第2話

久し振りの外出は意外にも心地よくて、開放感に溢れていた。また、体力が学校に通っていた頃よりも低下していることにも気づかされた。少し歩いただけで疲弊する自分の体が嫌になる。また、春だからと侮っていた気温が牙を向く。なんだこれは、暑い。照りつける太陽、太陽光を吸収し、惜しみなく放出するアスファルト、真夏並に汗がだらだら流れ出る。春ってこんなに暑かったのか?この暑さのせいで思考力が著しく低下し、犬みたいに舌をだらしなく出し、ハァハァとだらしなく息をする。頭の中が「暑」で埋め尽くされていく。このままでは脳内が沸騰して体の穴という穴からドロドロに溶けた脳が垂れ流れることになる。今の俺には暑さの対となる涼しさが必要だ。ヨロヨロとふらつきつつ、現代のオアシス、コンビニエンスストアに辿り着いた。ここでは暑さをまるで駆逐するかのようにガンガンエアコンが効いている。俺はオアシスに飛び込んだ。


自動ドアが開くと冷たい風が吹き込んでくる。かわいげのない機械音といらっしゃいませーとえらくぶっきらぼうな声で出迎えられた。いや、そんな店員の態度よりもこの冷房の偉大さよ。今の時代、これなしでは人間は生きていけないだろう。ふと辺りを見回す。殆どが大人だ。子供はいない。というよりその大人達が俺に露骨に嫌な視線を向けている。そうだ。本来子供は学校へ行っている時刻。それなのにここにいる俺は普通の子供ではないことになる。それがたとえどんな理由であっても。こちらを見ながらひそひそ話す、そこのおばさま達は薄っぺらく憐れんでいるんだろうな。内心俺を見てる奴全員を罵る。よくある清涼飲料水を手に取り会計を済ませようとしたが、もっと涼もうと思いアイス売り場に向かう。もちのろん、辺りの目線を気にしないふりをして。


小さな女の子がいた。たぶん、大人ではない、だろう。あの子も大人達から良くない目で見られている。黒いリュックサックに灰色パーカー、スキニージーンズというカジュアル過ぎるコーデ。茶色いショートヘアの女の子。よくある2つ入りのアイスを持ち、目を輝かせていた。レジ付近でバチッと目が合う。俺は慌てて目を逸らす。しかし彼女はそんな俺に構わず、笑顔で大胆にも俺の腕を掴み、

「まあ、まあ、まあ」とレジに強制的に向かわせる。大人達はこの光景にますますドン引きする。そんなのを気にせず、レジを済ませコンビニを出た。ついでに俺の清涼飲料水も支払ってくれた。


「おひとつどーぞ」

彼女はコンビニの前で自分のアイスを1つ俺にあげようとした。最初は断っていたが彼女はアイスをあけて俺の口に突っ込ませる。甘く冷たい感触が体の中から伝わってくる。隣をみると極上の笑顔でアイスを頬張っていた。顔をまじまじと見る。かなり整っている。単に言うと、可愛い。

「突然の奇行ごめんね。許してほしい」と謝られたので俺も

「こちらこそジュース奢ってくれて申し訳ないです」と謝るべきかわからないことを謝った。


沈黙。話題がない。アイスが溶けていく。

ジュースも温くなっていく。どうしよう。この状況、かなりきつい。知らない人に貰ったアイスを一緒に食べるなんて経験ない。

「なんでこんな昼間に子供がいるんだろうって思った?」

沈黙を破った話題はあまりにも俺にとって残酷なものだった。身を強張らせる。

「あぁ、君に無理に言わせるつもりはないの。私が話したいから話すの。君は聞いていればそれでいい」と彼女は自分がここにいる理由をなぜか語り出した。彼女とは知り合ったばかりなのに、どうしてそこまでして俺と接触したがるのか?俺は汗を拭いながら彼女の声に酔いしれていった。

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