2 マジックフラワーの根
2-1 エンリル、天高く舞い上がる
翌朝。楽しい宴会で休養充分の俺達は、街外れに立っていた。街の人が大勢、見送りにきている。
「平さんには本当にお世話になりました」
「ほんにほんに」
「有り難いことじゃ」
役場の若旦那が頭を下げると、他のみんなも口々に礼を告げてくる。
「いえこちらこそ、ヴェーダじいさんの情報をもらえて助かりました」
「またいつでも寄って下され」
「故郷と思って」
「まあまあごていねいに」
ぺっこりと、吉野さんが頭を下げる。
「平くんと私や仲間は、この世界で腰を落ち着ける拠点を探しています。ここをそのひとつにしていただけたら、とても嬉しいです」
「こちらこそ」
「願ったりだ」
「そうだ。ちょうどいい空き家がひとつある。あれをみんなで整備しておきます。平様とお仲間の別荘として」
「そうじゃそうじゃ」
みんな大喜びだ。俺としても親切にされて助かる。異世界に生活の軸足を置くと決めた以上、拠点はいくつあってもいいからな。それに一度足跡さえ着けておけば俺達、キラリン転送で簡単に行き来できるし。
「ヴェーダ殿にもよろしく伝えて下され」
「おう。この街の感謝をな」
「わかっています」
「ご主人様」
例によって俺の胸に収まったレナが、俺を見上げた。
「あれ、頼まないと」
「そうそう」
思い出したわ。
「俺達、ちょっとヴェーダと会ってきます。その間、馬車を見ておいてもらえますか」
「それは構わないが平さん……」
若旦那は、俺の顔を見つめてきた。
「例の火口まで、どうやって行くつもりで。歩きではとてつもなく時間が掛かりますよ」
「もう忘れたんですか。俺達には超特急がある」
俺が目配せすると、エンリルが頷いた。
「どれ。余のドラゴンライダーを乗せるとしようか」
言い終わった途端、ドラゴン形態に変身した。
「おおっ!」
町民がどよめく。
「エンリルさんってば、また脱ぐの忘れてる」
吉野さんが溜息をついた。
「服、破れちゃったね」
トリムも呆れ顔だ。
「まあ、いつものことだ」
タマも苦笑いだ。
「いくつも予備がある。それを持っていこう、平ボス」
「そうだな、タマ」
なんでもエンリルに頼むのは悪い。それになにしろドラゴンロードはプライドが高い。俺の使い魔になったとはいえ駄馬のように使われるのを、心底嫌う。だから滅多なことがない限り、乗り物扱いはしないんだ。
でも今回、行き先は切り立った火口内部だ。これだけの人数が垂直降下するのは難しい。どちらにしろ火口ではエンリルに頼むことになる。なら最初から乗っていったほうが楽だし合理的だ。
「よし、みんな乗れ。噂の火口まで、ヴェーダを探しに行こうじゃないか」
「うん、平くん」
「ボス」
「婿殿」
「甥っ子甲よ」
みんなそれぞれ適当に、エンリルの背中に位置取る。
「エンリル頼むぞ。火口までのタクシーだ」
「任せておけ、平よ。腹の娘の父親よ」
楽しそうにひと声吠えると、エンリルは高く舞い上がった。俺達十一人を背に乗せて。
行き先は、例の火口。ヴェーダの奴、いったいぜんたい、そんな荒れ地で何やってるんだろうな。
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