不死鳥への転生 ドラゴン倒せるって普通の鳥じゃないよね?

shiryu/DRAGON NOVELS

 普通の冒険?


「今日は普通の依頼に行こう!」

 シエルは空色の髪を激しく揺らしながら、力を込めてそう言った。

 僕がシエルと出会ってから、普通の依頼というものをほとんど受けていない。

 A級冒険者の手伝いや、S級冒険者と一緒に依頼を受けたが、シエルがいつも受けている依頼をこなしたことはない。

 もともとはD級だったシエルだが、僕と契約したことにより力が上がって、B級まで昇格した。

 まあ昇格させてくれたのは、S級冒険者の……。

「……もふもふ」

 僕を抱きしめている、金髪美女のアイリさんだ。

 鳥である僕の翼の柔らかさを気に入って、いつもすきあれば僕を抱きしめてもふもふしてくる。

 意外と気持ちいいから、僕もなすがままに受け入れているけど。

「アイリさん、今日は私の依頼に付き合ってくれますか?」

「……もちろん、キョースケがいる限り」

 僕がいなかったら許さないみたいだけど、僕とシエルとは相棒だから一緒に依頼を受ける。

 つまり僕も当然それについていくので、大丈夫だろう。

「キョースケもそれでいい?」

「キョー」

 いつものごとく、シエルにしか意味が通じない鳴き声を発して「大丈夫だよ」と伝える。

「ふふっ、可愛い……」

 アイリさんは僕の鳴き声を気に入ってくれているようだが、僕は前世では男だから可愛いはめ言葉ではないんだけどなぁ……。

 まあいろんな人に可愛いって言われてるから、今さらかな。気持ち悪いとか、変な声って言われるよりはマシだしね。


 ということで、今日はシエルが選んだ依頼をやることになった。

 今回受けた依頼は、薬草の採取だ。

 この街から出て西の方向へ行くと、大きな湖がある。

 そこに生えている薬草を取ってくるという依頼だ。

 シエルがD級のときにも受けていた依頼で、そこまで強い魔物は出てこないらしい。

「そんな依頼でいいの?」

「いいんです! 今日はそこまで難しい依頼じゃなくて、簡単な依頼で息抜きも兼ねて。この湖、水が透き通ってて綺麗なんですよ」

 五年ほど前から空に黒雲が覆われていて、太陽の光がほとんどないのにもかかわらず、その湖は綺麗なようだ。

「じゃあこの依頼でいいですね?」

「うん、大丈夫」

「キョー」

 ということで僕たちは、その綺麗な湖へ行くことになった。


 街を出て西へ数キロ、そこにある湖。

 その道中を適当に歩きながら向かっていると、何匹かの魔物と遭遇する。

 グレイウルフや、オークなど。

 黒雲の影響で強くなっている魔物で、シエルがD級の頃は手も足も出なかった相手だ。

 しかし今は……。

「『炎球ファイアーボール』!」

 シエルの右手から炎の球が出て、それがグレイウルフに当たる。

 一瞬で炎が燃え上がり、グレイウルフは真っ黒焦げになって絶命した。

 僕と契約してから強くなり、余裕を持って倒せるようになった。

 そしてオークの方が……。

「……ん、終わった」

 魔法名も唱えず、アイリさんが右手を軽く払っただけで、オークの身体が真っ二つになった。

 S級冒険者なので、このくらい魔物は朝飯前なのだろう。

 僕は……二人がやってくれるので、特に攻撃はしなかった。

 僕の仕事はシエルに撫でられたり、アイリさんに抱きしめられたり……。

 依頼に持っていく人形みたいな感じになってる気がする。

 今は一番仕事してないけど、この中で僕が一番強いんだからね。

 S冒険者のアイリさんが言うんだから、間違いないよ。


