第11話 モブキャラ遺跡探索紀行

 遺跡に向かう装甲車は、一日に二回の定期便がある。

 これは冒険者の需要が高いからである。

 ダンドンの町から一番近い遺跡【リグ・ストーン遺跡】まで片道一時間半までの道のりだ。

 乗客は当然の事ながら冒険者のみである。

 ほとんどが冒険者ギルドの依頼で来ている。何故、ギルドのピンはねを知っていて彼らはギルドから来るのかというと、やはりバックアップが充実しているからだ。

 武器は全てレンタルで、攻撃力、防御力の高い装備を貸してもらえる。

 それに、怪我をしても安く治療してもらえる。

 ピンはねには、そういった事情もあるのだ。

 今、俺がしているような紙装備では、誰も遺跡探索には行きたがらない。

 皆、死にたくないからな。


「ねえねえ、ドキドキするね。大丈夫かなあ?」


「大丈夫だって。俺が守ってやるから」


「うん。頼りにしてる」


 見ると男女ペアの冒険者がイチャイチャしていた。冒険者カップルだったウチの両親もあんな感じだったのだろうか。まあ、デートスポットとしては最悪だが。


 ◆◆◆


 しばらく乗っていると、遺跡が見えてきた。

 随分と朽ち果てているが、日本でもお馴染みのビル群である。


 ここでタイタンソードマジックオンラインの世界観を説明しておきたい。

 この世界は大規模な地殻変動によって、何度も人間の文明文化が、リセットされてきた世界だ。

 その周期は数百年、数千年単位でずれが生じており、予測は出来ない。

 つまり遺跡とは、地殻変動によって滅んだ人類の遺産である。

 生き残った我々人類は、そこから発掘された遺物、オーパーツを元に今の生活環境を作り出している。

 この装甲車も、オーパーツを分析して製造したものだ。

 ただし、ロストテクノロジーの再現は困難を極めるので、大味で大雑把な作りとなっている。

 地球の装甲車を想像されても困る。

 まさに鉄の塊の車だし、サスペンションなんてゆるゆるだから、「おぶっ!」さっきの冒険者カップルが、車酔いをおこして吐いていた。


 一時間半の最悪なドライブを経験して、遺跡に着いた。

 俺も車酔いが酷くなって、吐いてしまった。

 ゲームではこの辺りは再現できないから、何とも思わなかったが、実際に体験すると酷い乗り心地である。


「4時間後に装甲車はここを離れる。その時にいなかった者は、死亡したと見なすので、それまでにここに戻ってくる様に」


 運転手からそう説明され、装甲車のドアは固く閉ざされた。

 モンスターが現れるから、運転手も命懸けだ。


「さて……」


 俺は周囲を見渡した。近場の遺物は冒険者が取りつくしているだろうから、奥に入らなくてはならない。

 奥に入れば、モンスターのレベルはそれにともなって上がる。

 つまり外周は弱いモンスターで、中心部へ向かうほど、死の危険が高くなる筈だ。

 筈と俺が付け足したのは、この世界がゲームと同じかどうかという事が、まだ想像の域を出ないからだ。


 とはいえ周りの冒険者達を見てみると、奥へ入っていくようだ。

 それは当然の話で、収穫がなければギルドからの報酬もない。収穫なしの罰則はないが、ただ来て帰るだけでは飯にありつけない。

 あのカップルの冒険者も、奥へ向かって歩き出した。

 ソロは俺だけ。皆、二人以上の人数で組んでいる。装備もそれなりに高そうな防具を身につけていたりするので、俺の父親のお古の装備を見た冒険者が鼻白んだ。

 そんな反応に、俺はそれなりにムッとするが遺跡探索程度の事なら軽装で充分と考えている。


 当然、俺もそれについていく。


 しばらく進むと、道が別れており冒険者一行はふた手に別れた。

 別に仲間じゃないからそれで良いのだが。

 道が別れる度に冒険者はそれぞち散り散りに別れて行き、ついに俺と冒険者カップルだけになった。

 十字路に来た。

 冒険者カップルは、そのまま右にその足を進めた。

 俺の様なモブキャラなんて何とも思ってないのか、こちらを見もしなかった。

 俺は社会人として、会釈くらいするものだろうと思い、軽くもやっとしたが、まあそれは良い。


「じゃあ、俺はまっすぐ進むか……」


 また独り言である。田中司に染み着いた癖は簡単には治らないらしい。


 遺跡をのんびりと歩く。緊張感がないと思われるかもしれないが、ゲームを散々した自分にとっては散歩の様なものだ。

モンスターが仮に現れても、その時に対処すればよい。

 道端を歩いていてもめぼしい物は手に入らないだろう。

 とすれば建物に入るのが良かろう。

 俺は手近にある建物に侵入を試みた。それは細長い六階建てのビルだ。

 入り口には瓦礫が山となっていて、それをよじ登る。入り口のシャッターがへしゃげて曲がっており、瓦礫との間にぎりぎり一人通れる程度のスペースがあった。

 俺はそこに体を潜らせて、ビルの中に入る事が出来た。


 ビルの中は暗いが、そこかしこの壁に小さな穴や、隙間があり、そこから光が差し込んでいる。

 俺は魔石を電源としたライトをつけた。


 少し早歩きで、一階の室内を物色したが目ぼしい物がないので二階へと上がる。


 二階もくまなく探したが、目ぼしい物はない。

 大きな遺物オーパーツはあるのだが、それは流石に持っていけない。背負い袋に入る遺物オーパーツとかないだろうか。

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主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界にモブキャラとして転生して世界を救う件について〜 もりし @monmon-si

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