1-8 灌漑用水貫通記念大宴会!
「まあ飲んで下され」
「ありがとうございます」
これで何度目になるかわからない献杯を、俺は受けた。エンリルとイシュタルの大活躍で、灌漑用水パート二はたいした苦労もなく開通した。大量の土砂の処分が大変かと懸念していたが、それはそれで街の土木工事に使うとかで重宝された。
開通の日──ようするに今日──は大宴会。とても現実世界のマンションに戻るとも言えず、宴会の主賓に祭り上げられた。街総出の祭礼といった規模だったので、俺の仲間もあちこちのテーブルに引っ張り回されては話の相手をさせられている。
今、俺のテーブルについているのは、あと吉野さんとレナ、タマの初期メンバー四人だけだ。
「いや平殿の活躍には度肝を抜かれました」
「ほんにほんに。まさかのドラゴンライダー様とは」
「ささ、ぐぐっと。……ほれ、吉野様も」
「ええ。ありがとうございます」
吉野さんはうまいこと、ちょっとずつ飲むふりだけしてかわしている。さすがの社畜スキルだわ。
「ほい。次は平殿」
「はい」
どのテーブルもこの調子だろうな。ふと心配になって見回してみた。
あー大丈夫か。みんなうまいことあしらいながら、楽しく飲み食いしてるわ。
なんならサタンとキラリンなんて、子供テーブルで大歓迎されていて、園児と一緒に謎の乳酸菌飲料、ごくごく飲みまくってて楽しそうだ。いやキラリンはともかくサタン、にっこにこ顔だけどお前一応地獄の大魔王だろw なんで園児枠なんだよ。しかも完璧に馴染んでやがるし。
「平殿には、この街にこれからも逗留してもらいたいものじゃ」
「ほんにほんに」
「いえ……申し出ありがたいですが俺達、ヴェーダの後を追わないと」
「大賢者ヴェーダ様ですね。ヴェーダ様といい平様といい、この街の大恩人だ」
「ヴェーダ様の行方は、おわかりになるのでしたっけ」
「ええ……」
ちらとタマゴ亭さんを見た。隣のテーブルで、食堂のおっさんと、熱い食材トークを繰り広げている。俺の視線を受けると、例の「魔導徘徊監視システム」円盤を、振ってみせた。
「ちょうどいいや」
円盤を持ったまま、俺のテーブルに来る。
「平さんも見て。ほらこれ」
テーブルに円盤を置くと、一点を示してみせた。
「ここにヴェーダがいるみたいなんだけど、なんだか変なんだよね」
ほら……と、指を回す。
「ここ、火口でしょ。なんでこんなとこに突っ立ってるのかな」
「火口……って燃えちゃうじゃない」
吉野さんが目を見開いた。
「いや……」
魔導円盤に浮かび上がる地図を、役所の若旦那が見つめた。
「この山は休火山です。だからすぐには死なないでしょうが……」
眉を寄せる。
「ですがこの火口は深くて切り立っている。……落ちたのではないでしょうか」
「そんな……」
吉野さんが絶句する。
「大丈夫だ。ふみえボス」
タマが言い切った。いつものクールな雰囲気で、強い酒を口に運んでいる。
「もし対象者が死ねば、表示されるアイコンの色が変わる。……そうだったな、タマゴ亭」
「うん、そう。だから元気だとは思う。思うけど……」
「落ちたんじゃないなら、降りたってことだよね、ご主人様」
地図を覗き込んでいたレナが、俺を見上げてきた。
「ヴェーダは、なんの用事があったんだろ」
「行ってみるしかないか」
「幸いここは、割と近いよ。何日も掛からず、着けると思う」
「こんなところに入った以上、ヴェーダさんもツェルトとか携行食、水くらいは持ってるだろうしね、平くん」
「そうですね、吉野さん」
「なにかご存じないですか、ご主人」
若旦那に振ってみたが、黙ったまま唸っている。あんまり情報はなさそうだ。
「そう言えば……」
先程から大人しく飯を食っていた村人のひとりが、斜め上を見上げた。
「たしかこの山、花伝説があったはず」
「花伝説……」
「ええ。ただの小さな万年草なのに、根は地下千メートルも深く張っている。地下の溶岩と地熱からマナを吸い上げて、魔力に満ちた実と種を宿すとか」
「ああ、思い出した」
若旦那が手を打った。
「だからこの花は、休火山の火口内部にしか自生しない。滅多に見ないこの貴重な植物が、この火口にたくさん自生していると」
「凄いじゃないっすか。なんでこの街の人は取らないんですか。大儲けだ」
鉱山商社マンの血が騒ぐわ。これこそ異世界の貴重な鉱物資源じゃん。
「そもそも花を見た人がいないんです」
若旦那は首を振った。
「なんたってただの伝説だ。それに……」
唸った。
「ここ、危険なんですよ。……生きて帰れるかわからないほど」
「そんな危うい場所に……ヴェーダが……」
俺と吉野さんは、目を見合わせた。
■次話から新章! 「マジックフラワーの根」(仮題)。
ヴェーダの行方と安否は? そしてヴェーダとラップちゃん、老いらくの恋の行方は? 平はどう動く……。乞うご期待!
■新作を連載開始しました!■
【ネオ時代劇×恋愛ファンタジー】天津陽高 神木船 波路道行(あまつひだか かみきぶね なみじのみちゆき)
https://kakuyomu.jp/works/16816927860708306014
第一話
https://kakuyomu.jp/works/16816927860708306014/episodes/16816927860708310402
キャッチコピーにも書きましたが、江戸時代のただのおっさんが、平賀源内や写楽、鼠小僧といった海千山千の猛者どもを引き連れ、謎の女奴隷を伴って、小さな帆船ではるか遠くのペルシャ(現イラン)を目指すという。今話題のネオ時代劇風味の和風ファンタジーです。
カクヨムコンテスト参戦中につき、応援よろしくです。とりあえずフォローの上、呼んでみて面白そう/ないし期待できそうと感じたら、ぜひ星みっつの評価をお願いします。
現在フォロー十人&星入れ三人様と少数精鋭にて苦戦中😭 ぜひお助け……あわわご応援下さい。お願いしまーすっ ><
あーあと各話に「注釈」多いけど、驚かないでね。あれは無視して構いません。注釈は当方の趣味みたいなもんで。用語の意味がわからなくとも実際、雰囲気で楽しく読めるようにしてあります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます