神輿
深川夏眠
神輿(みこし)
マスミは今日も遅刻ギリギリに登校したと思ったら保健室で寝ているらしい。様子を見に行くと、溶けかけの飴玉みたいな眼で少し熱があると言う。
「もうすぐお祭だね……」
と、待ち侘びているのか、恐れているのか、視線の定まらない複雑な表情が、むしろこちらを不安にさせる。噂では、今年もこの学校から
体温計の先を腋窩にギュッと押し当てて脇を締めると、外すときはとても痛い、そんな
マスミが学校に来なくなって、教室では、病気で寝ているんだろうとか、準備が始まって隔離されたに違いないなどと、ヒソヒソ囁き交わされている。憑坐は潔斎し、宵宮にはうんと着飾って
祭の夜、ヴェールを被ったそいつ——化粧で素顔を塗り潰し、最早我々の幼馴染みではなくなった、あれは、
目が合ったのは、その瞬間、
「たすけて」
と唇を震わせた。
【了】
◆ 初出:パブー(2016年5月)退会済
*雰囲気画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/ukM7Vobk
*縦書き版は
Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて無料でお読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts
神輿 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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