第3話
ラグビーW杯で日本が勝利し、初の決勝トーナメントに進んだ。初めてラグビーの試合をみた。防衛ラインの突破、タッチラインまで疾走する選手の姿は、それまでの手に汗握る肉弾戦との対比からとても鮮やかな光景だった。サッカーやバスケと比べてスペースや技術を使う戦術の広がりに少し物足りなさも感じたけれど、実際その場でぶつかり合うエネルギーや、選手のそれまでの積み重ね、勇気と威厳を想像して「いやぁ、すごいな」と改めて思い直した。観戦してるそばからなにかせねばとビリビリきて、とりあえずスクワットをし始めた。試合内容、そして結果もすばらしく、日本ラグビーの歴史としても大きな出来事だったので、見ている人すべてがなにかをもらったに違いない。スポーツバーで仲間と酔っぱらいながら深夜まで選手を称賛し、自分が感銘を受けて到達した答えをバカみたいに「おれぁやるぞぉ」と意気揚々と宣言してみたいものだけど、ここにひとり静かに書き記すことだけが今のわたしにできること、と書き進める。
試合の大きなエネルギーに感化されて、また、知らなかった競技をみたエキゾチックな思いから、この感じはなんだろうと分析してみた。
・試合には勝負を決めるハイライトがあって、それを作り出すヒーローがいる。ヒーローがその瞬間を駆け巡るとき、目をきらめかせて見守る自分がいた。(いたねぇ)
・大きな壁に立ち向かい、道を切り開き、身を盾にして目標に向かって進んでいく。信頼し、喜び合う仲間が目に映った。(ぐっとくるものがあったねぇ)
・人がいいアクションして、わたしもいいなぁとポジティブなパワーをもらう感じ。(この法則なんだろう)
・ネガティブ、無気力をライフワークとする自分と対極にいる世界。
(でも憧れてしまう)
ふいに頭の場面がスライドして、職場でもこの人のエネルギーは一体どこから来るんだろう、いいアクションだなぁと刺激を受けることがある。そうすると、ちょっとやってみるかという張り合いが出たり、真似してみる自分がいる。わたしはいい存在になることを目指すのが本能として組み込まれているのかもしれない。心のセンサーは、きっとそれが自分がそうなりたいという材料を示してくれているのだろう。
でも、でもだ。自分がいくらよくなりたいと思っても、世間はお前は害だと評価する。どれだけ純白のおいしいクリーム(妄想)をつくっても、黒いスミ(現実)でベタ塗りされてしまう。いつもそれの繰り返し。そしてそれはミルフィーユのように甘くはない。このジレンマがわたしの精神を揺るがせ消耗してしまう。強制的に無気力な道を歩ませる力が働く。この解決法はどこにあるのか。
The Verve の Bitter Sweet Symphony のミュージックビデオのようにひたすら自分の道を進んでいく、まわりのことなんか関係ない。という方法。すべての問題は対人関係にあるというアドラー心理学。外の声を一切遮断して自分の求めるものを得る。自分の受け取り方で自分の人生を決める。それはそれでかっこいいのかもしれないけれど、この生き方に、わたしは今日見た試合で感銘を受けたような魅力を感じない。つまり、そうなりたい訳じゃない。
じゃあどうなりたいんだ。どう現実を生きるべきなんだ。
買い物をするとき、わたしは車の中で最速のアクションができるようあらかじめ必要なものを考え、売り場を歩くコースを描いて、生唾を飲みドアを開ける。冷や汗がでそうな思いで、「はい、災厄がきましたよ」と心の中でつぶやきながら店に入る。焦燥感から頭の中の欲しかったリストから何個かが消えつつ、なんとかレジで会計を済ましてセーフティスペースにたどり着く。その間、「ん゛っ」という喉鳴らしをするおばちゃん、おっちゃん。臭いをリンスの匂いでごまかそうとしきりに髪を振る店員。それでも、「これはわたしに必要だった」と弁明する表情で家路につく。胸に残る残念感。そしてショックの強いときは数日間、多少の食事制限もいとわない積極的な引きこもりとなる。違うんだ。悪い存在でいたくない。おれはよくなりたいんだ。
どうしたらいいのか、また今日も考えながら布団に入り夢の中ですいすい~と泳ぐ。
(後感:ラグビーは壁に対して「積み重ねの力」と「仲間」と「勇気」で立ち向かってたな)
わきがのひとのための日記 @ochazuke99
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