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 食事を終えた俺たちはまずは映画研究部辺りをまわってみようと言うことになった。

 何故、映画研究部かと言うとこの三人が映画について詳しく、部に魅力を感じたという訳では無くただ単に「大学のサークル」っぽいと言う間抜けな理由だった。

 所詮、田舎から出て来た三人組だ。その程度の知識だが詐欺にさえ引っ掛からなければ問題ない。

 既に自分の入居先は詐欺に近い気がすることは忘れよう。それに考え様によっては毎日、楽しく過ごせそうだ。やや、暴力的な人や変態が混じっているがきっと都会ではこれが当たり前なのだろう。

 さてそれが当たり前だとするとこれから向かう映画研究部も相当な覚悟を持って見学に行かなければいかないのでは無いだろうか。そんな不安が頭をよぎった。

 「どうした?やっぱり興味無かったか?」

 俺の顔を見て久志がてっきり映画研究部に行くことを拒んでいると思ったらしい。

 「いや、そんなこと無いよ。ちょっと緊張しているだけさ」

 「確かに緊張するよな」

 そう言う意味では三人で見学に行くことは心強い。この時ばかりは普段から口喧嘩ばかりの千尋ですら心強さを感じる。本人には絶対に馬鹿にされるから言わないけど。

 なにしろこっちは右も左も分からない田舎者だ。しかも初日から変な隣人達に囲まれて生活をすることが決定した。これは都会では当たり前のことなのだろうか。それを見極める為にもこのサークル見学は今後の俺の大学人生に大きく関係すると言っても過言では無い。

 「なんかやけに気持ち入ってるな?そんなに楽しみだったか?」

 俺の前のめりの気持ちをやる気の表れと汲み取った久志が落ち着かせようとしてくるが安心して欲しい。至って冷静だ。

 初日にパンツを頭に被った男がファーストコンタクトの田舎者に怖いものなど無いのだ。そう自分に言い聞かせながら久志が希望する映画研究部に向かう。

 それにしても大学というところは広い。

 自分達の通っていた高校は田んぼの真ん中にあった為、開放感には溢れていたが校舎自体は古く、昨今の少子化問題からか使っていない建物や立ち入り禁止の区域もあってか実際に高校生活を送る行動範囲は限られていた。

 それでも都会の高校に比べれば立派なグラウンドやプールもありきっとこの建物ができた頃はもっと活気があったのだろうなと思ったものだ。

 そんなノスタルジーに浸っていたぐらい程度には広さに憧れ?を持っていたのだろうが前言撤回しよう。そんな気持ちは微塵も無かった。

 コンパクト最強。

 スマホもでかくなりすぎだ。折りたたみ始めてるじゃないか。どこ向かってるんだよ。過去にもそんなやつ見たぞ。

 そんなどうでもいいことを考えている間に映画研の部室の前にたどり着く。広くて迷うからと事前に久志は道順を調べていたらしい。ただ広すぎる構内を全て覚えることも出来ないのであの食堂からのルートだけを覚えたそうだ。

 扉の前には何人かの俺達と同じような考えの連中がゾロゾロといた。

 「入部希望者?」

 不意に後ろから声を掛けられる。度の強そうな丸メガネを掛けた男が後ろに立っていた。

 「いえ、まだ見学段階です」

 雰囲気から先輩だろうと思い丁寧に答える。

 「そっか、ゆっくり見ていくといいよ。うちは誰でも大歓迎だから」

 「部長!どこ行ってたんですか!」

 部室から出てきた細目の男が俺の方を見て声を荒げる。

 「いや、お客さんをもてなすお茶菓子を買いにね」

 丸メガネ先輩は手に持ったビニール袋を見せつけながら微笑んだ。

 





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ろくでもナインズ 無色不透明 @nnasineet

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