 魔物に襲われながらも、特に困ることなく僕たちは進んでいった。

 そして遂に、目的地の湖に到着した。

 僕は視力が良いから遠くからでも見えていたけど、近くで見るとすごい綺麗な湖だ。

 水は透き通っていて、水の中にいる魚がくっきりと見える。

 太陽光がないにもかかわらず、水面がキラキラ光っているようだ。

「久しぶりに来たけど、全然変わってないみたい」

「……綺麗」

 前に来たことあるシエルは変わらない湖を見てホッとしていて、初めて見たアイリさんは僕と同じように驚いていた。

 前に空を飛んでいるときは気づかなかったなぁ。

 林の中にあるから、空からは見えにくかったのかもしれない。

「依頼の薬草はあっちにあると思うよ」

 シエルが案内してくれて、薬草はすぐに見つかった。

 これで依頼は完了、あとは帰るだけなのだが……。

「ここまで来てすぐに帰るの、なんかね」

「キョー」

 僕は、そうだね、と返事をした。

 アイリさんも返事はしないが、強くうなずいていた。


 まだこの綺麗な湖を見ていたい。

 僕は前世ではこういう綺麗な景色を全く見れなかった。

 生まれてからずっと病院生活で、こういう場所に行くのにとっても憧れていた。

 すぐに帰るのはもったいない。

 まだ昼時だし、日が暮れるまでいてもいいと思う。

 だけど昼ご飯がないか……。

「ふふふ、こんなこともあろうかと、お弁当を作ってきました!」

「キョー!」

 おー、さすがシエル! このことを予測していたのか!

「さすがシエル、ありがとう」

「いえいえ、私がやりたかっただけですから」

 ということで、湖のほとりで軽いピクニックをすることになった。

 お弁当は重箱のようになっていて、一段目が僕、二段目がアイリさん、三段目がシエルのとなっていた。

 いつものバッグが膨れているとは思っていたけど、まさかこんなしっかりしたお弁当を持ってきているとは……。

 僕のご飯はいつも通り、ほとんどが肉。

 比較的汚れてなさそうな地面に座り、「いただきます」と言って食べ始める。

 もちろん僕は「キョー」しか言えないから、そういう意味を込めて鳴く。

「キョースケ、美味しい?」

「キョー」

「ふふっ、良かった。アイリさんも美味しいですか?」

「うん、シエルの料理はいつも美味しいから」

「ありがとうございます!」

 アイリさんに褒められて、シエルは嬉しそうにお礼を言った。

 綺麗な湖を見ながら、美味しいお弁当を食べる。

 とても楽しく、幸せな時間だ。


 そしてお弁当を食べ終わり、片付けをして一息つく。

「はぁ、お腹いっぱい。ちょっと気合入れて作りすぎちゃったかな」

 確かに今日はいつもより量が多かったかも。

 僕はなぜか空腹や満腹というものがないので、食べなくても死なないし、食べようと思えば永遠に食べられるけど。

 アイリさんもお腹いっぱいになったみたいで、二人は地面に横になる。

 食べたあとすぐに横になったら、牛になっちゃうよー……と聞いたことがあるよー。

 まあ今ぐらいはいいか、気持ちいいし。

 僕も横になろう……と思ったら、アイリさんにすでに引き寄せられ、抱きしめられていた。

「あー、アイリさん、キョースケを抱き枕にするのずるくないですか?」

「いつも寝るときはシエルが抱き枕にしてるんだから」

「だけど今キョースケ抱きしめたら、すっごい気持ちいい気がするんですけど」

「……最高」

「ですよね……」

 なんだか二人とも語尾が弱くなってきてる。

 もしかして、眠いのかな?

