第3話 人ではない、姉のような妹。
小学校中学年くらいの頃だろうか。
引越しが多い割には、その地域内で完結させる事が多かったが2度目の引越し。
その時の思い出や出来事は特になし。
引越しして片付けも終わり、一段落した時の事だった。
父親の機嫌が恐ろしく良かったせいか唐突に、
「ペットショップへ行こうか。」と一言。
母親は気が進まない様子ではあったが、渋々腰を上げてくれた。
動物好きな私にとっては心の中で万歳三唱。
感情表現が乏しかったので、表には出せなかったがとにかく行けるだけでも嬉しかった。
店内へと足を運ぶと沢山の犬や猫が居た。
皆、幸せになる為にひたすら狭い箱の中でその後の運命を待っているのだろう。
気づけば1匹の柴犬に釘付けになっていて
店頭スタッフの方に駆け寄り自ら口を開く。
「あの柴犬の子抱っこさせてください。」
快く対応してくださり、小さな体を抱っこする。
その柴犬は大人しく、黙って抱かれていたが
何処かやさぐれた様な目付きをしていた。
どこか自分に似ている気もした。
両親にも抱いてもらい、
その子を連れて帰りたいと懇願した。
その日飼う予定でもなかっただろう今は亡き愛犬を連れて帰る事になった。
名前は「チョコ」。
後に、私が動物看護学を学ぼうとするキッカケを作ってくれた子。
チョコが来てくれたおかげで、一時的にはではあったが家族全体の雰囲気が柔らかくなった気がした。
朝が苦手だった私も早起きして散歩に行き、暇があれば溺愛した。
友達や親と喧嘩して泣いていた時は傍に居てくれて、もはや私よりずっとお姉さんだった。
ちょっとした幸せな日々が続いていた。
しばらくして3度目の引越し。
私が小学校高学年になる頃であったか、一軒家を購入したのだ。
それまで学校からの距離はとてもあったが、今回の引越しでとても近くなりクラスメイトも家に集まるようになった。
幸せと言える日々が続いていた最中、祖母とチョコの間にあるトラブルが起きた。
祖母も何だかんだで可愛いがってくれていて、チョコは良くじゃれていた。
ある日毎度の事チョコがじゃれていると、
祖母の頭に血が上ったのか
「やめなさいチョコ!」
と怒鳴るように声と手を上げた。
それでもチョコは構ってくれていると勘違いしていたのか、更にじゃれ度がエスカレートする。
祖母も段々本気になり、何を取り出してきたかと思うと
サランラップの使用済みの芯であった。
容赦なく叩き始めると、チョコは本気になり威嚇し始める。
その一連の光景を見ていた私は怖さと嫌な予感がしたので、母親を呼んだ。
「何してるの!?」
恐らく祖母と愛犬に向けての言葉だろう。
母親は力の限りチョコを抑え込む。
吠えて歯を剥き出しにするチョコ。
ひたすらこの時間が地獄だと感じた。
兄を呼んで来いと言われ、私は泣きそうな顔で呼び出し
怒りの収まらないチョコを2人がかりで抑える。
祖母は1回噛まれた傷をおさえ、チョコを睨みつけその場で呆然としていた。
苦しかった。
何も出来ない自分が。
この状況が。
涙をこらえ続けひたすらこの時間が過ぎる事をただ願っていた。
2度目があるとも知らずに。
2度目は傘で叩かれた。
前回同様の理由だ。
チョコはもう成犬になっていて犬歯も立派だった、前回の怪我では済まされず全身に噛まれて浅い傷から深い傷まで負っていて流石の祖母も震えていた。
ただの傍観者で過ぎなかった私はまた苦痛の時間を過ごすしかなかった。
まあきっと誰しもがそうだろう。
助けられるものならとっくに助けている。
でも自分の力じゃ手に負えないことは理解していたので動けなかった。
と、今更ながら懺悔と言い訳を添えたい。
最終的に、チョコもストレスを溜めた日々を過ごしていたのかストレス性の皮膚病とうつ病になってしまった。
誰の事も信用出来なくなってしまったんだな。
辛かったよね。ごめんなさい。
私と兄を抜いて、家族相談でもしたのだろうか。最終的に父親の知り合いに預ける事になった。
私がキミを選んだせいなのかな。
少しでも幸せでしたか。
今はもう空の上だろうけど、元気に走り回ってることを祈ります。
ずっと忘れない。
感触も、表情も、体温も。
My Dear 妹。
吐き出して、破棄して。 ますく。 @nzmn6969
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