第31話 戦利品の確認
ノアとリィエルは蚤の市を後にすると、まっすぐ宿へと戻った。お値段はそれなりにする高級めな宿だが、そのおかげで静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。宿泊している客も柄の悪い者はおらず、ご飯も美味しいので、不満はない。
ちなみに、手配した部屋の数は一つ。ノアとしてはいまだにリィエルと同じ部屋で寝ることに気が引けているのだが、研究所の外に出たその日に同じ部屋に宿泊した前例を作ってしまったため、そのまま二人部屋を手配するのが慣例になってしまったのだ。
強引に駄目だと言って一人部屋を手配しようとするととても哀しそうな顔をされるし、年頃の男女が同室に泊まることの道徳的な忌避感を上手く説明しようにもリィエルを納得させることはできず、諦めるしかなかった。
「お疲れ様、リィエル。今日は付き合ってくれてありがとう。俺は戦利品を確認しているから、夕食までゆっくり休んでくれ」
「うん」
ノアは椅子に腰を下ろすと、リィエルを労って礼を言う。同室生活が続けば慣れたものだ。室内に入って二人きりになっても、特に緊張した様子もない。アイテムボックスに収納した戦利品を取り出し、自分のベッドの上に並べていく。
一方で、リィエルはノアの傍に椅子を置き、肩を並べて隣に座った。
「どうしたんだ?」
「私もノアと一緒に戦利品を視る」
ノアが何かをするなら、私も一緒。
そう言わんばかりだった。
「そうか。なら、リィエルと一緒に使おうと思っていたマジックアイテムがあるんだ。最初はそれから確認しようか。これだ」
ノアは腰のアイテムボックスから二つのブレスレットを取り出した。それは――、
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アイテム名:再会の導き
ランク:三
説明:パーティとして登録された者同士を引き合わせる探知マジックアイテム(ブレスレット型)。半径一キロ圏内にいる登録者の居場所を知ることができる。半径一キロ以上離れている場合にはパーティメンバーがいるおおよその方向を知ることができる。
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王都の蚤の市で購入した掘り出し品の一つである。
「この腕輪は何のマジックアイテムなの?」
「腕輪を所持している者同士で互いの居場所がわかるようになるマジックアイテムだ。使用するのにパーティ登録ってやつが必要らしいから、登録しよう。こっちの腕輪をつけてくれ」
そう言って、ノアはリィエルに腕輪の一つを手渡す。そして、もう一つの腕輪を自分の手首に装着させた。
「うん」
リィエルも左手に腕輪を装着した。
「えーと、使い方は……と」
ノアは神眼を発動させ、腕輪を鑑定する。マジックアイテムは単純に魔力さえ込めれば発動してしまうものもあるが、使用条件は様々だ。スキルや魔法で鑑定しなければ使い方がわからなかったり、中には魔道士でないと使用できなかったりするものもある。
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アイテム名:再会の導き
使用方法:使用するためにはパーティ登録が必要。パーティ登録をしたい者同士で同じアイテムを装着し、『
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このマジックアイテムは呪文詠唱が使用の発動キーであるようだ。ちなみに、ノアが魔法の詠唱を破棄できるのはあくまでも自力で使用するものだけなので、マジックアイテムに呪文の詠唱が必要な場合はスキルでの詠唱破棄ができない。
正確にはマジックアイテムの魔法陣を起動させて神眼で魔法陣を鑑定して中身をいじくり回せば可能だが、そんなことをするくらいなら呪文を詠唱した方が圧倒的に早い。
「リィエル、腕輪をつけたて出してくれ」
「うん」
互いに腕輪をつけた手を近づける。
「
ノアが呪文を詠唱すると、パーティ登録の管理画面が二人の腕輪のすぐ傍に浮かび上がった。半透明の枠の中に――、
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再会の導き
パーティ登録可能な同アイテムを二つ検知。
装着者同士のパーティ登録を行いますか?
次の選択肢に触れてください。
――はい
――いいえ
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と、記されている。どうやらこれは神眼を発動させなくとも見えるらしい。リィエルもじっと枠の中の文字を見つめていた。
「はい、と……」
ノアは「はい」の部分に触れる。
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装着者二人のパーティ登録を行いました。
以降は腕輪を顔に近づけ、魔力を込めながらパーティメンバーのことを思い浮かべることで、マジックアイテムの効果が発動します。
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数秒して、表示は自動的に消えて――、
「リィエル、使い方はわかったか?」
ノアが確認する。
「うん」
「じゃあ、試しに使ってみようか。今から少し部屋の外に出てみるから、お互いに問題がないか効果を確認しよう」
「わかった」
リィエルが頷いたのを確認して、ノアが部屋の扉を開けて外に出た。ぱたんと扉を閉めると――、
「腕輪を顔に近づけて、リィエルのことを考える……」
先ほどの説明に従ってマジックアイテムを使用してみた。すると、腕輪から小さな魔法陣が浮かび上がり――、
「……おお」
ノアが感声を漏らす。第六感とでもいえばいいのだろうか? リィエルの居場所が脳内に浮かび上がったのだ。
視覚的に把握できるわけではないのだが、扉の向こう側にリィエルがいるのだと脳裏にイメージが浮かぶ。神眼でターゲットの位置情報をマーキングしているのと同じ効果があった。腕輪さえつけていれば継続して相手の位置情報がわかる分、スキルを発動し続ける必要がある神眼のマーキングよりも使い勝手がいい。
「これは便利だな。良い買い物をした」
蚤の市に足を運んだ甲斐があったというものだ。そう考えて――、
「リィエル、入るぞ」
ノアは室内に戻る。
「お帰りなさい、ノア」
「ああ、どうだった?」
「ちゃんとノアがどこにいるのかわかった。これは良いアイテム」
リィエルは感動して少し興奮しているのか、心なしかきらきらと目を輝かせているように見える。
「だな。あまり距離が離れすぎると漠然とした方向しかわからなくなるみたいだけど、これで離れ離れになる心配はなくなったな」
今後、色々と役立つだろう。
「うん」
これからはノアと離れ離れになる心配がなくなったからか、あるいはノアの居場所を感じられるのが嬉しいのか、嬉しそうに頷くリィエルだった。
失格世界の没落英雄 北山結莉(個人用) @yuri_kitayama
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