10
大学内には食堂やカフェ、待ち合わせなどに便利な休憩所があちらこちらに点在している。
その中から一番、人が集まる食堂を待ち合わせ場所にしていたのでまだ構内の移動に慣れていない俺でもこれが最短ルートかどうかはさて置き迷わずに辿り着く。
昼食を摂るにはまだ少し早い時間ということもあり人の数はまばらだ。辺りを見渡すと既に千尋が席に着いてコーヒーを飲んでいる。
「お疲れ様。久志は?」
「中村君なら私たちと違って次の講義に出てるわよ」
「そうだっけ?」
「昨日、言ってたじゃない。もう忘れたの?」
同じ学部なので必修科目は同じはずだが久志は俺と違い勉強熱心な様で興味のある講義を追加で取っていた。おそらくそれだろう。
「頑張るわよね。私たちと大違い」
「それには同意する」
「自分で言っておいてなんだけど私も含めて同意なのね」
「当たり前だろ」
高校時代も俺と千尋はどちらかと言えば一夜漬けタイプだったのに対して久志はコツコツと真面目に積み重ねるタイプだった。そのくせ、俺たちが泣きついた時は嫌な顔せずに手を差し伸べてくれる。
「一応、言っておくけど私は最低限のことは自分でやってるわよ。あんたと違って」
「対して変わらないだろ」
そう言って席を立つ。まだ久志が来るまでかなりあるので自販機でコーヒーを買う。
ここの自販機は缶コーヒーの他に紙コップ式の物も置いている。何と無く缶では味気が無いと思いそちらに手を伸ばす。
小銭を入れコーヒーを選択すると自販機が大きな音を立て瞬く間ににコーヒーを注いでくれる。
「千尋は授業、どうだ?楽しいか?」
「そっくりそのままあんたに返すわ」
確かに話題が無くて適当なことを言ったがまだ大学生活も始まったばかりで授業も面白いのかつまらないのかすら判断が付いていない。一部、は初回講義で講師の癖の強さに失敗したと思ったものもあったものの今のところはおおむね焦りも無い。いざとなれば久志を頼ろう。
「けどお前、高校の時みたいにバレー部じゃ無くて良かったのか?この大学にもあるんだろ?」
「バレーは好きだけど大学ではいいかな。十分満足したし大学までやるほどの才能も気力もないからたまに遊びでやるわよ」
「そうか」
「あんたこそ高校時代は帰宅部だったのにやけにサークル参加に興味津々じゃない。大学デビュー狙いってやつ?」
「あながち否定も出来ないのが悲しいな」
千尋の言う通り高校時代は必須では無かったとは言えほとんどの生徒が部活に入る中、特に理由も無く帰宅部を選択した。
実を言うと入る気が無かった訳では無く色々とみているうちに気がつけばゴールデンウィークを迎えており、入りそびれると言う格好の悪いパターンだっただけなのだがとてもでは無いがそのことは前に座ってコーヒーを飲んでいる友人にだけは言えない。言えば未代まで笑いのネタにされるだろう。
そう言うこともあり今回は何としてもゴールデンウィーク前には決めたい。いや、出来ればもっと早く決めなければ高校時代と違い、これからの四年間はあの変人、変態たちとの時間をたっぷりと過ごす羽目になってしまう。これは人生の危機だ。
コーヒーを啜りながら今後の人生にまで飛躍し思いに更けているとパンッという音に意識が現実に戻される。
「どこ行ってんのよ。あんた」
「すまん。ちょっと今後の人生について考えてた」
「たかが大学のサークル決めがエラく飛躍したものね。あんたたまにそう言う危なっかしいところあるわよね」
失礼なやつだ。この若さで先のことをちゃんと考える男だぞ。千尋も捕まえるならこう言う男にしておけよ。と言ってやりたい。
「話は変わるけど今日の講義で隣に座ってた子、出身が俺たちと同じだったよ」
「へーやっぱ私たち以外にもいるんだ。私も会いたいな。何て名前?」
「黒瀬さんって女の子だったよ」
「あんたやっぱり大学デビュー狙ってるわね」
「流石に今回のはたまたまだ。濡れ衣だよ」
その後もことあるごとに噛みついてくる千尋を交わしながら久志が早く来てくれることを待っていた。
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