蜜柑

深川夏眠

蜜柑(みかん)


 乗り換え駅で通路を移動していたら、若い女の子に声をかけられた。

「突然すみません、私、●●県■■町▲▲組合の者です。今日、そこのデパートの物産展で特産品を販売していたのですが、少しだけ売れ残ってしまって、五百円なんですけど、もしよかったら買っていただけないでしょうか……?」

 すぐにも売り切って空港へ移動して最終便の飛行機で地元に帰りたい、とのこと。商品は袋詰めの小振りなミカン、五百グラムばかりか。ワンコインなら安いくらいだ。即決購入、彼女は嬉しそうに何度も「ありがとうございます」と言ってくれた。


 帰宅すると案の定、妻が冗談半分の嫌味。

「五百円のミカンを押し売りされて買う人は、次の日、五千円の花束、その次の日は五万円の印鑑、また次の日は五十万円の翡翠の壺なんか買わされちゃうのよ」

 しかし、現金なもので、食べてみると一転、

「あら、おいしい」


 翌日、そのデパートへ行ってみたが、物産展は終了していた。係の人に訊ねたら、出店者に「ミカンを販売する▲▲組合」の人は、いなかったそうだ。



                 【了】



◆ 初出:note(2015年)退会済

◆ 雰囲気画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/pRUIbfs8

*縦書き版はRomancer『掌編-Short Short Stories-』にて

 無料でお読みいただけます。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蜜柑 深川夏眠 @fukagawanatsumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