世界に誇る技術

@HasumiChouji

世界に誇る技術



「我が国が育成した技術者達は世界中に派遣され、それぞれの国で、大きな社会貢献を成しています。我が国が存在しなければ、全世界の……は成り立ちません」

街頭テレビの中のアナウンサーが誇らしげに、そう言っている。

この国には、「インターネット上では隣国による『検閲』が行なわれている」と云う陰謀論を信じている人が少なくない。

インターネットと云うインフラを維持するには、今や、1〜2世代ほど前からずっと険悪な仲で有り続けている「隣国」で作られた様々な電子機器が不可欠になっている。そのせいで、この国の保守的な人々は「自由なメディアは国営テレビしか無い。ネット上では、どのような情報改竄が行なわれているか知れたものでは無い」と信じ込んでいるのだ。

でも、テレビを作るにも、その「隣国」の電子部品が必要では無いのか?と思う人も居るだろうが、そこは、良くしたもので、この国は、廃れていたブラウン管技術を復活させた。この衰退し続ける国であっても、世界一の生産量を誇るモノ……それが「ブラウン管」だ。……21世紀も半ばにブラウン管を大量生産する事の馬鹿馬鹿しさ、と云う些細な問題が有るが。

「我が国では、優れた技術者達を育成する為に、小学校の頃から実技教育を行なっています」

アナウンサーは、そう言っているが、テレビに映っている映像を見る限り、子供に素手で、そんな行為をやらせるのは、安全上色々と問題が有るようにしか思えない。

「かくして育成された技術者達は、世界中の人々から称賛されています」

画面に映っているのは、手作業で便所掃除をしている人々だ。

そう、かつては経済大国だったこの国が、現在、世界に誇っている「技術」とは「人間による便所掃除」なのだ。

10年以内にロボットに取って代わられるだろうが。

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