神はただの観測者

ポポ

第一話 出会い

 世界には、魔物という人間に敵対する種族がいる。魔物とは、人間や動物を除くすべての生物の総称であり、種類によって様々な能力を持っているが、知能は犬や猫などよりも低いといわれている。


 その昔、人間と魔族はお互いに干渉せずに生活していた。しかし、生活が豊かになっていくと欲が出てくるもので、人間は魔物の土地を侵略し始めた。彼らは手始めに、力の弱い魔物の土地へと攻めていった。戦闘向きではない魔物たちは人間に負けてしまい、住処を追いやられてしまった。


 それに勢い付いた人間たちは、力の強い魔物の土地へと攻めていく。しかし、生身の人間が鎧などの装備を付けただけ、それに対し魔物は熱線や馬鹿力。結果はもちろん人間の大敗だ。その後、侵攻されたことに怒りを覚えた強い魔物達は、逆に人間の土地に攻め込み始めた。人間はなすすべがなく、このままいけば人間が絶滅することさえ可能性があった。


 そんなある日、不思議な能力を持つ赤子が各地で生まれた。その能力とは、魔物の能力のように身体強化などをするもので、これを人間の隠されていた真なる力という意味で、“シン”と名付けられた。“シン”は時間をかけて広まっていき、魔物と人間の戦力差は徐々に埋まっていった。初めは、魔物の虚をつく形でその能力を用いて人間は勝利をおさめ、土地を取り返していった。しかし、そこからはお互いに牽制しあい、現在のように拮抗している。 


                 *


 部屋でくつろぎながらふと時計を見ると、針は12時を指していた――まずい、今日は午後1時にゼペット様のところへ行かないといけないんだった。俺は急いで身支度を始め、家を出た。この王国は、ある程度権力を持った貴族たちが、各々の地域をおさめている。ゼペット様ももちろんその一人であり、彼に気に入ってもらえた俺は今日のように何度か家に招かれている。 足早に繁華街を抜けると彼の家についた。彼の敷地の入り口は、金を基調とした大きな門になっており、中央には大きな龍が描かれている。入り口からもまさに成金といった感じだ。龍の鼻の下辺りにあるベルを鳴らすと、いつものようにどこからかメイドが対応する。


「どちら様でしょうか?」


「リース=ハルヴェルです」


「リース様ですね、お通りください」


 大きな門が重厚な音を立てて開いた。入ってすぐ、噴水を挟んで大きな家が目に入る。噴水は二段になっており、大理石で作られた不気味な鳥の石像がそれを囲うように立っている。その奥にある家――というよりかは、大きさ的に城といった方がいいのだろうか、灰色のレンガでできたそれは三棟に分かれている。正面は大きい円柱形となっており、残り二棟は、正面の棟より一回り小さい立方体の棟が左右対称になるように建っている。それらは、二階あたりにある空中廊下でつながれている――こんなことに使うなら税収下げてほしいよなぁ――


 噴水を越え、よく整備された庭園を抜け家の入口につく。家の入口は木造の両開きの扉で、先ほどの不気味な鳥が向かい合うように描かれている。縁は金でできており、大きさは私の背丈の倍ほどの大きさといったところか。それをノックし、扉を開けた。

 

 扉の奥には、家の外と遜色ないような豪華なつくりになっている。天井にはシャンデリアが下がっており、左手には赤い絨毯が敷かれた大きな螺旋階段がある。正面には豪華なテーブルといすがあり、そこで客人対応を行ったりしている。4人掛けのそこには、いま3人座っている。


「おー! リース君か! 今ちょうど1時だ。相変わらず時間厳守だねぇ」


 私に気づき、席を立ちあがりこちらに近づきながら声をかけたこの男こそがゼペット様だ。これでもかと金の刺繍が入った黒のロングコートをお召しになっている。全ての指に高そうな指輪をしているが、正直あまりいい趣味ではないと思う。まあ金持ちと私のような庶民では感覚がまったく違うのだろうなあ……


「ご機嫌いかがでしょうかゼペット様。本日もセンスのいいお召し物で!」


「はっはっは! そうだろう、そうだろう!」


「はい。私もいつかそのような洋服を着れるようになりたいです――早速ですが、今日はどんな御用で?」


「おお、そうだな――おい」


 ゼペット様が声をかけると、座っていた残りの二人が立ち上がりこちらに向かってきた。一人はゼペット様のご妃であられるミーシャ様だ。ゼペット様に比べ明らかにお若く、確か歳は10ほど離れていたような…… 彼女は、きれいな水色のドレスを着ており、とても似合っている。残りの一人はおそらく、息子のラミス様だろう。お話では聞いていたが、外部の者は一切顔すらも見たことがなかったため、周り者は存在すら怪しむほどであった――


「今まで見せてなかったが、この子が息子のラミスだ。今日君を呼び出したのはほかでもない、2.3年後に色判別テストを受けさせようと思っておるのだが、中途半端な結果では我がエルトリア一族の威信にかかわってしまう。そこで、これから君にはラースに戦闘の稽古をつけてもらいたい。どうだろうか?」


 まあ拒否権はほぼ無いよなあ――――色判別テストというのは、10歳以上の者がだれでも参加できる、国が運営している催しで、主に能力や判断力など、主に戦闘能力の高さを図るのもである。その結果によって、白、黄、オレンジ、緑、紫、茶、黒と色分けされる。黒が最上位のクラスになっており、色によって任される依頼の幅が増えたり、報酬が階級によって明らかに異なっている。また、それにより社会的地位が確保できる。もちろん、ゼペット様のように戦闘能力がなく、色の等級が低くとも、財力で社会的地位を得ているものももちろんいる――――


「かしこまりました。して、ラミス様の“シン”はどのようなものでしょうか?」


「うーむ――『無し』と言ったらテストは相当厳しいものになるのだろうか?」


「うーん、“シン”無しそれも経験のない子供となると、相当厳しいものになることが予想されます。最高のペースで成長していったとしても、行けてオレンジ――いや黄色ぐらいですかねぇ」


「そうか…… 最悪出さないということも考えとかないといけないな」


「まだ小さいですし、修行の成果にかかわらず一度試しで出してみる。というのも悪くはないと思うのですがいかがでしょうか?」


「いやならん、白なんて配属されてみろ。周りから笑われてしまうだろうが」


「失礼いたしました。では、そのようにさせていただきます」


「うむ、ではおねがいするよ」


 まだほんの子供なのに気にしすぎやしないか? ミーシャ様に手を引かれ、ラミス様がこちらへ向かってきた。黒のズボンに白のシャツ、その上に黒のジャケットのようなものを羽織っており、年齢不相応な服を着ている感じがした。さらに彼は、先ほどからずっとニコニコしており、全体的に人間味があまり感じられなかった。彼は、ミーシャ様に促されると、私に挨拶してきた。


「初めまして。ラミス=エルトリアと申します。これからよろしくお願いします」

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