからな。」
それからしばらく、闇に包まれた無人の街を探索するも手掛かりは得られなかった。
そのうえ蝙蝠の姿はいつの間にか消えている。
「サーシャのやつ俺に何も言わずに帰りやがった!それよりも夕飯の時間が過ぎていないか心配だな。」
セーゲルの屋敷に戻ったセントは部屋で眠るアルを微かに開けた扉から覗き見て、静かに寝息をたてるアルを確認すると扉を閉め執務室に向かう。
執務室にズカズカと入る。セーゲルが机で書類とでもにらみ合いを繰り広げているだろうと思い部屋の中を見る。
だが、そこにはサーシャがいるだけでセーゲルの姿は見えない。
「あら、遅かったじゃないセント。そっちは何か見つかったの?」
「夕飯食べ損ねてまで探したのに何も怪しいものはなかったな。お前の方はどうなんだ?」
「こっちも収穫なしよ。そもそもあれくらい一瞬で探し終わるでしょ。」
「俺はお前と違って戦闘特化なんだよ!それよりもセーゲルはどうした?」
「ああ、彼ならルースちゃんと明日の出発時間の調整をしているわよ。」
そういえば、本来なら今日出発の予定だったな。
「まあ、無事アルも見つかったからな。王都の到着には余裕があるとは言えゆっくりしすぎるのは危険だしな。」
「まったくあなたが付いていながら、アル様を助けられないなんてどうかしてるわ。」
「わたくしなら、魔法でこじ開けてでも後を追いますのに。」
ジト目で責めるようにサーシャが詰め寄る
「いやいや、いくらお前さんの魔法でもダンジョンの構造物を壊すのは、時間がかかるだろ。」
ぶすっとした顔で言い返せずににらむサーシャを見て、ようやくこの話しも終わると安心する。
だが、後ろに組んでいた手をおもむろにこちらにかざし、一サーシャの右手に魔力が集まるの
を見る。
「いや待て、こんな室内で魔法をぶちかます馬鹿じゃないよな?」
無言で魔力を集め続ける様子を見て、窓から飛び出ることでこの状態を打開しようと試みる。
目に飛び込むのは、己の強靭で図体がでかい肢体よりもかなり小さい窓。
どうにか出れないかと窓枠に触れるが窓自体が開かない造りのようだ。
諦めてサーシャを振り返り見る。暴走した者の後ろでにこやかな笑みを浮かべる者がいる。
「おい!セーゲル笑ってないでサーシャを止めろ!お前の部屋が消し飛ぶぞ!」
「まあ、セントの面白い姿も見れたから部屋くらいどうってことはない。」
その言葉を合図にしたのか、サーシャの手から高温の熱を圧縮した光線が放たれる。
魔法を放ったことで気分が晴れたのか「この魔法ならダンジョンの床くらい貫けるわよね。」
笑顔で言うサーシャだが、意味もなく開けられた穴から入り込む風の音が責めるようにうなる。
「なんの話かわからんがその壁直しておいてくれよ。」
「はいはい。今直しますわ。」そう言い、壁の穴に近づくサーシャ。
「おいまて、俺のことは無視ってことでいいのか?」
若干怒りそうになる気持ちを抑える。
「俺じゃなきゃあんな危ないやつ避けれないぞ。」
「そういえば、サーシャはあのダンジョンについてどう考える?」
「そうね~入口からボス部屋までは普通のダンジョンそのものだったけれど、
セントが倒したゴーレムについては異質だったわ。それに本来宝物庫が
あるところは広大で古の街ということも気になるわね。」
「まさか、うちの領地から変わり種のダンジョンが発見されるとは、それよりも
緊急事態とはいえダンジョンが踏破されちまったことの方が問題だな。」
「さて、そちらの責任ある立場の方、何か釈明はあって?」
ニヤニヤとおちょくる顔のサーシャ。
ぐ、無視したことを言い返すタイミングを潰されちまった。どこかでやり返さねば。
「その点については俺の怠慢だ。セーゲルすまなかったな。」
「まあ、別に問題はない。こんな小領に強者が来ることなんてほとんどないからな。」
「とりあえず、問題が解決したことですし、解散でよろしいのでは?」
「そうだな、明日は朝から出発で忙しいだろう。解散ということで。」
厄介ごとはごめんだといわんばかりに早めに切り上げるセーゲル。
「お前らいつか仕返しするから覚えておけよ。」
つい昔の癖で馬鹿な発言をしたもんだ。そう思いながらアルの眠る自室に戻る。
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