あとがきという名の考古学TIPS

◇ネアンデルタール人について

 昔の教科書だと毛むくじゃらの原人風のイラストで書かれますが、最近の研究では、ネアンデルタール人の知性は高かったと言われています。脳容量はサピエンスと同程度、遺伝子配列の分析により言語機能を司る遺伝子もあった(実際に話せたかは不明)、死者を埋葬する文化を持っていた可能性が高い(骨と一緒に花粉が大量に発見されている)。

 遺跡からは、動物の骨で作られたフルートも発見されていますが、人工的なものなのか、動物が齧ってできたものなのか議論がわかれています。

 本作では、サピエンスよりも知性は劣るが、共同生活はできる程度の知性は持っていたと仮定しました。

 また、スイスのチューリッヒ大学が作成したネアンデルタールの少女の復元像は、驚くほど我々と似ており、一見の価値ありです。普通に、白人の少女にしか見えません。

 体型はサピエンスよりも身長が低く、がっしりした頑強な体だったようです。


◇ネアンデルタールとサピエンスの交配

 DNAの解析によると、現代人の遺伝子には約4%のネアンデルタール人の遺伝子が含まれているそうです。アフリカで発見された太古のサピエンスの骨には含まれていないことから、サピエンスがアフリカを出てヨーロッパに渡った頃に交配があったと思われます。

 一代限りでなくその子孫にも伝わっていることからも、ネアンデルタールが、サピエンスに近い存在だったことがわかります。

 本作では、体の貧弱な少年(=サピエンス)と、黄金色の髪の少女(=ネアンデルタール)が交配し、ネアンデルタールの体の強さと、サピエンスの知能という、いいとこ取りをした子どもが、ラストシーンで登場します。

 外見は、サピエンスの少年は、アフリカから来たばかりなので黒人設定、ネアンデルタールの少女はヨーロッパに長期間住み着いていたので色素の薄い白人設定、にしています。

 現代人だと、金髪美人は憧れだったりしますが、「美」の定義の一つとして「集団における標準値(平均値)」を考えると、当時のサピエンスの集団にとっては、ネアンデルタールの少女は美の基準から大きく外れており、少年以外からは相手にされていないという設定になっています。


◇アトラトル (投槍器)

 サピエンスがなぜ他の生物よりも秀でた存在となったのか諸説ありますが、遠距離攻撃可能な武器を手に入れたことも、その一つと言われています。言葉では、どのようなものか説明するのは難しいですが、超シンプルな道具で、飛躍的に投げ槍の距離を伸ばすことができます。いったい、どこの誰が最初にこんなものを思いついたのか謎です。

 作中では、必殺兵器としてクライマックスで登場させました。当時の人たちには、現代のロケット砲ぐらいの感覚だったのではないかと思いますので、派手目の描写にしました。少しでも凄さが伝わったでしょうか。


◇音声言語について

 数万年前の壁画に、複数の離れた洞窟で、共通の抽象的な模様が描かれていることが発見されています。これが文字の原型だとすると、音声言語はそれに先立って存在していたはずですが、音が記録として残ってはいないため、いつからあったのか、それがどのようなものだったのか、わかりません。サピエンスだけが話せたのか、ネアンデルタールは話せたのか、その前のエレクトス(ジャワ原人、北京原人)が話せたのかも、わかりません。

 本作では、サピエンスとネアンデルタールは、たぶん話せただろうが、どのような言語だったのかはわからないという視点に立ち、会話文無しの全て地の文、というスタイルで執筆しました。

 会話文で現代語を使ってしまうと当時の雰囲気が出ず、かといって、片言の「ワタシ、オドロイタ」みたいな表現も不自然なので、会話文を削るというのは、一つの解であると思います。

 トールキンのように独自の言語を発明し、現代語のルビを振るというアイデアも考えましたが、そこまではできませんでした。


◇本作の執筆に当たり、下記の書籍を参考にしましたが、内容及び引用方法に関する間違い等は、全て作者にあります。


・アナザー人類興亡史(技術評論社)

・サピエンス物語(株式会社エクスナレッジ)

・最古の文字なのか?(文藝春秋)


 また、先史時代を舞台とした小説には、ジーン・アウル「エイラ―地上の旅人」シリーズという有名な作品があります。面白いですが長いです。

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