第12話 ダンさんと出会う 2
「……あっ」
あれは…言った方がいいよね…?あ、ほら。お姉さん困ってる。
スリの犯行現場をルークは偶然見てしまったのだ。
女性はそのまま細道の隣にある店で買い物をし、会計時にサイフがないことに気づいたようだ。
「あれ?私のサイフがない…?」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。払う気がないなら帰ってくれ」
そんな会話を店の近くにいた者達はチラリと視線を向けるが、巻き込まれたくないのかすぐに視線を逸らす。
ルークは2人の元へ向かうことにした。ヴァルガの傍から離れることに一瞬躊躇したが、目の前で起こった事態に首をはさまずにはいられらなかった。
ヴァルガの方へと目を向けるが店主と何やら話し中。すぐに戻ると決め、声はかけなかった。
店の前で女性は必死にサイフを探していた。
「お姉さん、どうしたの?」
突然声をかけてきた小さな子供。フードの隙間から見える
見たことない色合いに驚くも、女性はすぐに答えた。
「…ええ、それが私のサイフがないの。家を出る前はちゃんと確認したんだけど…どこかに置き忘れちゃったみたい」
困ったように笑う女性の言葉に、ルークは優しく声をかける。
「置き忘れてないよ。お姉さんのせいじゃないから大丈夫。あそこ見て…さっき細道から出てきたあの男。あの人が盗ったんだよ、僕見てたから。少し後ろに下がって待ってて…」
女性は何のことか分からなかったが、ルークの"盗った"という言葉を聞いて顔色が変わった。
スリをした男にこちらの会話は聴こえてない。
「…ねぇっ!!人のものを盗んで歩いてる男の人ー!帽子とか被ってない短髪の人ー!!」
突然大きな声を上げてスリ男に向けて叫んだ。周りに帽子なしの短髪の男は一人しかいなく、周りはそのスリ男とルークを交互に見て、何事かと足を止め始めた。
スリの男は勢いよく振り返り、ルークの元へ走り詰め寄った。
「おいクソガキ!!そいつぁ俺のことか?!あ"ぁっ?!」
いきなりルークは胸ぐらを掴まれ地面から足が離れた。
隣の女性は男とルークを交互に視線を向けるが、足は震えて声も出せずにいた。
「っそうだ。あなたが盗んだ瞬間を僕は見ました。…盗みなんて頭の悪いやつがすることだ」
「ってめぇ…ふざけんなよっ!」
「かはっ!!」
持ち上げたまま顔から思い切り地面に叩きつけられた。痛さに涙が出そうなったが、何とかこらえた。額から少し血が流れてるが気にしない。
「俺がいつ?サイフを盗んだってんだ?…ほら、なんにも持ってないぜ…?」
ニヤニヤしながら自身の上着やらポケットやらを探り、持ってないと主張した男。おそらく違うところに隠してるか、さっそく換金したかは分からないが、嘘をついてることは間違いない。
ルークは立ち上がり、血を拭った。
足を止めていた人たちも最初は事件かと心配して集まっていた。しかし、男が無実を示す様子に、なんだ違うのか…と口を漏らす者や、ただのホラを吹く子供か、とガッカリしたような表情をして見ていた。
周囲の反応にルークは内心予想通りだと思っていた。人の話は最後まで聞きましょうってね。
「…ふふっ」
「てめぇ何笑ってんだ?」
「…いえ、本当にあなたは頭が悪いのだと確信したので」
「いい加減にしろよ…俺はなにも盗っちゃいない。お前が最初に喧嘩をふっかけたんだ、覚悟は出来てんだろ?」
男は再びルークの胸ぐらを掴むと、右手は握りこぶしをつくった。
「…話を聞いてください。あなたは最初に、」
「うるせぇ黙れっ!」
ルークの言葉を遮り、
話を聞いてくれそうにない男の様子にルークはどうするかを考えていた。
今はこのまま殴られて、落ち着いたらまた聞いてくれるか試してみよう。
「散々いいやがってこのクソガキ!……っ!!」
迫る拳に思わず目をつぶり、痛みに耐えようと思い身構えた。さすがに殴られるのはいやだ。叩けつけられたので充分だ。
…そう、思っていたが、いつまで経っても殴ってこない。
恐る恐る目を開けると、目の前に別の男の腕があり、その手のひらにはスリ男の拳が包まれていた。
助けてくれた…のかな?
拳をとめた男は、ルークの胸ぐらを掴んでる腕の肘の辺りを手刀の形で叩いた。すると直ぐに手が離され、体が地面に向かって落ちる。
「い"っ…!」
「わっ…」
「っと…大丈夫か?坊主」
「あ、ありがとうこざいました…」
落ちるところをまたまた助けてくれたこの人。僕を小脇に抱えたままスリ男と向かい合う。第三者の介入に周りはさらに人が集まってきた。
その中には父さんの姿もあって、いつもの優しい顔が怖くなっていた。いつから居たのかな…?
こっちに来ようとしてるみたいだったけど、僕は首を振った。
ここで父さんがきたら更にややこしくなるのは目に見える。それに、スリ男の命までは保証できないからね。
「ダンさんだ…」
「よかった、ダンさんが止めに入ってくれなかったらあの子供、殴られてたぞ」
「けど額の血が中々止まらないぞっ?!…大丈夫なのか?」
ダンさん?ってこの男性の名前か。有名な人っぽいし、あとでお礼しなくちゃ。
それよりも血が止まってない?…あ、ほんとだ…。これはあとで父さんに怒られちゃうなぁ。
「てめぇ…俺の腕に何しやがった、」
スリ男はこの男の人(ダンさん?)に腕を叩かれてからどうも様子がおかしい。左腕が痺れてるのかな?動かないみたいだ。
「少し動けなくした。安心しろ、数時間で動けるようになる。それよりもお前、こいつの話を聞けよ。それともなにか、不味いことでもあるのか?」
「だから言ってるだろ?!俺はこの女からは何も盗っちゃいねぇ、サイフはどこかに置き忘れでもしたんだろ?それにさっき持ってないことも見せたじゃねぇか!」
「…と言ってるが坊主。本当にこいつが盗んだというのなら、確たる証拠があるんだよな?」
男性はルークの顔を見て聞いた。ルークはそれにしっかりと頷き、小脇から降ろしてもらい一歩前に出た。
「あなたはさっき言いましたね。この女からはサイフなんて盗ってない、と」
事の始まりを見ていた町の者たちもたしかに、と頷きあってる。けどその顔はまだ僕の言いたいことがわかってないようだ。
ルークはそのまま言葉を続ける。
「僕がいつ、盗られたのがサイフと言いましたか?いつ、盗まれたのがこの女性の物だと言いましたか?」
…もう気づいたでしょ?そう、このスリ男は自分の発言で自分を苦しめたことに気付いてない。
「僕は一言も言ってませんよ。盗まれた物がサイフで、この女性の物だということも。あなたはこの方のサイフがないことを知っていた。なぜ知ってたんですか?…それはあなた自身が盗った犯人だから、ですよね?」
家にあった推理小説っぽく言ってみたけど、意外と楽しいかも。横にいるダンさん(?)を見ると目が合って、優しく頭を撫でて微笑んでくれた。
実はこのダンさんって人、多分だけどスリ男が盗んだ瞬間、僕と同じで見てたと思う。
スリ男に声掛けたとき僕に視線向けてた。でも殺意とかじゃなくて、心配してるよって視線。で、いま目が合って確信した。最初に感じた視線と同じだ。
周りの人達も事の真相が明らかになると、なるほど、と納得している者や、サイフを盗んだ犯人へ冷たい視線を浴びせていた。
「っち…ほら、てめぇの言う通りだ」
そう言ってスリ男はサイフを出して女性へと投げ返していた。反省の色が見えないけど、もう抵抗する気はないみたい。
それにしても案外あっさり罪を認めるんだ…だったら最初からそうして欲しかったのに。
「お、なんだもう降参か?だったら最初からこんなことするなよ。…ほらお前らも!解決したから帰んな!」
…僕もそう思います。
人払いをしてくれて父さん以外はみんな帰って行った。たまたま近くを通りかかった警備兵に事情を話し、スリ男を連れてってもらった。
サイフを返してもらった女性は安心した顔を浮かべて、ありがとう、と言ってくれた。幸い中身は使う前だったらしく、お金は使われていなかった。
