11
お昼が近づき食堂も先ほどまでの静かさと打って変わってざわざわと音を立て始める。
俺たちの座っている席は自販機が近いこともありさっきから何人もの学生が行ったり来たりしていて落ち着かない。
とは言え移動するにも席は埋まり始めていることや久志を待っていることからも動く訳にもいかない。
分かりやすい様にと自販機の前を千尋は選んだ様だが人が多く集まりやすいからか逆に見つけにくいかもしれない。念の為、スマホには連絡を入れてあるので迷うことは無いとは思うのだが通りにくそうだ。
と言う心配はどうやら不要だったらしい。
「よう!お疲れ様」
あっさりと久志が合流してくる。
「結構、人が多いのにすぐによく分かったな」
「場所の連絡を事前にくれてたし。後、お前らの声は聞き慣れてるからよく聞こえる。さっきもまた痴話喧嘩してたな?」
「どこが痴話喧嘩だよ。いつものことだろ」
「だからまたって言っただろ?」
千尋も俺と同意見のようだが久志は呆れた顔をしながら隣に座る。
「ひとまず腹が減ったから飯にしよう。俺は後でいいから先にお前ら買ってこいよ」
「一緒に買って来てやるよ。何がいい?」
一人、席取りをさせておくのも悪い気がしたので注文を聞く。
「じゃあ私は・・・」
「いや、お前は俺と並べよ。そもそも三人分も持てないだろうが」
「えー」
「しょうがない。じゃあ水野さんに席取りを任せて俺と文也で並ぶか。水野さんは何がいい?」
「流石、中村君だね。誰かさんとは大違い」
「俺もお前と二人だけなら買って来てやるよ。三人だったからだよ」
「その言い方だと俺はお邪魔だったみたいに聞こえるんだけど」
「茶化すなよ」
久志の悪ノリにも困った。咄嗟に余計なことを言わなければ良かったと後悔する。
「水野さんは何を買ってこればいいかな?」
「そうだなーカツ丼セット大盛りでお願い」
相変わらずよく食べる。口には出せないが。
「さっさと食券買いに行こうぜ。混んでるみたいだし」
ちょうど講義が終わった学生たちがなだれ込む様に入って来るのが見えたので早歩きで食券機へ向かう。
いくらこの大学には食べるところが複数あるとは言え一番安く、多く、素早く食べることのできる場所と聞けば誰もがこの食堂を答える。飢えた貧乏学生たちにはオシャレな中庭にあるカフェよりもこちらが人気だ。
勿論、中にはそちらを利用する学生もいるが昼食メニューはお世辞にも揃っているとは言えないのでほとんどの学生がこちらに来る。
素早く食券を3枚、買うと受付のおばさんにそれを渡す。俺と久志は日替わり定食を選択した。今日は唐揚げの様だ。
既に作り置きがあったのかと思えるほどに手早くトレーに並べられる。カツ丼だけはそうはいかないので少しかかったがそれでも某牛丼チェーン並の速さだ。並では無く大盛りだが。
俺が自分の分と久志のトレーを持ち、久志が重たいカツ丼大盛りセットを持って席に戻る。
「はい、お金」
そう言って俺にカツ丼代を手渡して来る。
「食べながらでいいんだけど今日はどこのサークルを見ようか」
言われてみればただサークルを見てまわりたいとは言ったものの具体的に興味があるサークルがあった訳では無い。困ったな。そんな顔をしている俺をよそにカツ丼を掻き込みながら千尋が答える。
「個人的には文化系のところを適当に回りたいな」
「あれ?水野さんは運動部系じゃ無くてもいいの?」
俺と同じ様に久志もてっきりそう思っていたらしい。
「運動部はいいかな。さっきこいつにも言ったんだけど四年間またあの運動部特有の上下関係に縛られるのもね。スポーツは楽しくないと。ってことでやるなら大学外でかな」
さっきはちゃんと聞かなかったけどこいつ考えてたんだな。
「とりあえず映画研とか漫研とか辺りから俺は見てみたいかな」
久志の意見に俺も千尋も賛成だ。何と無くだが地方出身の俺たちはそう言った物語の世界に出て来そうなベタな文化部に謎の憧れを持っているらしい。高校時代はそう言った部は校風からも存在しておらずあくまで一部の人間が自主的に楽しんでいるだけだった。
「そうと決まれば冷める前に早く食ってしまおうぜ」
水野の丼は既に空だったが気にしないでおこう。
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