第7話 終話
あれから数年が経った。その間、アタシ達はBG、エビスに会う事はなかった。そうしてアタシは今日、このおんぼろアパートを出る。
BG達と出会った後、スグルはブートザキャンプのほかにダイエットを始め、めちゃくちゃにスリムになった。そして、昨年、ミスターレディコンテストの準グランプリになった。準グランプリのスグルはめちゃくちゃ綺麗で、銀座にあるクラブからたくさんのスカウトが来た。その中の一人に根負けしたスグルは、飲めないくせに銀座でホステスをする事になった。
ホステス?になり、アタシも驚くほどきれいになったスグルは、すぐにジュリアスという彼氏を見つけて、この部屋を出て行ってしまった。
「今まで楽しかったわ」
涙を流してサヨナラをしたスグルの姿をアタシは今日まで忘れた事は無い。多分、一生忘れないだろう。
アタシは例のバイト先で、賄いをよく食べるという事で、『賄いリーダー』なるものに任命された。アタシの作る賄い食は従業員たちに好評で、店の定番メニューになった。しかも、そのメニューがお客にも大好評で、チェーン店の看板メニューになった。この結果を店のお偉いさんが認めてくれて、アタシはフリーターから正社員と転身し、先月、この店舗グループのメニュー開発担当責任者として重要なポストを任されるに到った。そして、今度、新店舗開発グループのプロジェクトに参加する。
エビスの言葉を思い出し、呟く。
「目覚めただけ…」
漠然と『成り上がる』と考えていた『夢』を壊し、アタシは新しい『夢』に目覚めた。ゴールの先まで楽しむ自信も僅かだが有る。
カーテンの外れた窓から、引越しのトラックを見送ると、長い間住んでいた部屋とは思えないほどの寂しさを感じた。玄関先で部屋を見渡し、鍵を閉めた。カンカンと音を立て階段を降りる。この音を聞くのも最後になるのだろう。貧乏で迷い続けた数年間。スグルと過ごし、BG、エビスと出会ったこの場所。アタシはアパートの前で最後にもう一度、振り返った。そして、駅へと歩き出した。
エビスとBG メガネ4 @akairotoumasu
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