最終話 彼方への旅路

 カナタは警報装置を設置後、何度か農場に足を運んだ。

 クンツに確認して出来栄えをたずねると、今までに比べて害獣に畑を荒らされることが減ったと返ってきた。

 今回の依頼はこれで完了して、カナタは相談所のアロイスに報告すべく向かった。


 所長室をたすねるとアロイスは事務作業の途中だった。

 異世界転移の前、日本のサラリーマンだったカナタはその様子を興味深く眺めた。

 そんなカナタの存在に気づいて、アロイスは顔を上げて声をかける。


「これはカナタさん。何か用事でしたか?」


「農場の件が片づいたので、報告に伺いました」


「なるほど、そちらにかけてください」


「失礼します」


 アロイスに勧められて椅子に腰を下ろす。

 

「警報装置の作動は順調で、クンツさんは害獣の出る頻度がだいぶ減ったと喜んでました」

 

「それはよかった。では、忘れないうちに報酬をお支払いします」


 アロイスは引き出しを開き、硬貨を数えて袋に詰めた。

 そして、その袋を机の上でカナタに差し出した。


「間違いないか確認してもらえますか?」


「この辺りに来て日が浅いので、妥当な報酬なのか分からなくて」


「私どもは信頼が第一ですので、適正な報酬をお渡ししています。相場が分からないとしても、その点はご心配なく」


「ああ、心配はしてないので大丈夫です。では、受け取りますね」


 カナタは硬貨の入った袋を受け取り、自分の荷物に収めた。


 害獣駆除の依頼を終えたカナタはその後も様々な依頼を魔法使い相談所のアロイスから任された。

 ある時は神秘の森でハイエルフと協力して、木々が枯れ始める現象を解決した。

 神秘の森には固有種や希少な植物が自生しているため、重要な場所だった。

 カナタはそこで協力した見返りとして、ハイエルフから回復魔法を授かった。


 またある時は古城で起きる不思議な現象を解決するために依頼を受けた。

 調査の結果、忍びこんだ魔法使いが夜な夜な魔法の練習をしたことが分かり、カナタが魔法使いを説得することで解決した。


 彼が着実に成果を上げる中で、ある国から声がかけられた。

 大臣の娘に護身のために魔法を覚えさせたいという依頼だった。


 カナタは魔法使い相談所のあるトリムトの町を離れて、依頼主から用意された馬車で移動した。

 目的地はランス王国という場所だった。

 王都はこれまでに見てきた土地の中で一番栄えており、立派な城が建っていた。


 カナタは大臣の従者に案内されながら、王都を歩いて城に足を運んだ。

 ウィリデのように王様と気軽に話せるようではなく、ランス王国では王との謁見はなかった。

 城内を歩いて紹介されたのは年端もいかない少女だった。

 名前をカタリナという。

 彼女は口数が少なく、気難しそうな第一印象を受けた。


 その日は簡単なあいさつだけで、特にやることはなかった。

 カタリナのところまで案内した従者がカナタを食事に誘い、彼らは王都で夕食に行った。

 そこで国内の情勢は安定しているが、他国に好戦的な国があると教えられた。

 カタリナ自身にも危険が及ぶ可能性があり、それが魔法の家庭教師をつけるようになった理由ということだった。


 翌日からカナタのカタリナに対する魔法教練が始まった。

 彼女はプライドが高く、最初のうちは素直に指示を聞かなかった。

 それでもカナタが粘り強く接することで、徐々に心を開くようになった。

 

 数日の訓練の後、カナタはカタリナの才能に驚かされた。

 教えたことを何倍もの速さで吸収して、教えたその日のうちにほとんどのことを習得していった。

 彼はエレノアの魔法学校に通っていた頃を懐かしく思いながら、幼いカタリナに親身になって魔法を教えた。


 ある夜、二人は星空の下で未来について語り合った。

 カナタはカタリナ彼女が国を守れるような偉大な宰相を目指すことを支持して、その夢が叶うことを願った。

 二人の師弟関係は長く続き、カタリナは心身の成長と共に魔法の才も伸び続けた。


 そんな二人の関係にも別れの時が訪れる。

 ある時、カナタはカタリナの側に居続けることは彼女の成長を妨げてしまうのではないかと直感した。

 いつか立派な宰相になるという彼女のことを考えた末にランス王国を離れることに決めた。


「あなたに教えられることは全て教えました。優しくて強い大臣になってください」


「師匠、行かないでほしいのじゃ」


「大丈夫。俺がいなくても、きっとやっていけます。あなたの周りには親身になってくれる人が大勢いる。彼らを大事にしてください」


「ううっ、またいつか会える?」


「はい、もちろん。カタリナが困った時は必ず助けにきます」


「約束なのじゃ」


 カタリナはカナタの胸に顔をうずめて嗚咽した。

 大臣である父が亡くなり、兄も病で伏した。

 それでも気丈であった彼女だが、カナタには年相応の弱さを見せた。


 カタリナとの別れを終えたカナタは城を出て、新たな旅へと出発した。

 元の世界やウィリデに戻れる見込みはないとしても、きっと彼はこの世界を満喫して己の道を歩き続けるだろう。




 あとがき

 エピローグを書き足したくて、ここまでのエピソードを更新しました!

 最初に完結してから間が空きましたが、それでもここまで読んでくださった方には感謝の気持ちを伝えたいと思います。


 今作以外にも「異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~」などを投稿しているので、読んで頂けたら幸いです。

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558674806582

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平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~ 金色のクレヨン@釣りするWeb作家 @kureyon-gold

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