◆4th 「混乱。生んだ原因は自分。」

辺りにざわめき。それが水紋のように広がる。


そして自分はそのざわめき、水紋の中心地にいる。


...背中の少し冷たい床と、お腹の温かくて甘い匂いの女の子に触れながら。


ちょっと考えろ...俺。

こんな状況、ありえないだろ...?

きっと夢。それかただの妄想だぜきっと...そう信じたい。


だが、お腹の上の知らない女の子はその思いを"いい意味で"裏切った。


「やっぱりー!この匂い、この目つきに体つき、全然変わってないやー♡」


つんつんっとほっぺに指をあててくる。

感覚は本物で、やわらかくて、あったかい感じがした。

この感覚をずっと味わっていたいなぁ...と不覚にも考えてしまった、が。

このままではまずい...何よりも視線が痛い。


―早くこの状況を切り抜けないと。


「えっと...その、人違いではないですか?その、べ、別人では...?僕は見覚えがないのですが...?」


そう。俺はこの女の子と接点なんてないし、なにしろ会話したような覚えもない。

別人と間違われてる可能性が残ってるはずだ...


だいいち、


―そんな、物語のような、ご都合主義展開なんて、現実に存在するはずがない。


女の子は、少し戸惑った。


...少し間を開けてからキリッと改めて、


「別人...かぁ.......まあ"交通事故に遭って死んじゃった"っていうほんとうのことがあったんだし...顔と体つきがほんとうに似ていたから、勘違いしちゃったかもです...ごめんなさい...」


ぺこりと一礼。

俺の上から退く。



交通事故とか、死んだとか不吉なワードが出てきたが、

俺は生きているからやっぱり別人だろう。


ほこりを払って立つ。

相変わらず周りは変な目で見つめてくるが、

早々と立ち去ることを一心に、桜通口を出ることにした。


が、


彼女の独り言なのに、呼び止められてしまった。



「でもやっぱり、あなた、やっぱり...やっぱり麗夜だと思うの...」


で、なんだよ。

もう違うからいいじゃん....


どうせ俺は間違えられた関係のない奴だろ?


彼女は、あきらめきれない、という表情をしている。

そして俺は安定の無表情。

聞く気すら感じられないほどの無表情。


しかし、彼女は。


「"あなた"についてきてほしいところがあるの!!」


俺への要求。

だが拒否権はこちらに存在する...!!


はずだが、


周りからの視線と、聞き耳が拒否権をかき消した。


仕方ない。


どうしようか....と考えたいところだが。

彼女はすぐに返答を待っている。故に時間がかかる、舐めたような真似はできない。


「...それはどこだ...?」


と返した。

とりあえず、少し会話(行先を聞く)をして、冷静になってから行きたかった。


しかし、次の瞬間。


「いいからいいから!!」


ぐいっ!


手が引かれていった。


「え?」


手首をつかまれた。

その女の子に。


本当は、行くつもりなんてなかった。


―女の子に、連行されてしまった。


周りの視線も痛い。

すぐに振り払おうとした。

強引だし、見知らぬ人だし、人間だし、怖いし、それに男だし。

でも身体が言うことを聞かない。

されるがままになってしまった。

こんなの、普通は反対でないといけない。

だが言うことを聞かないんだ。

理由には、とっくに到達した。


何故なら。


『何かの温もり、存在しない、忘れ去られた温もりを感じたからだ。』




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日陰者の希望的観測《ホープフルオブサベーション》〈 ~RESTART編~〉 神崎さんの親戚 @kanzaki_ch

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