第3話 森の賢者と万能鑑定

「つまり、賢者に魔法適性を見てもらいに行くってことか」

「そう。気難しいらしいんだけど、この辺にはその賢者さんしかわかる人がいないんだって」

 森の中を二人で歩く。植物や樹木が日本のそれとは明らかに違う。

「この森って魔物出ないのか?」

「よくわかんないんだけど、賢者さんの魔力が強くて、弱い魔物は近づこうとしないんだって」

「そういうもんなのか。っていうか、この国?世界?って魔法があるのか!」

「えっ、細井くん知らなかったんだ。ここで見せられればいんだけど、私まだ魔法使えないから……」

 魔法適性……そういえば、謎のステータス一覧にもそんな言葉があったような。

 加藤の顔をじっと見つめる。


––––––名前:加藤佳奈

種族:人間

レベル:2、HP:20/20、SP:15/15、STR:25、VIT:12、AGI:10、INT:3、DEX:8、LUK:3

スキル:無し

武器適性:斧

魔法適性:無し

所持金:20,045

……


「細井くん、急にどうしたの?」

 加藤が目を泳がせる。

「加藤、お前……」

 馬鹿力なのか、と言おうとしたところで、失礼だなというのと、リーノの「あまり言わないほうが良い」という言葉を思い出し、やめる。

「いや、なんでもない」

「そう……それでね。この世界に来たからには、魔法が使いたいなって。魔法が使えるなんて夢みたいじゃない?」

 少女のように瞳を輝かせている。『万能鑑定』の結果に魔法適性は無いと書いてあるなんて言えるだろうか。スキルを明かすわけにもいかないし、『万能鑑定』がどこまで万能かもわからないので、黙ってついていく。

 立派な煉瓦造りの家が見えてくる。屋敷まで行かないが2階?3階?建ての建物だ。

 加藤が扉をノックする。

 誰も出てこない。何の声もしない。

「いないのかな?」

 俺も強めにノックしてみる。

 何の反応もない。

「うーん……私楽しみにしてたのになぁ」

 コンコン、コンコンと加藤がノックし続ける。

 そのとき、鍵が開く音がし、勢いよく扉が開いた。と同時に怒号。

「うるさーい‼︎ うるさいうるさいうるさい‼︎ 人が惰眠を貪ってる至福の時を邪魔しおって‼︎」

 年端も行かない少女。幼女だ。可愛い。加藤は驚いた拍子に尻餅をついている。

「何の用じゃ‼︎ わしは村の者の頼みは聞かんぞ‼︎」

「あっ、あのね。私は村の人じゃなくて、今村に来てるサーカスの団員なんだけど、賢者様に用があって……賢者様を呼んできてくれないかな?」

「あ゛? 貴様、わしを賢者の使いだと申すのか? お主もか? お主もそうなのか⁇」

 俺の方に詰め寄ってくる。賢者の使いではないということか? 一応『万能鑑定』を使ってみる。


––––––名前:ターリャ・フリムファクシ

種族:魔人族

レベル:76、HP:17053/17053、SP:76331/78302、STR:22、VIT:34、AGI:140、INT:215、DEX:157、LUK:31

スキル:ファイア、ファイアアロー、コールド、サンダーストーム……

魔法適性:火、風、氷、土、呪

所持金:0

称号:月を穿つ者、森の賢者、ドラゴンスレイヤー……

……


 は⁉︎ このちんちくりん、むちゃくちゃ強いじゃねえか。称号に『森の賢者』ってあるから多分このロリが……そうなのか。信じられん。

「いえ、あなたが森の賢者様ですね?」

 ロリが目をぱちくり。ぱちくり。口をあんぐり開けている。そんな仕草も可愛い。

「おぬ……お主! 見る目があるな! わしを一目で見抜いたのはお前が初めてじゃ! さあさあ、入るが良い。わしは気分がいいぞ! 今ならどんな頼みでも聞いてやりたい気分じゃ!」

