好きな人に好きな人がいた。両思いだったーどうやら私は邪魔者姉貴分らしいー

華月ぱんだ。

第1話

私には幼なじみがいる。

2つ下の可愛い弟のような存在。

愛らしい笑顔と、花のような雰囲気。

彼は花の貴公子と歌われるほどカッコよくて、可愛かった。

相対して、私は彼とは真逆。

ツンとした雰囲気に、にこりともしない顔。

氷の女王と呼ばれているらしいから、顔はそれなりなんだろうけど。


彼は誰に何を言われても、私から離れようとはしなかった。


「大丈夫。麗奈ちゃんはとっても可愛いよ。みんな麗奈ちゃんの可愛さを理解しようとしないだけだよ。」


「そんなの分からないわよ。私は確かに表情筋が仕事してないけど…みんなが言うように、冷たい人かもよ。」


そんな事ないよと、彼は頬を膨らませる。

麗奈ちゃんも麗奈ちゃんを認めようとしてないねって。

彼はとっても優しくて良い子で…私なんかよりもずっと良い人が居ると思う。

なのに、小さな頃近所のガキ大将に虐められていた彼を助けてから、彼はずっと私に懐いてくれている。

私はただ、おねーちゃんぶりたくて、カッコつけたかっただけなのに。


だけど、彼はそんな事を考えてもいないのか、なんなのか、私がそう言うたんびにムッとした顔をする。

そう言う顔もまた可愛いのは罪作りなのではないだろうか。


…きっと、私は彼の優しさに甘えていたのだ。

依存していたのだ。


だから、彼がいなくなるなんて想像してなくて。

彼の心が他の子に向くなんて思ってなくて。


「ねぇ、麗奈ちゃん…相談があるんだけど…」


あの日。彼がいつもとは違う雰囲気を纏ってこちらに聞いてきた。

いつもよりも言いにくそうに。

躊躇いがちに。


嫌な予感がした。

はやる心臓を抑えつつ私は聞いた。


「ん?なに?優希斗。」


「僕ねぇ。好きな人が出来たんだ。」


「え?」


「それでねぇ…どうしたら仲良くなれるのか分かる?」


少し恥ずかしがりながら、こちらを伺って聞いてきた。

顔を赤くして。


「…誰が好きか分からないから、何とも言えない…かなぁ。私には分かんない。」


嫌でも自分の鼓動が伝わってきて。

気持ち悪い感触がある。


胸が痛くて…

息ができなくて…


それでも、私はお姉ちゃんだから。

強がって笑って見せて…


溢れそうな涙を飲み込んで知らないフリをした。

そうしないと崩れ落ちそうだから。


「そっかあ…」


そうやって言った彼はちょっと残念そうで。

お姉ちゃんがそうならしょうがないねって。そんな顔をした。


一緒に帰ろうと、そう誘ってくれたけど、今の私には罰ゲームのようでしかなくて。

ごめんねと断った。

このままだったら、泣きそうで。


その日、私はどうやって帰ったのか分からない。


なんで、なんで今なんだろう。

なんで気づいちゃったんだろう。


今まで気づかなくて、気づけなくて。

それなのに、どうして。

どうして今なんだろう。


この世界に恋愛の神様がいるなら、私はきっと嫌われてる。

だって。嫌でも目に入ってきてしまった。

今まで全力で蓋をしてきた、それの存在が。


あの子、優希斗への恋心が。


私の中にないと思ってたもの。

それは確かにそこにあって。


なんで…今なの?


でも、もう遅いんだよ。きっと。


しばらく経ったある日。

彼が告白に成功したと、風の噂で聞いた。


それから、校内で嫌でも目にするようになってしまう。

幸せそうな女の子と、それを愛おしそうに見つめる彼を。


胸が痛まないわけがなかった。


好きな人とその彼女。


彼のその愛おしそうな目線が、私に向けばいいのに。何度そう願っただろう。

でも、それは実際無理で。


いっその事こと別れてしまえと、願ってしまう嫌な私。

そんな私を知ってか知らず、彼は私を慕ってくれる。


憧れのおねーちゃんとして。


周囲からは、氷の女王の代わりに、こう呼ばれるようになった。

『邪魔者姉貴』、『悪役女王』と。


嗚呼。


なぜだろう。我ながら、ピッタリだと思ってしまう。

我ながら笑えてきた。


こんな黒い感情を悪きものと呼ぶならば、きっと私は邪魔者だ。

恋物語に出てくる、悪役だ。


でも。でも。きっと。

この感情も含めて、恋、なのだ。

こんな真っ黒な、霞んだ感情でも、やっぱり恋なのだ。

結ばれなかった恋の、愛にならなかった恋の慣れ果てなのだ。

名前をつけるとしたら、嫉妬…?

いいえ。きっと違う。

恋遺。恋の遺した感情。


嗚呼。


こんなに汚い思いでも、無くならないと言うのなら、いっそ、悪役になってしまってもいいだろう。


そう思ってしまう。


だけど、その度に脳裏に浮かぶのだ。


私が恋をした、大好きだった彼の笑顔が。


そして彼はきっと微笑んで言うのだ。


「おねーちゃんってすごいね!尊敬するよ。カッコいいな。憧れるな。」


「そんなおねーちゃんが、好きだよ。」


彼は忘れてしまっているだろう。

なんでもない幼い頃の一言。

そんな物を後生大事にしているのだ。


馬鹿みたいに。


わかっている。私は愚かだ。


だけど、唯一残ったプライドが、強く強く、主張するのだ。


それ以上、向こうへ行ってはいけないと。

彼の憧れる、カッコいい姉でいろ、と。


だから、私はこの想いに蓋をして、知らないフリをして言うのだ。


「幸せにね、2人とも。」


「うん!」


「はい。」


嗚呼。

私は愚者かな。

哀れかな。


結局、あの頃の想いに蓋をしたけど、忘れられなくて。

こんな所まで持ち込んでしまった。


もう、あれから7年経つのに。


…さあ、もう行こう。


今日は愛しい彼の、結婚式だ。


隣に立つのは私じゃないけど。


…私は愚かだろう。

阿呆者として蔑まれるだろう。


でも、いい。


嗚呼。


結局私は、どこまで行っても邪魔者姉貴なのだ。


…もう、覚悟は決めた。


さあ、結婚式をぶち壊しに行こう。



                



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好きな人に好きな人がいた。両思いだったーどうやら私は邪魔者姉貴分らしいー 華月ぱんだ。 @hr-panda

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