かの国

半澤 溜吾郎

第1話 身長刈り

 「おい、お前もついに白くなったのか」

 かの国では、建国から30年を迎えると国民の一部が真っ白になっていく現象に見舞われた。

 「おれもついに白くなっちまったよ」

 国民の一人は、自分の姿をみて嘆いていた。そして、全身が白くなると、神隠しにあうリスクが高まり、気が気ではないのだ。

 かの国は、建国からおよそ80年で消滅してしまう儚い国であり、建国より1年目は、国民が激増し、年数を重ねていくにつれ、国民は強く、たくましく成長していった。人口密度は極めて高く、国民の個性はほとんどなく、皆一様な見た目をしていた。

 「せっかく身長伸びたのに、また身長刈りの日だよ」

 「まじか、せっかくここまで身長伸びたのにな」

 かの国の国民は、定期的に身長刈りの日を迎えなければならない。かの国の国民は、身長が伸びつづけてしまう傾向にあるので、国全体の活動のしやすさ、風紀の調整を目的として身長刈りを行うのだ。身長刈りを行うと、国全体が幾分、心地よい何とも言えぬ雰囲気になった。

 「なんか俺たち腰曲がってるよな」かの国の国民の一人が不安げな様子で言った。

 「昨日までは、まっすぐだったのにな」もう一人も不安げな様子で言った。

 「それなら、国の風紀で腰を曲げることに決まったみたいだよ。なんでも、腰を曲げるのは、国全体の一部の地域だけみたいだけどね」

 さらにもう一人が、自信ありげに言った。

 かの国では、国民の寿命は3~6年ほどで、ほとんどの場合、寿命を迎えると消えてしまい、同じ地域からは、その人のコピーともいえるそっくりな人が誕生した。

 「なんか今日、国全体で全身を黒くする儀式が行われるらしいぞ」

 「まじか、それって、俺みたいな全身真っ白なやつもか?」

 かの国の国民の一人は、目を輝かせながら言った。もし、全身真っ黒になれば神隠しにあうリスクを減らせるからだ。

 「もちろんそうらしいぞ! おまえ良かったな」

 かの国の国民の一人は、この言葉を聞き喜ばしい気持ちになった。

 「ちなみに、身長刈りも同時に行われるらしいぞ」もう一人が言った。

 そして、ついに身長刈りと全身黒染め儀式の時を迎えた。

 「ついに来た! 早く身長刈りと全身黒染め儀式をやってくれ」

 かの国の国民の一人は、意気揚々とその時を迎えた。その時、国全体にアナウンスが流れた。



 「お客さん、今日はカットとカラーでよろしかったですね」

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かの国 半澤 溜吾郎 @sarukaeru

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