 最近二人でずっと訓練してるもんなぁ、そりゃ疲れてるよね。

 ……と思っていたら、本当に二人とも眠っちゃった。

 アイリさんは僕を抱きしめながら、シエルは僕の翼を撫でている状態で。

 うーん、僕も寝ようと思えば寝れるけど……。

 ここ街の外だから、魔物とか普通に出るんだけどなぁ。


 こうして横になっているとさすがに眠くなってくるが、眠気に負けずに僕は起きておく。

 もうこのまま寝たいなぁ……と思うけど、ダメだ。

 そう思っていると、やはり寝なくてよかったと確信するものが目に入った。

 まだ遠くに見えるが、僕の視力だったらはっきりと見える。

 さて、行こうかな。

 僕は身体を炎に変え、アイリさんの腕の中から抜け出す。

「んっ……」

 僕がいなくなって身じろぎをするアイリさんだが、起きはしなかった。

 よかった、すぐに戻ってくるから待っててね。


 翼を羽ばたかせて飛び、それが見えた方向へ行く。

 寝ているところから数百メートル離れた、林の中。

 道中に遭遇したグレイウルフ、オークを始め、その他諸々の魔物たち。

 まだシエルやアイリさんがいるところから遠いが、近づくのも時間の問題だっただろう。

 アイリさんなら寝ていても近づいてきたら起きると思うが、あんなに穏やかに寝ているのだ。

 事前に対処できるなら、対処しておかないとね。

 魔物は総勢、十匹以上はいる。

 なかなか多いが、特に問題はない。

 熊のような魔物が一体、飛んできた僕に気がついた。

「ウゴォ――!」

 雄叫おたけびを上げようとしていたが、すぐにそれは止まった。

 僕が首に炎の槍を放ち、焼き尽くしたからだ。

 声が出なくなると同時に絶命し、そのまま倒れ伏した。

 シエル達を起こさないために戦いに来たのに、そんな声で二人を起こされちゃ、たまったもんじゃないよ。

 ここにいる魔物達、全員――断末魔だんまつまも上げさせないから、覚悟してね。


 その後、宣言通り十体以上の魔物をほとんど音もなく倒し、僕は二人の元へ戻る。

 上から炎の槍を魔物の数の分だけ放つ、簡単な作業でした。

 二人ともまだ熟睡していて、今の戦いは全く気づいてないようだ。

 良かった、これで気付かれていたら努力が水の泡だ。

「んん……キョースケ……」

「んっ……ふわふわ、ない……」

 シエルはさっきまで翼を触っていた手を、アイリさんは両手を動かして僕を探しているようだ。

 二人を起こさないように、慎重にさっきまでの位置に戻ると、二人とも先程と同じように撫でて、抱きしめてくる。

 顔を見ると、気持ち良さそうに眠っている。

 ふぁ……僕も眠くなってきちゃった。

 さっきの魔物を倒したあと、周りを少し見渡して魔物がいなかったから、僕も眠っちゃっていいかな。

 ということで、おやすみなさい……。

 僕は眠気に逆らわずに、そのまま意識を手放した――。


「キョースケ、起きて」

「……キョ?」

 身体を揺らされるのを感じて、僕は目を覚ました。

 目を開けると、目の前にシエルの顔があった。

「おはよう、キョースケ。いつの間にか私たち寝ちゃってたね」

「もう日も暮れ始めた、帰らないと」

「キョー」

 二人が立ち上がっているので、僕も伸びをすると同時に羽ばたいてシエルの肩に乗る。

「んー、だけどよく眠れたー」

「街の外で熟睡したのは初めて、魔物に襲われなくてよかった」

「そうですね、運が良かったですね」

 僕が抜け出したことにはやはり気づいてないみたいだ。

「ん? どうしたの、キョースケ?」

「キョー」

 なんでもないよ。

「そう? じゃあ帰りましょうか、薬草も取れたしね」

「うん」

「キョー」

 特に言う必要はないから、別にいいよね。


 こうして今日の依頼は終わった。

 シエルがやりたかった普通の依頼というのがこれでよかったのかわからないけど……。

 まあ楽しかったからいいか!

 これからももっと楽しいことを、シエルやアイリさんと一緒に楽しめればいいなぁ。

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