ダウングレードした世界でどこまで耐えられる?

ちびまるフォイ

この世界を知ったらもう戻れない

「こんなにも貧富の差が拡大し、世界環境は汚れているのに

 まだ人間は新しいエネルギーが必要なんですか!?

 そこまでして開発をする必要があるんですか!?

 これ以上の発展がなにを失っていくのかわかっているんですか!?」


「ふざけるな! 人類の発展に代償はつきものだ!」

「文明を後退なんてさせるものか!」

「今さら昔の生活に戻れるわけ無いだろう!」


「「「 今の生活を破壊させるものか!! 」」」


「すでに世界崩壊はすぐそこまで来ているんですよ!

 あなた方の発展も栄華も文明も、破滅への道だとどうして気づかないのですか!」


「お前は貧しい世界にいるから嫉妬しているだけだろう!」

「そうだ! だったらお前も発展するだけの努力をすればいい!」


「世界をここからダウングレードをします!!」


発展した国からの多くの反発と、貧しい国からの多くの賛同により

世界は一斉にダウングレードされて同じ状態となった。


高さを競っていた高層ビルも竪穴式住居となり、

道路には車ひとつ走らなくなった。


「はあ……不便だなぁ……」


「いいから黙って畑をたがやせ。冬が来る前に収穫できないと飢えるぞ」


「なんでこんなこと手作業でやらなくちゃいけないんだ。

 その気になればコンバインだって使えるだろう?」


「バカ。コンバインなんて近代のものを使ってみろ。

 石油石炭を使って環境を汚す危険分子だとして処刑されるぞ」


「でも……現代のもやしっ子の俺たちが今さら農作業なんて……。

 あの車庫にはまだコンバインもあるんだろう? 少しくらいならわからないよ」


「お、おい! やめろ!!」


男がコンバインのエンジンをかけた瞬間だった。

監視ドローンが重機の起動を確認して本部に連絡した。


「いたぞ! 環境破壊者だ!!」


「はなせーー! なんで使っちゃいけないんだよ!」


「そういう思考が世界を破壊するんだ!」


たちまち確保されてそのまま高い壁の牢獄へと幽閉された。


ダウングレードされてから人々の生活は平均化され、

旧石器時代さながらのサバイバル生活を余儀なくされた。


ごく一部を除いて。


「くそ……また監視者だよ……」


「あいつらばかりずるいよな。きっとクーラーのきいた部屋で

 コーヒー広げながらパソコン飲んでいるんだろうぜ」


「監視者だけが最新技術を使えるなんて卑怯だ」


ダウングレード後に発足された「世界監視委員会」では、

近代文明の利用をことごとく取り締まるために最新技術をフル活用している。


原始人にまでグレードダウンさせられた旧人類がどこでなにをたくらもうと、

超近代技術によりあっという間に察知されてしまう。


「あいつらばかり近代技術が使えるなんて、それこそ不公平だよ」


文句を言うと、すぐに監視委員がすっとんできた。


「委員会へのヘイト独り言を感知しました。それ以上は逮捕案件になりますよ」


「当然のことを言ったまでじゃないか。なんでお前らばかり近代技術使えるんだ!」


「あなた方のような世界を破壊に導く危険分子がいるからですよ。

 同じようにダウングレードしたら、取り締まるものも取り締まれないでしょう」


「取り締まるべきはお前ら自身じゃないか!」


「屁理屈を。そんなに羨ましいならお前も監視員になればいいだけだろう」


「それだ!!」


ダウングレードしてからもなお近代文明の恩恵を忘れられない人たちは

続々と監視委員へと入隊して、失われていたオーバーテクノロジーを取り戻した。


「ああ、クーラーだ! クーラーが効いているぞ!」

「こっちはパソコンがある! スマホだって!」

「冷蔵庫だーー! 電子レンジもあるなんて最高だ!!」


「ちょっと待てよ。うちには電子レンジないぞ?」


「そっちのクーラーのほうが良さそうだな。変な匂いしないじゃないか」


人類の半数が世界監視委員会になってしまうと今度は別の問題が発生した。


監視委員会といってもすべてが同じ文明に揃えられるわけもなく

ちょいちょい地域ごとでの差が生まれてしまっていた。


「監視員会も平等な文明にすべきだろ!」

「そうだ! あっちだけグレードアップしているなんてずるい!」

「もしかして、こっそり新技術開発している危険分子じゃなかろうな!!」


のちに洞窟の壁画絵に記された第一次世界疑心暗鬼戦争が勃発した。


結局、誰もが最新技術にあやかりたいと世界監視委員会は

お互いの同士討ちを始め監視という名目での略奪行為と戦争がはじまった。


最終的に「世界監視委員会」の人員も当初の半分以下になり、

本来の目的であるダウングレードした人類の監視もままならなくなると組織は解体された。


「やっぱり最新技術というのは悪魔のささやきなんだ……」


「こんなにも人を狂わせる危険な文明の上に立っていたのか」


「ダウングレードして気づいたよ。毎日の生活のありがたさを……」


戦争という悲劇にこりた人類は監視委員会が解体されてからも

ダウングレード後の生活を続けるようになった。


毎朝、日の出とともに起きて、日が沈むと家に帰って眠る。


嫌な上司に頭を下げることも、疲れる電車に揺られることも

数学のサインコサインの使いみちを考えることも、

君が代の歌いはじめのタイミングを推し量る必要もなくなった。


近代というすべてのしがらみから開放された人類は幸せに暮らした。


地球から失われていた緑が取り戻され、ズタズタだったオゾン層も修復され

汚され尽くしていた海には魚が戻り、空には星がよく見えるようになった。


世界がもとに戻ったのを確認してから指導者が立ち上がった。


「みなさん、これまでダウングレードした世界で本当に頑張りました。

 おかげで世界環境はもとに戻りましたよ! 本当によかった!

 これからは環境を壊さないように発展し、元の生活を取り戻して行きましょう!」



すると、今度は世界の人々たちから大量の声が寄せられた。



「ふざけるな! 人類の発展なんて必要ない!」

「文明を前進なんてさせるものか!」

「今さら昔の生活に戻れるわけ無いだろう!」



「「「 今の生活を破壊させるものか!! 」」」



と。

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