私が任されたクラスの生徒の名前は何かが隠れてる
今日は新一年生の入学式。私は初めてクラスの担任をすることになった。
この高校は生徒の名前に法則性があることで有名だ。読み方が特殊、難読漢字、回文、キラキラネームなど、数え上げたらキリがない。
入学式が終わり、私はゆっくりと歩を進めて教室に入った。それから学校の行事を簡潔に説明して足早に本題へ入る。
「じゃあ、そろそろ皆に自己紹介してもらおうかな」
私が言うと皆の表情が曇った。まだ高校生になったばかりだからね。こればかりは仕方ない。
「そんなに難しく考えなくていいよ。趣味や特技とか、簡単な紹介でもいいから」
私は出席簿を開いて出席番号一番だけ名前を確認する。最初は『北瀬』か。さて、どんな法則性があるのかな。
「出席番号順に行こうか。一番の
北瀬君は元気よく「はい!」と返事をして立ち上がった。
「出席番号一番、
……もう分かった気がする。多分だけど、全部で四十七個あるんじゃないかな。
「出席番号二番、
私の予想は確信に変わった。間違いない都道府県だ。さっきのは北海道でこれは青森が隠れてる。でもこのクラスの生徒は三十五人。全部収まるのだろうか。
「出席番号三番、
宮城だね。圭の『土』と『成』で『城』
「出席番号四番、
今更だけど丁寧に東北地方からスタートしてる。これは秋田だ。
「出席番号五番、
岩手もクリア。摩に『手』が含まれてる。
「出席番号六番、
岳を『山』と『丘』に分解して、『山』と尾形の『形』で山形。
「出席番号七番、
これで東北地方は制覇。あと『島』に『山』があるから富山。『福』と『富』に『口』が含まれてるから山口も入ってる。
「出席番号八番、
そのまんまだ。まあ千葉はメジャーな名字だからね。
「出席番号九番、
少し強引な感じはするけど許容範囲内かな。
「出席番号十番、
えーと、城の『土』と騎の『奇』で『埼』か。
「出席番号十一番、
群馬なのは分かったけど、『群』はどこ? ……あー、なるほど。『翔』を『羊』と『羽』に分解して、『羊』を『馬』の右横に移動させて『群』ね。地味に頭使うな。
「出席番号十二番、
必ずしも都道府県が入るわけじゃないんだ。『景』に『京』が含まれてるから京都が入ってる。
「出席番号十三番、
連続で県庁所在地が来た。これは神戸(兵庫)だけかな? ……いや、水戸(茨城)もあった。
「出席番号十四番、
都道府県に戻った。山梨だ。これは凝ってないから分かりやすい。
「出席番号十五番、
これも分かりやすい。石川と香川。……って東京は? さらっと北信越に入ってるけど。
「出席番号十六番、
気を取り直そう。えーと、福井と福岡か。『福』に『口』、『剛』に『山』が含まれてるから山口も入ってる。山口はこれで二度目……違う。見逃してたけど、さっきの『君島』にも山口あるから三度目だ。
「出席番号十七番、
そういえば『県』の訓読み『あがた』だっけ。ちょっと洒落てる名前だ。
「出席番号十八番、
ここで折り返し。残りは一都一府十五県。
「出席番号十九番、
矢口が『知』にしか見えなくなった。
「出席番号二十番、
静岡と岡山の二県か。あと東海地方は岐阜と三重だけど岐阜は難しい。
「出席番号二十一番、
なるほど、そうきたか。
「出席番号二十二番、
久々に県庁所在地がきた。これは津(三重)と大津(滋賀)。
「出席番号二十三番、
奈良の方が多そうなのに福良とは珍しい。
「出席番号二十四番、
天下の台所大阪。京都はすでに出てるから、あとは和歌山で近畿地方制覇。
「出席番号二十五番、
一気に九州まで飛んじゃった。肝心の和歌山は……あった。崎に『山』が含まれてる。そして『口』も含まれてる。山口、四度目の登場。
「出席番号二十六番、
漢字のチョイスがすごい。でも別にキラキラネームではないし、人様の名前にケチを付けるのも野暮というもの。
「出席番号二十七番、
広島が出て残りは一都十県。生徒は残り八人。少し厳しくなってきた。
「出席番号二十八番、
「出席番号二十九番、
おっ、高知と徳島の二県だ。そして安定の山口。
「出席番号三十番、
児島で分かったけど鹿児島だね。麗に『鹿』が含まれてる。
「出席番号三十一番、
戦国武将のような名前。そして六度目の山口。
「出席番号三十二番、
これは佐賀だから、あとは東京、大分、熊本、沖縄。自己紹介を終えていないのは三人。……ギリギリかなぁ。
「出席番号三十三番、
あの芸能人と一文字違い。
「出席番号三十四番、
そのままだ。さあ次で最後、東京と沖縄どっちだろう。もしくは両方入れてくる?
「出席番号三十五番、
……残念。東京が出てこなかった。一応説明すると、忠の『中』と洋のさんずいを取って『沖』ね。
それにしても首都の東京が抜けるなんて……。こんなことになるなら、クラスの人数を三十六人にすれば良かったのに。
内心でそんな愚痴をこぼしていると、長野さんが丁寧な口調で私に訊いてきた。
「少しお訊きしたいのですが、先生の名前はなんて言うんですか?」
そういえば、まだ私の自己紹介してなかった。肝心なこと忘れてたよ。
私は生徒に背を向け、黒板に自分の名前を板書した。
『東京』
教室全体がざわついた。先に断っておくと読み方は『とうきょう』ではない。私は軽く咳払いして言った。
「今日からこのクラスを担任することになった
続・僕が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通です 田中勇道 @yudoutanaka
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