43カオス 15歳にしかやってこない奇跡
前回、芸人の又吉直樹さんが『人間失格』を読んで、「おれのことが書いてある!」と太宰にのめり込んでいったという話を書きました。
人のことを書いておいて、自分のことを書かないというのもなんなので、私にとっての「人間失格」はどんなものかというのを書いてみようと思います。
小説に限らず、映画を見たり、音楽を聴いたりしたときに、深い感銘を受け、その後の考え方や生き方にすら影響を受けた――なんてことが、誰の身にも15歳前後でおとずれると思います。又吉さんの場合、そのひとつが『人間失格』であったわけですが、このことがいまの彼、芥川賞作家・又吉直樹を作り上げたと考えれば、だれにもおとずれる「15歳の出会い」がその後の人生にとっていかに重要か、ということがわかるのではないでしょうか。
私の場合、「15歳の出会い」はアニメですね(おい、ここは小説じゃないのか! 笑)。
やばかったのは富野由悠季の『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』です。危うく魅入られるところでした。富野由悠季については以前書いたので、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891350126/episodes/1177354054891853955
重ねて書きませんが、とにかく強く惹きつけられました。
あとは巨匠になる前の宮崎駿『風の谷のナウシカ』。夏休みのテレビ放映で見たのですが、あまりの衝撃に魂をもっていかれてしまった私は、数日間、夢遊病みたく生活してました。夏休みでよかった(笑)
ナウシカの世界観で小説も書きはじたのもこの頃でした。いまでいう「異世界転生もの」ですね。いま読んだらびっくりするほど稚拙な。
そうそう。ついに私の人生に「小説を書く」という趣味が現れたんです。思い返せば、これも15歳でした。
そして肝心の小説についてですが、私にも「おれのことが書いてある!」って小説があるんです。
中島敦『山月記』
小説はこうはじまります――
しょっぱなから引き込まれました。
漢文調の文体は格調高く、古代中国(唐の時代)を舞台にしていることもあって、一気に読者を時空を超えた彼方に連れ去る力があります。
このあと小説は、愚物とバカにする上司に嫌気がさした李徴が官職を辞し、代わりに詩人として名を上げようと、詩作に没頭すると続きます。
まったく、おれのことが書いてある!
若い頃はもちろん、就職する前後に強くそう思いましたし、いまでもそう思いますもん。中島敦が書いている李徴とは私のことですと。
「虎榜に名を連ね」というのは、「科挙に合格した」ということなので、李徴はエリート官僚としてキャリアを歩みはじめたわけで、木っ端役人の私とはまるで立場が違うのですが、「賤吏に甘んずるを潔しとせず」というのは、まんまそのとおりです。木っ端役人は不本意です(笑)
かといって小説家で名を上げられるとは思えないし、才能の点において李徴と私は月とスッポンのようではあります。
が、いくらぼんくらでも李徴のいう「臆病な自尊心」や「尊大な羞恥心」は持ち合わせているらしい。私は李徴と同じく、自らのなかに「虎」を飼っているのです。尊大な羞恥心という名の虎を。
昨日、青空文庫で『山月記』を読みましたが、読み進めるうちに胸が熱くなり、涙腺が緩んできました。「15歳の出会い」は燃え盛ることをやめただけで、まだ私のなかにおきとして残っていたのです。
『山月記』を読むと、私のなかの虎が哭きます。李徴にあわせて哭くんです。その声はだれにも聞こえませんけど。
いつか私も、自分の山月記を書きたいと思っています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886150197/episodes/1177354054886150201
『閉鎖領域』は、自分なりの山月記を思い描きながら書いた小説です。作中、なんと虎が出てきます(笑)
そしていつか、もっとすごい小説を書いてやろうと。
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