女性が帰った後、父さんは僕のそばにきてペタペタと顔を触る。
『大丈夫かルーク…額から少し血がでているな、帰ったら手当しよう』
父さんの優しい言葉にうん、と頷きダンさんへと体を向けた。
「ダンさん…で名前合ってますか?さっきの人達の会話が聞こえたので…」
「あぁ、俺はダン・インフェルノ。この先を少し歩いた中央通りで酒場を経営してる。気軽にダンさんって呼んでくれ」
ルークたちはお互い握手を交わした。
ダン・インフェルノ。持ち前の明るさと義理堅い性格で、周りからは親しみやすい存在であり、後輩からはとても慕われている人望が厚い男だ。
「はいっ!僕はルーク・ヴァンガルです。色々助けてくれてありがとうございました」
『我からも礼を言う。息子を助けてくれてありがとう』
父さんとダンさんが向かい合う。お互い身長が高いけど、父さんの方が少し高いかな。
フードから覗く翡翠の瞳にダンは違和感を覚えた。けれどそれは、いまここで言うことではないと結論づけ、言葉をのみ込んだ。
「…礼なんて言わないでくれ。本当は俺があいつを裁こうとしたんだが、出るタイミングが遅れたせいで怪我させちまった。すまねぇな、ルー坊」
る、ルー坊…?愛称、みたいなものかな?
「これくらいの傷、大丈夫です!それではダンさん、ほんとに助かりました。今日はもう帰ると思うのでこれで失礼しますね」
「もう帰るのか?…せめて手当させてくれ。そのままじゃバイ菌が入り放題だ」
血は止まったみたいだけど、確かに傷口は開いたまま。けれどそれをルークは断った。
「お気持ちだけ貰っておきます、家近いので大丈夫ですよ!」
「あ〜〜っ、分かった!そこまで言うなら諦めてやるさ」
「ありがとうございます。ではこれで」
“父さん”と一緒に歩を進めたルーク。ダンは何故そんなにも帰りたいのか疑問に思ったが、気にしないようにした。
「次きた時は是非ともうちの店に来てくれ!昼はレストランとして営業してるから、そんときはメシでも食べてけよーっ!!」
父さんと手を繋いで帰る後ろで、ダンさんからのお誘いをもらい、それにめいっぱい手を振り返した。
ダンさん…いい人だなぁ。気になったことがあると思うけど、あえて聞かないでくれたみたいだ。あんな大人になれたらかっこいいなぁ…。
『ルーク、お前の“ごほうび”はまた今度になりそうだ…すまない』
「うんん、平気だよ父さん。それにさっき見つけたの、ほしいもの」
『…なんだ?』
「あとで教えるね?もしかしたら出来ないかもしれないけど…」
『わかった、家に着いたら聞かせてくれ』
「うんっ!父さん、抱っこして?」
そう言うと父さんは無言で食材たちをおろして、腕を広げてしゃがんでくれた。僕はそれに飛びついて、首に手を回した。
片方を僕、もう片方を食材と両手いっぱいになった父さんはまた歩き出した。
「…ねぇ父さん?さっき、“息子”っていってくれたの、うれしかったよ」
恥ずかしくて父さんの方は見れなかったけど、ふっと笑ったのが聞こえた。ぎゅっと力を込めると、父さんも僕のことを強く抱きしめてくれた。
『…それは良かったな』
他人事みたいにいう父さんだけど、僕はしっかりと見た。首にうずめてた顔を少しあげて父さんを見ると、頬や耳が赤く染まっていたのだ。
『それより早く帰って手当だ。その後に、話を聞くからな?』
うん、と父さんの言葉に返事をしてまた僕は首筋に顔をうずめた。ゆっくりと歩くことで刻まれるリズムにいつの間にか僕は寝ていて、起こしてくれた時は家の中で、すでに手当が終わった状態だった。
伝説のドラゴンと暮らす少年 ~幼少期~ vivi @teenage
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