 ちんちくりん……もとい、賢者様が腰をバシバシ叩いて家の中へと誘う。

 入ると廊下があり、その突き当たりの部屋をバンと開ける幼女。付いていくと、雑然とした大部屋。部屋の壁一面が本棚で埋まっている。部屋の奥に大きな机があり、机の上には謎の道具がいくつか乗っていて、コップやら万年筆やら紙やらで散らかっている。机の後ろも謎の道具が山になっている。

 特に客人扱いせずお茶も入れたりしない幼女は、机の椅子にどかっと座る。

「で、用とは何じゃ。娘っ子」

 娘っ子が引っかかる様子の加藤が、恐る恐る尋ねる。

「あの、私の魔法適性を見てもらいたいのですが……」

「はあ、そんなことでいいのか?」

 椅子を後ろに回して道具の山を漁る幼女。

 暇なので幼女のステータスを流し読みする。項目が多い。強いなあ。俺も魔法適性欲しかったなあ。ん? 今『解呪』って見えたような。名前の通りならリーノの『炎の呪い』も治せるのか?

 『解呪』が見間違いでないか確認しようとしていると、水晶の玉が出てきた。細かい傷が付いていてあまり綺麗ではない。散らかった机の上にそのまま雑に置く。割れないのだろうか。

「娘っ子。この水晶を覗きながら、名前と、『主に賜りし能力をターリャ・フリムファクシに示せ』と申せ」

 言われた通り、水晶を覗き込む加藤。

「私は加藤佳奈。主に賜りし能力をターリャ・フリムファクシに示せ」

 特に何も起こらない。水晶の中も特に変わらずだ。

「ふむ。お主に魔法適性は無いな」

「えっ。えっ」

 明らかに動揺する加藤。

「だから、無い。魔法適性は無いんじゃ。斧でも振るってろ怪力娘め」

「えーっ! そんなー!」

 力なくその場にくずおれる加藤だった。

 脇目でそんな様子を眺めながら『解呪』を探していると、見つかった。よし。リーノは喜ぶだろうか。そもそもどうやって伝える? どうやって頼む?

「ところで、お主」

「俺ですか?」

 幼女が何か疑うような視線を送ってくる。

「そう。お主、先程からわしを凝視しておるが、お主には何が見えておる?」

「え。いや。何も」

 シラを切ってみるが。動揺を隠せなかった。

「お主、先程なぜわしが森の賢者だと分かった? 皆、『賢者』とは呼ぶが、『森の賢者』と呼ぶ者は多くない」

「あー。うーん。えーっと。たまたま?」

 見るからにイラっとしている幼女。

「あくまで明かさぬというか。一生嘘がつけない呪いをかけてやっても良いのだぞ」

 まじか。いや、幼女の表情はまじっぽい。この幼女やばい。

「……その水晶で見てみればわかると思いますよ……」

「ふむ。では、水晶に誓うが良い」

 先程のセリフだろうか。

「俺は細井祐介。えーと、主に賜りし能力をターリャ・フリムファクシに示せ」

 ……

「ふむ。なるほど『万能鑑定』か」

 納得して怒りを収めた幼女。

「お主にはこのガラクタがどう見える?」

 机の後ろから謎のアイテムを引っ張り出す。見た目は高そうな宝石のついた指輪だ。凝視する。


––––––名前:隠匿の指輪

効果:装備した者を見えなくする。ただし、装備した者は視覚を遮断される。物に触れること、音を聞くことなどはできる。

値段:不明(取引実績がないため)


 見えた通りのことを幼女に告げる。

「ふむふむ。そうか。なるほどのう。呪いの装備ではなさそうじゃな。面白い!」

 じゃあこれは? と他の道具を漁ってくる。言われるがまま鑑定。また漁ってきて鑑定。というルーチンを何度もこなしていくと、徐々に眠たくなってきた。

「俺、なんか激しく眠いんですが––」

 と言いかけたところで意識が途切れた。

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復讐者には鑑定スキルただ一つ すじょうゆ @sujoyu

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