続・僕が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通です
田中勇道
僕が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通です(2)
ついにこの日がやって来た。今日は僕の務める高校の入学式だ。
僕は二年連続で一年生のクラス担任をすることになった。去年は読み方の変わった生徒が多数いたが、今年はどうなのだろう。
式が終わり、僕はクラスの教室に入った。生徒の視線がこちらに向く。
「あ、先生だ」
すごい
僕は教壇に立ってから学校の特色やイベントについて話し、緊張を和らげることにした。生徒の表情を見ると皆、リラックスしているように見える。多少の効果はあったようだ。頃合いを見て僕は生徒に言った。
「じゃあ、皆に一人ずつ自己紹介をしてもらおうか」
生徒の表情が一転して曇った。こればかりは仕方ないか。
「あんまり難しく考えなくても大丈夫だよ。特技や趣味だけでもいいから」
僕は出席簿を開き生徒の名前を確認する。奇しくも出席番号一番は去年と同じ『前田』だった。
これは『まえだ』でいいよな。去年みたく『ぜんだ』なんて特殊な読み方ではないと思うが……。読み間違いはしたくないかったので。僕は念のため彼女に訊いた。
「一番は
「いえ、私『まえた』なんです。よく読み間違えられます」
前田さんは苦笑交じりに答えた。事前に確認したのは正解だったな。
彼女はゆっくりと立ち上がり、ハキハキと自己紹介を始めた。その様子を見て僕は安堵した。さて、次は『渡辺』か。読みは『わたなべ』と『わたべ』の二パターンあるから注意が要る。どうか普通であってくれ。
「出席番号二番、
よかった。普通だ。読み方には気を付けないといけないが。
「出席番号三番、
これも注意が要るな。『やまさき』とも読めるからね。
「出席番号四番。
二人目だ。読み方は違うが二人目だ。
「出席番号五番、
また『前田』だ。何か嫌な予感がする。
「出席番号六番、
ほらな! そう来ると思ったよ!
僕は出席簿の名前を再確認した。一番と二番しか見ていなかったから気付かなかったが、よく見ると、同じ漢字を使う名字がズラリと並んでいる。何これ怖い。
「出席番号七番、
よくある名字だ。読み方も珍しくない。
「出席番号八番、
これも一般的だ。
「出席番号九番、
ゲシュタルト崩壊が起きそうだ。『野』多すぎない?
「出席番号十番、
普通の名前なのに覚えづらい。ルビ振らないとどっちがどっちか分からない。今年は大丈夫だと思っていたのに……。しかも男子が偶数番で女子が奇数番になっている。変なところにこだわってるな。
その後も
ちなみに僕に「あ、先生だ」と言ったのは
そして最後は『一二三』
すでに自己紹介を終えている三十四人の中に、『一二三』という名字の生徒はいなかった。一人だけ仲間外れのような感じがして複雑な気持ちだが、僕も『一二三』だから大丈夫だ。何が大丈夫かは自分でも分からない。
それよりも問題なのは読み方だ。僕は『ひふみ』だが彼女はどうだろう。同じ可能性はあるが、この高校はそう単純ではない。
「出席番号三十五番、
……捻らなかったね。そういえば去年も最後だけ読み方普通だったな。
こうして全員の自己紹介が終わり、僕は去年を上回る不安に駆られた。
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