守護戦士の転職記録

オオジロ

第1話 解散

「「結婚する事にしたんだ」したの」


賑やかな、熱気に溢れる酒場

その言葉に酒場で酒を飲んでいた

俺達のパーティーが凍りつく。

多くの冒険者パーティーでは恋愛はご法度だった。

場合によってはパーティー内の秩序を揺るがす事があるからだ。

恋や愛にはそれだけでの力がある。

恋や愛は時に人へ大きな力や勇気を与えるが、同時に慎重さを殺す感情にもなりうるのだ。

パーティー内での恋愛はご法度、

そのもはや常識とすらなった暗黙の制度は多くの冒険者、それだけで無く冒険者では無い一般人にすら認知されている。

結婚を言い出した彼らが知らないなどはあり得ないだろう。


「今…なんて言った…?」


顔に大きな傷のある男が立ち上がり結婚を言い出した男に睨む。


「僕はセーラと結婚する。

それに伴って冒険者も辞めようと思っている。」


賑やかな酒場のこの空間のみ重い空気が満ちる。

傷面の男は確かめる様に結婚を言い出した男に問いかける。


「…お前…本気で言ってんのか…?」

「みんなには、本当に申し訳ないと思っている…パーティーをやめる理由だって、僕らの勝手な理由だ。そしてそれがこのパーティーの解体に繋がる事も分かっているよ」

「…本気なんだな?」

「あぁ」


傷面の男が力無く座り込む。

しかし、その拳は握り込められ震えている。

感情の爆破を必死に抑えているが時間の問題だろう。

しかし、我慢しているのは何も彼だけでは無い。

俺の横に座る修道女の女もマフラー巻いた軽装の青年もかく言う俺も平静を装っているが既に限界だ。

そして遂に感情の波を堰き止めていた堤防が崩れ去る。

瞬間、傷面の男は両手を頑く握りしめて振り上げる。

それと同時に俺や修道女、マフラーの青年も立ち上がり拳を突き上げた。


「「「「遂にやったぞぉぉぉぉぉぁぉぉぉぁぉお!」」」」


俺達パーティーメンバーは雄叫びを上げたのだった。


・・

・・・


簡単に言えば俺達パーティーメンバーは決して怒っていなかったのだった。

むしろ、下世話だが「早く結婚しろ」とすら思っていたのだった。


「そうか…っ!やっとか!遅すぎんだよリドム!後1年経ってたら俺はお前の事ぶん殴ってたぞ!」

「すまない、ゾード。

でもやっと自分のこの旅に納得が行ったんだ。それと同時に、

僕は元いた巣に帰ろうと思ったんだよ、

彼女を連れてね。」


そう言ってリドムは隣に座るセーラを見つめた。目のあったセーラは恥ずかしそうだがそれ以外に嬉しい様で口角が上がり、顔も赤くなっている。チラチラと修道女の方を見ている辺り早く喜びを語りたいのだろう。

一方の修道女も目を輝かせて嬉しそうに微笑んでいる。


「お前ら!今日はうちのパーティーリーダーの結婚記念とパーティー解散記念日だ!遠慮はいらねぇ!盛大に飲み散らかせ!

おら!グレイも食って飲んで楽しめ!今日は世界最高の日なんだからなぁ!

あっはっはっはっはぁ!!!」

「言われなくとも食うし飲むに決まってんだろ!それと、僕はグレインだ!ンを抜かすな!」

「そそそそそれで!どんなプロポーズだったんですますございますか?!」

「シェリーちゃん語尾凄い事になってるよ!?え、えっとね!部屋に戻ったらリドムから手紙があって時計塔で…」


槍使いのゾードがスカウトのグレインを連れてカウンターに酒を取りに行き、修道女のシェリーがセーラを問い詰めている。問い詰められているセーラも満更でもないようだ。


「全く…あいつらは…」


そう言いながら腰掛けるリドムの顔は

呆れを含みながらもどこか嬉しそうだ。


「おめでとうリドム、お前達の幸せ。

心から祈っている。」


俺はリドムに向かって祝福の言葉を捧げる。


「ありがとう、ガンズ 。

これまでパーティーがやってこれたのは、

間違いなくお前が居てくれたからだ。」


嬉しそうに言葉を返してた後、

リドムは直ぐに顔を落とした。


「本当に…すまない…」

「そんな顔するな。

これから夫になる男の顔として相応しくないぞ。…笑え、セーラを不安にさせてやるな。

何、どうとでもなるさ。」

「…ありがとう」


そう絞り出すとリドムは言われた通りに

笑顔となった。

カウンターから大量の料理と酒を掻っ攫って来たゾードとグレインが戻ってくる。

こうして俺、ガンズの所属するSランクパーティー「金鷲の大翼」最後の夜が更けていった。

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