第3話

「平日の昼間、子供が殆どいない大人達の世界で会えたんだよ、それってなんか奇跡みたいで、運命みたいでなんか素敵だなぁって。だから、ね…びっくりしたよね?ごめん」

隣でウキウキとしながらアイスを食べている彼女とは数分前に出会ったばかりの他人以上知り合い未満状態の関係だ。彼女は恥ずかしさなんてないのか、見ず知らずの俺にペラペラと喋ってくる。

「私ね、通信制の学校なんだ。1年の時はちゃんと受験して全日制の高校に通ってたんだけどね。」

「…何かあったんですか」

「いやなんにも。ふつーの学校生活だったよ。いろいろあって、出席日数が足りなくなっちゃって。」

それで転校したんだよーっと、にへらと笑う。

「先生は特例として進級させるつもりだったんだって。日数は足りなくても、成績は悪くなかったらしくて。でも私、」

特別扱いってあまり好きじゃないの。とさっきのにへらと違い重めのトーンで話す。

「私だけ、ってことは皆はそうじゃない。他の人は日数足りてるのに、足りてない私は特別扱いで進級。足りないのはどんな理由であれ自分のせいだから、特別扱いされるのはお門違いかなあって」

「…」

「それに、通信制になってから余裕出来たし!まあ、メリットばっかじゃないけど…」

トーンが戻り、俺に笑顔を向ける。

「それに全日制だったら君に会えなかったから!」

こんな元気な子なのに、なんでこの子は学校を変えたんだろう。いろいろって何だろう。もしかして、ひょっとしたら、俺と同じ?

この子の事情を聞いていたら、自然と俺も口が開く。

「俺も話していいですか」

「君が話したいならいいよ、強制じゃないから。だけど私も君の事をじっくりと聞きたいな、知りたいな」

「俺…いじめられてたんです。何やっても難癖つけていじめられる。それが嫌で、親に心配されて、学校から逃げました。でもそれから家で引きこもるようになって、何もしなくなって。このまま俺、生きてていいんかなあって…」

「ねぇ、知ってる?人って『生きる理由・目的』を自分なりに見つけるとそれなりに生きようとするんだよ、無くす無くさない関係なくね。生きるか死ぬかを決めるのは自分自身。でも生きるか死ぬかを決める理由になるのはほぼ他人なんだよね。なんでなんだろう、自分自身のために生きたっていいのに」

「自分自身のために…」

「そう。自分自身のために。誰かのために生きるのもいいけどね。生きていくためには人間関係とかも必要だけど、もっと図太くていいと思う。needじゃないから、人間関係は。ゆるーく他人と繋がっていればいい。あっ、君が真剣に繋がりたいって思える人がいたらちゃんと繋がっていいんだからね」

「はぁ…」と感嘆の声をあげると彼女は、

「初対面の人に何で自分の思想を言ってるんだろ」と照れくさく笑った。


その時。警報が携帯から、空から、至るところから鳴り響いた。脳内にも届くくらいの爆音で。緊急事態なのに携帯のモニターには『未確認生命体出現情報』というなんとも信じられない文字列が並んでいる。その途端、彼女の朗らかな笑顔は堅い表情に変化する。

「本当にタイミング悪い時にやってくる。そしていつも私のそばに出現する。まるで物語の演出で仕組まれたみたいに」と携帯を持ち、重たい腰をあげた。そして短時間で気が遠くなる程大きくなった化け物に目線を向ける。

「そうだ。1番大切なこと言ってなかったね」と背中の向けたまま俺に語りかける。

「私の名前は巽 梨音、果物の梨に音で“りと”。りおんじゃないよ」

「俺は…」

「ごめんね、私行かなくちゃ。一応仕事だし。だから、後で!君の名前、教えてね!」

彼女は言葉を言い終わる前に化け物に向かって駆けていった。その姿はまるで…


ヒーローみたいだった。

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いんでぃたーみね・かたるしす @Erina_nnn_0413

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