第5話 その日の食卓
現在、我が家の夕飯の食卓には、重苦しい空気が漂っていた。
「ハルト、アリスから聞いたぞ。生徒に『ダークパスト』使ったらしいじゃないか」
「実害は無いとはいえ、どうなのかしら……人生の中で一番恥ずかしい出来事を強制的に思い出させる、なんて……」
両親が渋い表情でそんなことを言ってくる。
途中で二人、早退してしまったが、初日に伝えるべきことは大体伝えていたから、そこは大丈夫だろう。あの後、別に特に何かした訳でもないし。
「いやでもさ、銀狼族の子供ってのは特に躾を厳すべきだと思うんだよ。なんたって、子供の内から凄い力を持つことになるんだからさ」
「……まぁ、一理あるな」
「そうねぇ……ハルトもアリスも少し甘やかし過ぎて、こんなことになってしまったし……」
「「ごめんなさい」」
母さんの可哀想なものを見る目が辛いです。
俺がその痛い視線からなんとか逃がれようと身じろぎをしていると。アリスが何か思い出したかのようにあっ、と。
「ーーところで、お兄ちゃん。今日ミーナさんにお兄ちゃんって呼ばれてたよね? 妹、私一人じゃ足りなかったの?」
アリスが光を失った目で無表情のまま、こちらに顔を向ける。こっわ! 何コイツこっわ!
「あらあら、アリスがそんなにお兄ちゃん大好きだったなんてねぇ」
あらあら、じゃないよ!
俺だけでなく、父さんまで怯えてるのに、母さんちょっと呑気すぎない!?
「ベ、別に好きとかじゃないから! ちょっと妹として気になっただけで……」
「ふふ、アリスったら赤くなっちゃって。ねぇ、どうかしらハルト。アリスが3年後に学校を卒業したら、そのままアリスのことお嫁さんとして貰ってくれないかしら?」
「何言ってるの、お母さん!? も、もう……本当に……まったく……」
アリスは顔をほんのり赤く染めながら、そわそわと落ち着かない様子で両手の指を絡ませながら、ちらちらとこっちに視線を送ってくる。
確かに、母さんの言う通り、三年後アリスが無事学校を卒業出来れば、その時は十五歳。この国の法律では十五で結婚出来る筈だから、ちょうどアリスは結婚出来る歳になる計算だ。
ふむ、アリスと結婚か……別に考えた事なかったなぁ。
「……あー、でも俺、将来可愛い貴族の娘と結婚するつもりだからなぁ。あ、そうだアリス、愛人で我慢してくれないか?」
「最低! お兄ちゃん、さいってい!!」
ダメか。
血の繋がらない妹と結婚なんて、誰もが羨む状況だと思うんだが、ままならないものだ。まあ、いつまで経っても貰い手が誰もいないようだったらそれでもいいかもしれない。
勿論、俺の貰い手な?
まあ、ミーナの事については誤魔化せたし良しとしよう。
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