11 エピローグ 花、芽吹く季節のこと

 エピローグ


 花、芽吹く季節のこと


 ある日の朝の通学路の途中で、花村睦は一緒に歩いていた宮森実に向かって、「私の恋の相談に乗ってくれてありがとう。すごく嬉しかった」と本当に幸せそうな顔をしてそう言った。


「別に構わないよ」実は言う。

 それから実は冗談のつもりで、「……それで、お前の好きな人って結局誰だったんだよ?」と聞いてみた。

 実は睦の恋をしている人が誰なのか、その答えを当てることができていた。

 あの日、あのとき、桜吹雪の舞う世界の中で、睦は実の答えを聞いて、「正解」と世界で一番幸せそうな顔をして、にっこりと笑って実に言った。


 だから実は自分の質問の答えが『誰なのか』その名前を知っていた。知っていて、その名前を睦に呼んでもらいたいと思ったのだ。


 そんな実の魂胆は、もちろん睦にもよくわかっている。


 だから花村睦は、そんな宮森実の子供っぽい、言葉を聞いて、少しだけきょとんとした顔をしてから、ふふっと可笑しそうな顔で笑ってから、実を見て、「だめ。それは絶対に教えてあげない」と幸せそうな顔で実に言った。


 その桜の舞う世界の中で笑う花村睦の顔を見て、宮森実は今日もまた、花村睦に、本当の恋をした。


 世界には今日も、春の穏やかな、暖かい優しい風が吹いている。

 その風に乗って、世界には桜の花びらが数え切れないくらいたくさん、舞っていた。


「あ、今、宮森。私に見とれてたでしょ?」と睦が言った。

「見とれてないよ」

 実は(そんな、嘘を)言う。


 それから花村睦は自分の少し後ろで立ち止まっている宮森実のところまで歩いて行って、それから実の(カバンを持っていないほうの)空いている手をとった。


「いこ」睦が言う。

「ああ。そうだな」にっこりと笑って実は言う。


 それから二人は高校までの通学路を、桜の舞う、小川の横にある桜並木の道を一緒に走って、二人で手を繋いだまま、駆け抜けていった。


 朧月夜 終わり

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朧月夜 雨世界 @amesekai

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