FOR YOU


「こんなにもたくさん、一人でなんてさすがに食べきれないよ」


 昼休み、クイズでプレゼントを手に入れた樋口に、橘は声をかけられた。


「まさか全問正解されるとは思ってもなかったので」

 頭をかきながら橘は、ごめんと謝った。 


「だから、一緒に食べよ」

「それは樋口さんへのプレゼントだから。家に持って帰ってから食べてもいいから、ぼくに気を使わなくても……」

 遠慮がちにやんわり断るも、


「いっぱい食べさせることでわたしを太らせて、嫌がらせするのが目的なの?」


 彼女は目を細めて睨んできた。

 そんなんじゃないよと、橘は慌てて首を横に振る。


「だったら、一緒に食べよ。誕生日の人の言うことを聞いてくれてもいいでしょ」


 ぼくも誕生日なんだけど、と橘は小声でつぶやけば、

「今なにか言った?」

 大きな声で鋭い返しが飛んできた。

「な、なんにも言ってません」

「素直でよろしい。じゃあ、一緒に食べよ」


 樋口はクレープの袋を開けると、半分に分け、一方を橘に渡し、残りをかぶりつく。

「んー、うまっ」

 樋口は嬉々と声を上げた。

「いつもの薄いけどモッチモチのクレープ生地に、カスタード仕立てのパンプキンクリームの中にパンプキンの餡が入ってる。濃厚でねっとり甘~い。カスタードもミルキー」


 橘もひとくち食べてみた。

「これ、おいしいね」


「だよね。ちなみに今日の記念日って、他にはどんなのがあるの?」

 クレープをあっという間に食べ終えて、樋口はたずねる。


「今日? アルトバイエルンの日とか熟成肉の日とか。仙台牛の日なんてのもあったかな」


 思い出しつつ橘が答えると樋口の目の色が変わった。


「肉づくしじゃん! クレープやマカロンもいいけど、来年はお肉がいいな~」


 えっ、と橘は声を上げる。


「ムリムリ、高いってば」

 慌てて顔の前で仰ぐように手を振る。


「でも食べたいな~」

 えへへ、と樋口は両手を組んでねだってみせる。


「僕だって食べたいよ」

「いつか食べよ」

「いつかね」

「約束したからね。来年は熟成仙台牛のステーキが奢ってもらえるんだ……ヨダレが」

 橘は思わず口に手を当てた。


 奢らない奢らない、と橘は首を横に振った。 

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