魔族を滅ぼした勇者が、人類に反乱を起こした。
たった4人の人間に軍隊は蹂躙され、大国は滅び大勢の人が死んだ……。
事ここに至り王侯貴族達は慌てふためき、人々は絶望した……。
そしてある男が現れる。
その男は力も武勇も無く魔術も使えない、とある小国の王弟。
小国の王弟なので自由に使える軍隊も持っていなかった。
だが、勇者達はその男の「策」に翻弄されていく。
魔族を滅ぼした程の勇者が、只の人間の掌で転がされていた。
◇◆◇
主人公ですが最初は只々胡散臭い、という印象しか無かったです。
それが口八丁手八丁で各国の王を懐柔し、あの手この手で一人また一人と、強力な力を持ち人類の敵となった勇者達を陥れていく。
どんな強大な能力があろうと元は只の人間。
油断を付けばあっという間に倒せる。
理屈は正しい。
だけどそこで一つの疑問が浮かぶ。
「――最も多くの命奪った人類の武器。即ち答えは“毒”です」
劇中のセリフですが「なるほど」と思った人、騙されないで!
腕力もチートも無い人間がどうやって人類最強の「勇者」に毒を喰らわすの!?
勇者に対して武力行使を選び、力に力で対抗して滅びた国のなんと滑稽な事……。
読めば読むほどそう感じさせる、説得力のある完成された文章力も見逃せない。
正直痺れました!!
もっと多くの人に読んでもらいたい!!!
舞台は剣と魔法の世界。
魔族たちを倒して人類を救った勇者たち。
尋常ならざる戦闘力を誇る勇者シャング。
強力な魔剣を使いこなす戦士ドッペ。
冷静な判断力を持ち死人をも生き返らせる神官フーリッツ。
強力無比な魔法でどんな敵をも打ち倒すラウハ。
ここまではある意味ファンタジー世界のテンプレともいえる設定です。
しかしこの物語では「そもそも国家機関に属する軍隊でも敵わないような魔族を滅ぼすほどの力を個人が持っているとき、果たして彼らは秩序を守る存在になりえるのか」というタブーに切り込んでいます。
考えてみれば王様に「魔王を倒してくれ」と言われてそれを実行できるほどの人間が、その後で王様の命令に素直に従い続けるものなのかという疑問はあってしかるべきなのかもしれませんが、この作品ではその危惧が現実となります。
彼らはその戦闘力を行使して、略奪と殺戮を行う人類の敵になってしまうのです。
そんな勇者パーティに立ち向かうのがトルラハンという国の王弟を名乗るリコウトという男。
しかし彼自身は剣も魔法も使えない、ごく普通の人間です。
そのリコウト、話が進むにつれて彼の正体と過去の因縁が明らかになっていくのですが……。
いわゆる王道からはあえて外したピカレスクな主人公が活躍する物語です。
予測不可能な展開に引き込まれること間違いなしです。
是非ご一読を。